品田 充儀(Mitsugi Shinada)

労働法、社会保障法の大学教員を経て、厚生労働省労働保険審査会の委員・会長として、9年間…

品田 充儀(Mitsugi Shinada)

労働法、社会保障法の大学教員を経て、厚生労働省労働保険審査会の委員・会長として、9年間数千件にわたる労災及び雇用保険の事件を担当してきました。職場の問題点と改善方法、さらには法的判断の内幕等を、弁護士、社会保険労務士、産業医、労基監督官、及び企業経営者の方にお伝えしていきます。

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読者の皆様へ

 新型コロナウイルスの蔓延により、多くの企業並びに労働者が苦境に立たされています。すでに、企業倒産が頻発し、大量の解雇者が出る事態となっていますが、おそらくこうした急性期が過ぎた後には、雇用関係や雇用環境をめぐる様々なトラブルが生じてくるのではないかと考えます。「働き方改革」を後退させることなく、むしろ「災い転じて福となす」ことを目指して、アフターコロナの雇用社会を展望し、具体的かつ有用な提案をしていきたいと思います。そして、私の意見への質問や批判を契機として、議論が巻き起こ

    • 最低賃金1500円の要求は、無謀なのか? -若者の生活苦と人口減への危惧-

       全労連が最低賃金を1500円に引き上げるべきだとする会見を行った。現在、900円ないし1000円という水準にある中での1500円という要求額に対しては、事業主のみならず、マスコミもやや冷ややかな態度を取っているように感じられる。毎年、1円2円の攻防になる全国及び地方の最低賃金審議会の動向を知っている私としても、確かに実現性の薄い要求額であり、世論に訴えることを狙ったアジテーションの域を超えるものではなかろうと感じている。しかしながら、日本の近未来を考えた場合には、同要求額は

      • 日本のコロナ対策は、なぜ後手に回ったのか? -政治・行政の貧困を嘆く-

         ワクチン接種は進められているものの、事態終息の兆しは未だ見えてこない。オリンピック開催というタイムリミットがあるためか、国及び東京都の焦りは、やや常軌を逸しているようにみえる。緊急事態宣言による営業停止範囲の不一致、ワクチン接種の無計画さとその手続きの混乱ぶりなど、およそ先進国の所作とは思えないことが連続している。もっとも、コロナ禍が始まって以来、アベノマスクや国民に伝わらない横文字ワードの羅列など、混とんとした政策はずっと続いており、今に始まった混乱とは言えない。日本の政

        • 第40回 新たな法の枠組みによる精神障害者救済の必要性

          1.特例措置の事後処理の難しさ  国家の非常時に、様々な特例が出されることは珍しいことではない。幾度となく大規模な災害を経験してきた日本の場合、事態収拾のために法を制定し、即応する体制を整えるようなことは過去何度となくあった。しかし、この度のコロナ禍における各種の特例措置は、その規模や内容において群を抜いており、もはや論理の域を超えた現実対応であったといえる。例えば、国民一律に給付金を配布し、フリーランス等には100万円もの持続化給付金を与えるといった施策は、これまで細かな要

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          第39回 労災保険における事業主側からの不服申立ての可能性と問題点(2)

          1.事業主からの不服申立てを是認する判決  不当な労災認定によって保険料が引き上げられたことを不服として、当該保険料引き上げ処分の取消しを求めた有名な事件として、医療法人社団総生会事件(東京高判平成29年9月21日)がある。同事件は、従業員である医師に発症した脳出血について、業務上の災害であると判断されたことによりメリット制が適用された結果、年間の労災保険料が600万円以上も引き上げられることになったため、事業主が、そもそも労災であると認定した処分が違法なものであり、同処分に

          第39回 労災保険における事業主側からの不服申立ての可能性と問題点(2)

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          第38回 労災保険における事業主側からの不服申立ての可能性と問題点(1)

          1.労災メリット制とは?  労働者が業務に起因する過労死や精神障害であると認定され、労災保険が適用されることになった場合、当該労働者が勤務していた会社の労災保険料率は引き上げられる可能性がある。通称メリット制と言われる同システムは、3年以上の労災保険適用歴がある一定規模以上の会社に適用されるもの(「特定事業主」という)であるが、その引き上げ率は、場合によってはかなり大きなものとなる。制度の詳細は省略するが、メリット料率が適用されることとなると、保険料はおおむね40%まで増減す

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          第37回 労災保険・給付基礎日額算定の困難事案

          1.厳格さが要求される給付基礎日額の算定  労災保険における審査及び再審査事件としては、業務外(通勤途上外)判断に対する不服が最も多く、これに障害等級に対する不服が続くのであるが、実は、労災認定がなされた後に、(補償)給付額の基礎となる日額の算定について不服があるとする例もかなり多い。例えば、給付基礎日額が100円少なく見積もられると、月額の休業(補償)給付の額は3000円少なくなる。この額でも決して無視できないものであるが、これが障害(補償)給付や遺族(補償)給付になると一

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          第36回 信頼関係のある職場構築のための処方箋 -職場の不整脈の傾向と対策-

