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おれがうとうたら、〝しごとうた〟と産業ソング



八十八夜でまた会いましょう──わざうた・しごとうた


今さら茶摘みのことを書いて恐縮です!(毎年五月二日ごろが八十八夜なのですが、今年はその話題にノリそこねました…。)


先日のあぶくたった(私達がやっている横浜わらべうたの会🍲)で 『♪おれがうとうたら』 を歌いました。

これは福岡の民謡で、八女茶が登場します。八女市のなかでも星野で収穫される茶葉が〝宇治の茶と並ぶ最高級品〟とされているとのこと。


調べてみましたが、いまは 『♪八女茶山唄』 という民謡を使った町おこしが真っ盛りのようで! 検索でも八女市といえばそれが出るくらい。
振付師の人にたのんで踊りをつけてもらい、さまざまなお祭りを行なっているとのこと。HPのデザインも素敵でした。(ちゃんとお金をかけているな!と思いました。)


八女茶山唄の歌詞を見てみると、「お茶がご縁」「八十八夜でまた会いましょう」という気になるフレーズがあります。

これは、この日と限られた八十八夜だけ、新芽の新茶だけを収穫するために人手が借り出されることが多かったので、ふだんは出会わない人々が出会う…という意味でした。
いろんな村々から参加してくるため、そこで知り合う男女もいた(!)とのこと。まさしくお茶によるご縁です。


あぁ、ということは、初めて会った人同士の気持ちをほぐすためにも〝しごとうた〟が役立ったんだろうな〜〜!と思いました。


──わらべうたの中では、お手玉やまりつきなど、技巧的な遊びにかかわってくる歌をわざうたと呼んだりしますが。それと似た概念で、民謡のなかにはしごとうたという分類をみることがあります。

人と動きを合わせたり、長く苦なく持続させるのに、歌が有効。子どもの世界のわらべうたとわざうた、大人の世界のしごとうた。(あくまで後世の人間が考えた、便宜的な分類ではありますが。)

技も仕事も、うたわれていた場面を知ると、歌の理解がはかどります✨

例えばお茶に関するしごとうただと、茶摘み唄と、茶揉み唄があって……。茶揉み唄のほうが、リズムがちょっと技巧的らしい。なるほど、おもしろい!

わざうたも、しごとうたも、リズムがイキイキとしていると感じられるのは、身体運動と的確に紐づいているからでしょう。
歌がもともとあった世界の光景、うまれてくる場面を体験してみることが、拍とリズムを身をもって理解することだろうと思います。


余談。ジブリの『もののけ姫』にも、しごとうたが登場します。「ひとつ ふたつは 赤子もふむが みっつ よっつは 鬼も泣く 泣く…」そう、タタラ踏みの場面です! 
三日三晩、踏みぬくんだ、とタキさんの台詞にあります。

あの重労働は、たしかに、歌でもうたわんと体も気持ちも砕けそう……。
気晴らしとしても、仲間との協調としても、場面的な力を発揮するために歌を欲するんだなぁ、人というものは。




新民謡という土地の産業ソング


一方で、しごとうた、っぽく感じられるイキイキした歌のなかにも、観賞用に創作された歌はあります。


例えば『ちゃっきり節』は、北原白秋作詞・町田嘉章作曲、静岡電鉄が依頼した観光PRソングだと知られています。当時から新民謡と呼ばれていたそうです。

……そう、作曲が町田嘉章先生なんですよ!!☺️ 

岩波文庫のわらべうたの本を愛読しているので、お名前をちゃっきり節に見つけたときは、いろいろ繋がった気がして嬉しかったです✨ 

北原白秋も相当わらべうたを研究していた人です。地方の言葉と生きた動きを、しっかり分析・理解できるお二人で作ったからこその、〝新民謡〟だといえるかもしれません。

町田嘉章先生、『日本民謡集』のなかにも、
「これは創作だけどとても優秀なうたなので入れときます」という理由でシレッと自分の作曲したちゃっきり節を入れてて。笑 おもしろ!って思いました。


現在、我々がなんとなく伝統に分類しているものでも、近代以降の創作であることが少なくありません。

その代表が盆踊りだと思います。相当数が、政府につくることを奨励された昭和のご当地ソングであり、産業ソングなのです。(もちろん古くからある詠み人知らずの盆踊りもあります。)

だから良いとか悪いとかではなく。知っておくことが大事だよね、ということ。

炭鉱やトンネル事業が特に有名ですが、そのお仕事のために家族で移り住んでくる人が多かった地域は、みんなの心をひとつにする歌の力を求めたというのはありますよね。
これは、八十八夜の茶摘みのために、ほうぼうの村から集まった人の心をほぐした茶摘み唄と、根っことして同じものがあるのだろうと。そう思います。



『日本民謡集』
『わらべうた(日本の伝承童謡)』浅野健二・町田嘉章
👆愛読書! 好きです。

『日本童謡集』与田凖一
👆ついでに!(?)  これは、「ミルクをのむと、僕になる」の詩で我々にはおなじみの、与田凖一さんが編纂しています。






たのみん・ふるみん


すこし話は脱線しますが……。

叔母が地域で踊りを習っておりまして。
民踊(みんよう)の世界のことを教えてくれました。

前述した八女茶山唄もそうですが、近世ふりつけされた踊りは多く。(だいたいの盆踊りもそうです。)伝統との区別が必要になってくるとのこと。

創作→楽しい民踊→たのみん
伝統→古くからある民踊→ふるみん


たのみん、ふるみん!!!
(名付けセンスがすごすぎる、キャッチーだ……。)
わらべうたの世界に羽仁協子がいたように、民踊もパイオニアとなった指導者がいて、その方が名付けたらしいです。なるほど〜。


そう、必要なのは区別、どちらが良いとか悪いとかでなく、創作か伝統かの整理がいるってことですね。


(叔母と話があうのが嬉しいいっぽうで、お前も民踊をやってくれ!と勧誘をうけると、なかなか悩ましい私の今日この頃です。笑)

パイオニアになる人は、整理と分析がうまい上に、相手の求めるものを悟ることのできる人だなと思いました。

人に伝えていくということは、相手目線で話す言葉を考える、ということなのかもしれません。




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