見出し画像

デフレ脱却宣言?!

報道(*1)によりますと、政府が「デフレ脱却」を宣言することを検討しているそうです。「デフレ脱却」を宣言することは適切なのか?について考えてみます。

僕個人としては、日本の経済指標(特に消費、賃金)は芳しくないため、拙速な「デフレ脱却宣言」や金融政策の引締方向への変更は、すべきでない、という考えです。

政府が物価の上昇傾向を受け「デフレ脱却」を表明する検討に入ったことが、複数の関係者への取材で2日に分かったと、共同通信が同日報じた。

出典: *1 Bloomberg 記事

(*1) 政府が「デフレ脱却」表明を検討、賃上げや物価見極め判断-報道
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-03-03/S9QX57DWX2PS00


政府のデフレ脱却に関する考え方

政府は「デフレ脱却」をどのように判断するのか、経済財政諮問会議の資料(*2)で確認してみましょう。

(*2) 金融政策、物価等に関する集中審議資料 (2023.05.15, 内閣府)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2023/0515/shiryo_02.pdf

デフレ脱却の考え⽅:持続性・安定性の確認

政府は次のように「デフレ脱却」を捉えているようです。

  • デフレ脱却とは、「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」

  • 足下、消費者物価や賃金、予想物価上昇率に上昇傾向が見られ、価格転嫁も徐々に進んでいるが、その背景や内外の不確実性を十分踏まえ、物価や賃金の上昇が持続的・安定的なものとなるか各種関連指標(注)をきめ細かく見ていく必要
    (注)消費者物価やGDPデフレーター、需給ギャップ、単位労働コストなど。

デフレに関する4指標の動向

上述のデフレ脱却を判断するうえで、政府が参照している4指標の動向を見てみましょう。その指標は次の通りです。

  1. 消費者物価指数 (コア指数の対前年比)

  2. GDPデフレーター (対前年比)

  3. 需給(GDP)ギャップ

  4. 単位労働コスト ( 対前年比)

統計データを基に、2021年からの4指標をグラフにしてみました。

図1 : デフレ脱却の4指標 統計データを基に筆者作成
2023/10-12 GDPギャップは筆者推計

2024年1月までの消費者物価指数は、上昇幅の減少が続き、コア指数で2.0%となっています。

図2 : 消費者物価指数の推移 統計データを基に筆者作成

賃金の推移

毎月勤労統計調査(*3) を見ると、春闘では3%台半ばの賃上率だったにも関わらず、賃金上昇は鈍いことが分かります。

(*3) 毎月勤労統計調査 令和5年分結果速報https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r05/23cp/dl/pdf23cp.pdf

図3 : 図表出典 (*3) より引用

デフレ脱却に関するコメント

とあるエコノミストの方は、日経平均株価の好調さだけでなく、実体経済についても(デフレからの)転換の兆しが見えてきた、という主旨のご発言をなさっていました。
本当にそうでしょうか?上述の指標や、2四半期連続の実質GDPマイナス成長(2023年10-12月期は一次速報のため上振れの要素はありますが)、消費も弱い現況で、一体、何をご覧になったら、そのような評価になるのか、僕には想像もつきません。

岸田文雄総理大臣

岸田総理は、次のような現状認識だそうです。(今後変わる可能性はありますが)

岸田総理大臣は「再びデフレに戻る見込みがないと言える状況にはない」として、デフレからの脱却には至っていないという認識を示しました

(*4) より引用

(*4) 岸田首相“デフレ戻る見込みないと言えず”日銀総裁の発言受け | NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240302/k10014377221000.html


植田和男日銀総裁

現状は「インフレ」にあるという認識を示した植田日銀総裁ですが、
"2%の物価目標の持続的・安定的実現について、現時点で達成が見通せる状況ではないとの認識を示した" (*5) そうです。

(*5) 物価目標実現、今のところまだそこまでは至っていない=植田日銀総裁 https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/OER7I4AIYJI7FI4DR7HYM3HCYM-2024-02-29/

同じ日銀の高田審議委員は、気が早いようです。
"2%の物価安定目標の「実現がようやく見通せる状況になってきた」と述べた" (*6)

(*6) マイナス金利、迫る出口 日銀・高田創審議委員「2%実現見通せた」 - 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB291R90Z20C24A2000000/

まとめ

日本経済の様々な指標を注意深く点検すると「デフレ脱却」と言える状況にあるのか、否か、分かると思います。
大手メディアや、財務省・旧日銀に近い「有識者」が同じ方向(デフレ脱却が見通せた、マイナス金利解除しても良い、消費増税が必要、など)で情報発信するときは、注意が必要です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?