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旬の〈苺〉を美味しく食べるケーキです!

今日ご紹介するのは、当店春の新商品〈フレズィエール〉。

春の限定商品〈フレズィエール〉

 このケーキの説明に入る前に、皆さんは〈フレジェ〉と呼ばれるケーキをご存知ですか? 〈ケーキ好きな方〉はもちろん知ってる? 以前に比べれば、ずいぶん〈メジャー〉になりつつあるフランス菓子の事です。
下の写真を見て頂ければ分かる通り、結構インパクトの強いヴィジュアル。フランスでは春の訪れと共にショーケースに並ぶお菓子で、苺をたくさん使って作るケーキなので、日本でも旬の〈美味しい国産苺〉が出回る時期→〈春〉限定で商品化されているお店が多い印象ですね。

出展:お菓子の基本大図鑑 監修=大阪あべの辻   
   製菓専門学校 エコールキュリネール国立 
発行者 野間佐和子 発行元 講談社

その〈フレジェ〉。
フランスでの、本当の発音は〈フレズィエ〉。それがなぜか日本では〈フレジェ〉と呼ばれていて…。カタカナ表記の問題は本当に根深い物がありますね。ため息が出てしまいますが、それはまた別の機会にでも。

その基本的な構成は、ジェノワーズ オ ザマンドやビスキュイ ジョコンドと呼ばれるアーモンド系のスポンジケーキを底に敷き、ヘタを取った苺を〈1粒丸ごと〉とんがりを上にして詰め詰めに並べ、その上にカスタードクリーム+バタ-の〈クレム・ムースリーヌ〉と呼ばれるスペシャルクリームを流して均し、最後に底と同様のスポンジで蓋をする、といったもの。
上面は、薄いマジパンでデコレーションをするのがクラシックな仕上げ方で、 私がホテル(コルドン・ブルーブティック)に勤めていた時も、その様なスタイルで販売していました。写真の様に、ベリー系のグラサージュをかけて仕上げるっていうパターンもアリです。

食感は、冷蔵状態で固くなる〈バター〉がメイン食材なので、必然的に固め。重いクリームに苺の重量も相まって、そのケーキ自体ズッシリしています。
味わいは、メインの〈クレム・ムースリーヌ〉と、咀嚼した時にイチゴから溢れ出てくる大量の苺ジュースとが口の中で混ざりあい、それが素晴らしいマリアージュに。
いわゆる、食べ手の口内で最終調理をし、その時点で完成するケーキとでも言いましょうか。そして、上下のアーモンドスポンジが、いい感じに両者を取り持っていて、そのアーモンド風味も素晴らしいマリアージュの一端を担っています。
シンプルに美味しい。
そして、私がこのケーキから抱く印象は

〈苺を美味しく食べる為のケーキ〉

そんな感じなんです。

実は、この〈フレジェ〉には、個人的にちょっとした思い出がありまして…。
一番最初の就職先、大阪心斎橋パットオブライエン(現在閉店)に勤め始めた頃のこと。
当時そのお店には、毎年新人に与えられる〈ミッション〉があって。
それは、毎年オーナー夫人の誕生日にケーキをプレゼントする決まりがあり、そのホールケーキは必ず、その年に入社した新人パティシエが作る!というもので(なぜそんな慣習が始まったのかは不明です)。
その年の新人は2名いたのですが、何故か私が1人で担当する事になってしまい。
で、そこで問題なのが、何を作るのか?
当然、駆け出しのパティシエにはレパートリーなんてありません。
仕方がないので、その当時持っていたケーキブック数冊から、誕生日ケーキとして使えそうな華やかなケーキはないか?と色々探していたところ、以前から気になっていた〈フレジェ〉と呼ばれるフランス菓子が目に止まりました。 苺の断面がダイナミックに見えているそのビジュアルに一目惚れ(笑)。

これを作ろう!! 

当時、食べた事もないケーキを作る事にした自分を〈凄い〉と思うと同時に、あまりにも〈恐れ知らず+無謀〉な自分の性格に、今更ながら驚いてしまいます。
いざ作るとなると、その〈フレジェ〉というケーキ。実は、フレッシュ苺が中にたくさん入るので、事前に作って冷凍しておく事が出来ない為、結局、奥様の誕生日前夜に、1人厨房に居残って作らざるを得ない事に。