            1.はじめに  いよいよ新しい年度が始まり、会社は新入社員を迎え入れることとなった。未だパンデミックの影響が続く現状において、新入社員も大変であろうが、受け入れる企業側も様々な苦労があるものと思われる。おそらく、ほとんどの産業において企業経営の環境は大きく変わっているものと思われ、新入社員の研修や仕事の内容にも変化が生じるものとなろう。昨年の春は、突然に襲ってきたパンデミックに混乱し、採用内定の取消しや他社への出向などが問題となったが、さすがにこの春はそのような報道は耳に

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          第35回 労災認定における医学的因果関係をめぐる諸問題(2) -判断困難事例ー

          1.業務上疾病の種類  業務に関連して発症したとされる疾病については、真に業務が引き起こしたのか、あるいは本人の既往症等が誘因となって、たまたま業務中に発病に至ったものなのかの判断が難しい場合が少なくない。日本の場合、業務上の疾病であるか否かは、①業務上の負傷に起因する疾病、②例示疾病、③大臣指定疾病、④包括規定疾病のいずれかに該当することを求められるが、基本的にはそれぞれについて医学判断のもとに決定される。一般的に言えば、②例示疾病や③大臣指定疾病については、従事した業務と

          第35回 労災認定における医学的因果関係をめぐる諸問題(2) -判断困難事例ー

          第34回 労災認定における医学的因果関係をめぐる諸問題(1) -職業病についてー

          1.労働災害の現状  労働災害は近年減少傾向にあり、私傷病者数も大きく減っている。高度成長期には、年間6000人を超える死者数がいたが、近年は1000人を切るまでとなっている。危険有害業務が減っていることと、職場の安全衛生への意識や管理が整ってきた成果であると考えて良かろう。もっとも、死者数に比べると負傷・疾病者数は近年下げ止まっており、業種によっては増加傾向を示している。労働災害といえば、建設業や運輸交通業など、一定の危険を伴う職種をイメージすることが多かったが、こうした業

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          第33回 年次有給休暇の取得率を引き上げる方法

          1.在宅勤務への期待と不安  コロナ禍が収束した後、定着しつつある在宅勤務がそのまま拡張していくのか、大いに興味を持っている。もし、在宅勤務がこのまま拡がりを見せれば、日本人の生き方は大きく変わるのではないかとの期待があるからである。都市部への人口集中、ラッシュアワー、育児に参加しない男性、地域のつながりの希薄化など、働き方そのものに関わらない社会問題への波及効果も小さくないと考えられる。生き方を変えるためには、働き方が変わらなければならず、働き方を変えるには会社が変わらなけ

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          第32回 職場における世代交代の意義と課題(2) -高齢者雇用の条件-

          1.定年年齢引き上げの背景  定年年齢の引き上げや定年制の廃止が提唱されているが、これを批判する声は聞こえてこない。労働力不足、老齢年金への不安、年齢差別禁止への同調、さらには、そもそも働くことが好きだという日本人の特性など、その背景や理由はいろいろと考えられる。会社に高齢労働者が滞留することについて苦々しく思う若年者がいたとしても、表立って批判はできないであろうし、自分も定年引き上げの恩恵を受けられると思えば納得するしかないということなのかもしれない。  安定した職に就いて

          第32回 職場における世代交代の意義と課題(2) -高齢者雇用の条件-

          第31回 職場における世代交代の意義と課題(1) -連帯感が失われる要因-

          1.オリンピック組織委員会会長人事問題で感じること  オリンピック組織委員会の森会長の差別発言と後任人事問題に揺れているが、過熱しすぎと思われる報道もやっと沈静化しつつある。政治家や著名人による失言は、日本に限ったことではないものの、日本の場合、そのレベルの低さには閉口してしまう。あらゆることが映像や録音に記録される現在、口が滑ったなどという言い訳は通らない。国民総監視社会の現実は、もはや中国だけの話ではないのである。  様々な会議において議長を務めてきた経験で言えば、話をま

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          第30回 通勤災害の認定判断をめぐる問題点 -詳細な判断基準の功罪-

          1.通勤方法が多様な日本  在宅勤務や時差通勤が増加していることもあり、都市部の通勤ラッシュはかなり緩和されていると聞く。おそらく、コロナ禍が落ち着くと、再び通勤地獄が始まるものと思われることから、ほんのひと時の現象に過ぎないのであろう。通勤中の災害を補償対象にするという動きは1970年代のILOの勧告に基づくものであり、日本のみならず、先進諸国においては同様の取り扱いがなされている。もっとも、私の知る限り、通勤の定義や認定基準について法や解釈例規において詳細に規定するような

          第30回 通勤災害の認定判断をめぐる問題点 -詳細な判断基準の功罪-

          第29回 ジョブ型雇用は拡大するのか? -労働契約への法規制という「足かせ」-

          1.ジョブ型雇用の定義  アフターコロナの変化の1つとして、ジョブ型雇用が広がるとの予測がある。ジョブ型雇用とは、2020年7月17日に閣議決定された「骨太方針2020」の定義によると、「職務や勤務場所、勤務時間が限定された働き方等を選択できる雇用形態」であるとされているが、一般的には、あらかじめ職務記述書に明示されている職務内容(ジョブ)について、一定の経験やスキルを有する者が応募し、成立する労働契約を指すものであると理解されている。欧米では、こうした形の契約が主流であり、

          第29回 ジョブ型雇用は拡大するのか? -労働契約への法規制という「足かせ」-