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第4回:当事者どうしの協力:野球チームの合流 -協働する相手と全体像を共有する-

紅葉山FCが利用している市営グラウンドが、近隣住民からの苦情によって使えなくなってしまいました。まだ状況がよく分かっていないものの、他の利用団体が苦情の原因となっている可能性があるため、これまで交流のなかった他の利用団体と連絡をとり始めました。

翌日の4月7日(火曜日)、高宮監督は、野球チームとフットサルグループの代表にそれぞれ連絡して、市営グラウンドの利用再開に向けて協力を呼びかけました。

野球チームの代表である松嶋は、高宮監督からの呼びかけに対して好意的でした。野球チームの方でもちょうど対応を話し合っていたところで、ちょうどいいタイミングで高宮監督からの連絡があったようでした。松嶋から、なるべく早いタイミングで話し合いの場を持ちたいという要望があったので、翌日の晩に予定されている紅葉山FC幹部メンバーの会合に参加するようお願いしました。

一方でフットサルグループの白鳥の反応は冷たいものでした。白鳥によると、フットサルグループは市営グラウンドの利用を早々にあきらめて他の練習場所を見つけており、今後市営グラウンドを利用する予定がないため、本件については行動する意味がないとの事でした。高宮監督としては、あまりの素っ気なさに若干落胆しましたが、そのような状況で無理強いするわけにも行かないと判断し、了承しました。

そして8日(水曜日)、再び紅葉山FC幹部メンバーと、野球チーム代表の松嶋が、会計担当である沢崎の事務所に集まりました。まず高宮から幹部メンバーに松嶋が紹介された後、松嶋から野球チームの現状について話してもらいました。
松嶋によると、野球チームもやはり紅葉山FCと同時期に市から連絡を受けており、それ以来練習ができなくて困っており、理由とされている迷惑駐車に関しても、野球チームには心当たりのある者がいないとのことでした。

高宮:そうですか。いや実はうちでも迷惑駐車には誰も思い当たらなくて.....そうすると残るはフットサルグループなんですけど、彼らはもう市営グラウンドを使わない予定らしくて、もう「我関せず」って感じなんですよ。

沢崎:それどういうこと?

高宮:昨日フットサルグループの代表に電話したんだけど、彼らは既に他の練習場所を見つけたから、何も困らないらしいんだ。まあフットサルは我々よりも狭い場所で練習できるからだと思うけど。

近藤(渉外担当):でも彼らの協力が得られないと、クレームに繋がった問題がどんな状況だったのか確認できませんよね。このへんが分からないと謝罪のしようもない......ちょっと私からも彼らとあらためて話してみますよ。

高宮:そうだね、じゃあ近藤さんお願いします。

松嶋:近藤さん、よろしくお願いします。グラウンドの利用再開を実現するためには、クレームの主に対して謝罪しなければならないと思いますし、謝罪を行うためには事実確認が不可欠だと思いますので。

一方、もうひとつの懸案であった自治会長との面会については、近藤が日程調整を試みたものの、今週いっぱいは旅行で不在のため面会がかなわないことが報告されました。

高宮監督としては、なかなか時間がかかりそうだとは思いつつ、野球チームの松嶋が協力的なことが心強いと思いました。ただフットサルグループの協力が得られていないのが不安材料として残っており、これが今後どうなるのか、気がかりではあります。


【今回の場面における緊急事態対応の勘どころ】

他の団体へ協力を呼びかけたところ、野球チームについては紅葉山FCと同じように練習ができなくて困っていることと、迷惑駐車に心当たりがないことがわかりました。両チームの間では利害が一致しているということで、今後は協働(※A)がスムースに進みそうな感触が得られていると思います。特に、協働を始めた初期の段階で、課題の全体像や(※B)、それを解決するためのプロセスに関する認識が共有できていることが重要です(※C)。

一方でフットサルグループからの協力が思うように得られないという状況です。しかしながら、紅葉山FCも野球チームも迷惑駐車に心当たりが無いことから、フットサルグループの協力を得られるかどうかが、今後の鍵を握る可能性があります(※D)。

本連載は緊急事態対応に関するノウハウが体系化された国際規格「ISO22320」を拠りどころにして書かれています。今回の場面における緊急事態対応の勘どころがISO 22320の2018年版に記載されている場所は次のとおりです(アルファベットA〜Dは上の ※A〜D に該当します)。

A:4.4 協働
B:6.2.2 全体像を見る
C:6.2.1 同一のインシデント管理プロセスの共有
D:5.2.1h 他の組織との関係


イラスト:上倉秀之

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