で、当日いざ作り始めると、1度も作った事のないケーキなので思った通り四苦八苦。
本では四角いケーキなのに、無謀にも丸にアレンジした事で段取りが分かりにくくなり、更に、本に掲載されているより完成品を大きくした事で、仕込んだクリームが途中で足らず、後から作り足したり。更に、用意した苺が足りなくて途中で買いに走ったり…。当時はまだ携帯電話が普及し始めたばかりの頃だったので、本に書いてある事がよく分からなくても、今の様にネット検索するなんて事もできずで。
結局、終電ギリギリまでかかってしまいましたが、なんとかなんとか完成!
今の時代だと、出来上がったらすぐに写真を撮るところですが、当時はデジカメもなかったので写真を撮っておらず…。
ですが、思っていたより数倍素敵に出来上がった記憶はあります。そしてなにより、作っていて楽しかった記憶が!
肝心の味はというと、事前のイメージではもっと軽い味わいを想像していましたが、できた〈フレジェ〉は、濃厚なクリームに苺の香りと酸味が溶け合う、とっても美味しいケーキでした。
後日、「凄く美味しかったです」と奥様からの言付けを頂き、嬉しいのと同時にホッとしたのを覚えています。

その後、たくさんのケーキを様々な場所で作って今に至りますが、よくよく考えれば、私がパティシエになって初めて1人で作ったホールケーキがその〈フレジェ〉であり、初めてパティシエとして〈作る喜び〉を実感したケーキが、その〈フレジェ〉なのです。
思い入れが強くなるのも〈致し方なし〉です(笑)。

すみません。そろそろ、話を今回の新作ケーキに戻します(笑)。
春の新作にて、当店オリジナルの〈フレジェ〉を作りたい!と、そう思い立って試作に取りかかりました。正直に告白すると、実はそう決めて取りかかったのはもう数年前でして。そこから何度も思い立っては試作をし、いまいちでもう一度。またいまいちでもう一度。それを何度も繰り返し、先日ようやく、ようやく完成に至りました!

基本の〈フレジェ〉は既に私の頭の中にあるので、後はそれを、私の好みや経験・発想のフィルターを通し、進藤洋菓子店オリジナルの〈フレジェ〉としてアウトプットするのみ。
とっても簡単に聞こえますが、実際取りかかってみるとそう簡単ではなく…。試作を重ねても重ねても斬新な物は生まれず、オリジナルを越えられない平凡な物ばかりで。
そこで先日、大きく舵を切る決断に至りました。試作を重ねていく上で、クレム ムースリーヌの〈旨み・口溶け〉に納得がいかず限界を感じ、それを〈限界までクレム アングレーズを加えたオリジナルバタークリーム〉に置き換える事に。クレムパティシエール(カスタードクリーム)とクレムアングレーズ(バニラアイスのもと)は元々親戚同士の様な物なので、この置換は〈良し〉とする事に。
更に〈フレジェ〉はクリームの割合が多過ぎると感じていたので、スポンジケーキとの比率にこだわり、結果、クリームとスポンジは多層構造に変更。
その為、中にいた〈苺〉は追い出されてトップへ移動し、飾りとして並べる仕様に。
こうして出来上がった新作ケーキのヴィジュアルは、原形の〈フレジェ〉とはずいぶんかけはなれた物になってしまいました(笑)。
ですが、食べて頂くと必ず、私の〈フレジェ〉に対するリスペクトを感じて頂けると思います。〈フレジェ〉を知らない方にとっては、進藤洋菓子店オリジナルの〈美味しいバタークリームのケーキ〉といったところ。

構成は、進藤オリジナルレシピの〈超しっとりビスキュイジョコンド(アーモンドスポンジケーキ)〉4枚と、口溶け最高な〈進藤スペシャルバニラバタークリーム〉を層にして重ね、トップに苺3粒を飾っています。

私がお勧めする美味しい食べ方は、ちょっと食べづらいかと思いますが、やはり苺とその下のケーキ部分は一緒に食べて欲しい。前述した様に、口内調理してようやく完成されるケーキだと思っていますので。
もちろん、別々に食べても十分美味しいケーキなので、どーしてもの方はお好きなように(笑)。

この新作ケーキの名前は〈フレズィエール〉と名付けました。
フランス語っぽいネーミングですが、私の考えた造語です。ヴィジュアルがここまでかけはなれてしまうと、製菓専門学校で洋菓子を教えていた私としては、流石に〈フレジェ〉とは呼べないです(笑)。〈フレジェール〉とはせずに、少し言いにくい?かもしれませんが、本当の発音〈フレズィエ〉に忠実に〈フレズィエール〉としたのも譲れないこだわりです(笑)。

こちらのケーキは〈苺を美味しく食べる為のケーキ〉の為、国産冬苺が終わり次第終了とさせて頂きます。あと2~3週間、といった所でしょうか。
気になった方は、出来るだけお早めに。

では、いつも通り当店のお菓子は〈違いの分かる大人向き〉。
ご来店をお待ちしております。

【予告】
今年も7月から始まる〈パティスリーウィーク〉。今年のお題は〈サバラン〉。もちろん当店は今年も参加予定で、絶賛試作中。
こちらもご期待下さい!
ちなみに昨年のお題は〈エクレア〉でした。



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