夏をみる人
あなたは夏をみる人だ
うつむいたレースのカーテン越しに
あなたは白い夏をみるひとだ
窓辺にもたれながら、口をすこし閉じて
花模様のレースの編み地には
猫の引っ掻き傷ととれない汚れがほほえましい
編み目が透明なガラスをはさんで 庭を映す
手入れをしない原生林のようなみどりの庭を
あなたは好む
それでもやや正面右の猫の墓たちの
周りはおしろい花や紫陽花を植えて
「移り気」という花言葉を思いながら
あなたはもう 見られている
紫に朽ちかかった萼、猫たちの瞳から
一枚のガラスと編み目を通して
風は聞こえない
梅雨のなごりのにおいさえ
振り向いたあなたは
わたしをみる わたしに見られている
夏の陽光を背にうけたあなたは
レースのこちら側で
白い夏をみるひとだ
✳️詩集『死水晶』より、「夏をみる人」。
やはり2016年の作品。妻と妻宅の情景を詩ってみた。視線に注目されたい。10年以上のブランクを経て詩作に復帰したこの年は思うままに変幻自在のスタイルで詩が書けた。どこかに投稿してとか誰かに認められたいという以前に、書くこと自体を楽しめた時期だった。したがって未発表のものが多い。詩集ではまだいくつかこの時期のものがあるが、次回からは第2章にある1974年(私は24歳)から数篇選んで掲載してみたい。いわゆる若書きの時代である。
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