美の来歴㊸ ピカソとヘミングウェイの〈移動祝祭日〉 柴崎信三
〈ミス・スタイン〉がいたころのパリ
1903年のはじめ、ガートルード・スタインが兄のレオとともに移り住んだのは、パリのモンパルナスの北端、リュクサンブール公園に近いフルリュス街にある庭の付いたアトリエだった。まだ30歳にもならない女主人のガートルードは米国ペンシルベニアの富裕なユダヤ系の家庭に生まれ、一家で毎年休暇を欧州で過すうちにパリに移住して、美術品の収集のかたわらみずからも作家として小説や評論の筆をとった。そのアトリエはやがて、20世紀を代表する美術や文学の名作を集