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【映画】良い旅をするためには、一休みも必要~「青春18×2 君へと続く道」

今回も自分の中で余韻覚めやらぬ、映画「青春18×2 君へと続く道」についてお話したいと思います。前回のnoteはどちらかというと、丁度台湾旅行をしていたこともあり、舞台でありロケ地でも台南を訪れていた話を中心にまとめたため、ストーリーの核心には触れないように心がけてみました。が、こちらは一転、「映画」ネタのカテゴリーとして、鑑賞した際に感じたこと、そして今まで心に残っていることなどを綴っていきたいと思います。結論・・・とにかく素晴らしい!!!(2回目笑)


改めてストーリーの確認から

始まりは18年前の台湾。カラオケ店でバイトする高校生・ジミーは、日本から来たバックパッカー・アミと出会う。天真爛漫な彼女と過ごすうち、恋心を抱いていくジミー。しかし、突然アミが帰国することに。意気消沈するジミーに、アミはある約束を提案する。

時が経ち、現在。人生につまずき故郷に戻ってきたジミーは、かつてアミから届いた絵ハガキを再び手に取る。初恋の記憶が蘇り、あの日の約束を果たそうと彼女が生まれ育った日本への旅を決意するジミー。東京から鎌倉・長野・新潟・そしてアミの故郷・福島へと向かう。鈍行列車に揺られ、一期一会の出会いを繰り返しながら、ジミーはアミとのひと夏に想いを馳せる。辿り着いた先で、ジミーが知った18年前のアミの本当の想いとは・・・。

公式ホームページより抜粋

ストーリーは主人公ジミーの33歳の現在と、18歳当時の過去が交互に描かれていきます。『「SLAM DUNK」に熱中し、バスケットボールが生きがいだったジミーは足の怪我によってバスケ人生を諦めることに。ショックからゲーム三昧の放蕩生活を送るジミーを見かねた友人がカラオケ店でのアルバイトへ勧誘する。当初は気乗りのしないジミーだったが、そこへ日本から来たバックパッカーの女の子が現われて・・・』という、この流れだけでタイトル通り「青春」ですよね、遙か昔の学生時代を思い出すような感覚に陥りました(ま、こんな出会いはありませんでしたが・・・笑)。

こんなお姉さんがいたら・・・絶対好きになるはず!

清原果那さん演じるアミもまた魅力的に描かれています。常に笑顔で周りを元気にしてしまう不思議な力を持った天真爛漫な女の子。一気に周りとの距離を詰めてしまい、一躍お店の「看板娘」に。言葉の違いであったり、コミュニケーションで戸惑う姿などが結構リアルに表現されていたのも良かったと思います。ま、正直、きっと台湾の若い人たちは英語が通じるので、本当だったらアミとも片言ながらも英語でやりとりしたんだろうな・・・とは思いましたけどね。

あの時、想いを伝えていたら、未来は変わっていただろうか。

これは公式サイトから拝借しました。人間誰もが思うであろう「後悔」の一つ、「あのとき、○○していたら・・・」ってやつですね。恋に奥手のジミーはアミになんとか想いを伝えようとするんですが、案の定、なかなか伝えられない。しかもアミもどことなく「脈あり」な感じを見せつつも、正式にYESとは言わないわけで・・・(ま、このあたりが後半の伏線になっているわけですが)。このあたりは36歳になったジミーが日本を旅する間に、いろいろと逡巡する中での大きなテーマであったように思います(ま、こちらについても後半にサプライズが待っているわけですが)。人生、こんなことばっかりじゃないですか、多分、人間という生き物がそういう風にできているんでしょうね。このあたり、主演のお二人の演技が見事で、双方共に気持ちが痛いくらい伝わってきました。

「良い旅をするためには、一休みが必要」

この映画の中で、一番心に響いたのがこのセリフでした。劇中、ジミーが日本を旅する中で立ち寄った、松本のとある居酒屋の看板に書かれていた一言。そして偶然、このお店の主人がなんと台湾出身!まあ、なんとも映画的な出会いではありますが、こんなことにツッコむだけ野暮というもの。そこで主人は(いろいろな意味で)傷心のジミーにこう言って励まします。

話は変わりますが、映画とかドラマ、本などでは、主人公やその境遇、世界観に移入する事ってありませんか?私の場合、まさに現代のジミーの気持ちに痛いほど共感してしまい、このシーンは鮮明に記憶に残っています。劇中、ジミーは自身が学生時代の友人たちと作ったゲーム会社のトップを降ろされてしまい、会社から去ってしまいます。そんな「戦い」に敗れた心境が数年前の自分にどこか重なるように感じたのです。(もちろんレベルは全く異なりますが・・・)

そんなところで店主がジミーに「良い旅をするためには、一休みが必要」と声を掛けます。これを私は「大きく跳ぶためには、一旦かがまなければならない」という例えと同じようなメッセージを感じ取りました。「人生という長い旅路の途中、ちょっと一休みしたっていいんだ」そんなふうに肩を押してもらったような感覚とでもいうのでしょうか。

ここで「Love Letter」はズルいでしょう(笑)

そして二人が初デートで見る映画がなんと「Love Letter」ですよ!もうね、ドンピシャすぎてやばい(笑)。前回も書きましたが岩井俊二リアタイ世代としては、彼が手掛けた初期のテレビドラマにどれだけ衝撃を受けたことか!とにかくすべてがこれまでの日本映画とは全く異なるテイストでした。音楽の使い方、映像の美しさ、ロケ地のセレクトのお洒落感などなど。さらにはエンドロールもオールイングリッシュ!どこまでカッコいいんだ、と多くが思ったはず。そんな若き俊英が手掛けたデビュー映画が「Love Letter」。日本のみならずアジアでも大ヒットし、主演の中山美穂さんが劇中で叫ぶ「お元気ですかー!」がアジア圏でも大流行したというのも話題になりました。それがこの映画で再現されるとは!!当時の岩井ファンとしては感涙ですよ、本当に(笑)。

この旅でジミーは何を得て、何を思い出し、何と向き合うのか?

「僕にとってこの映画の主軸は、全てを失った36歳のジミーが旅を経て何を得て、何を思い出して何と向き合うのか。だからこそ誰かにとっては恋愛映画で、また別の誰かにとってはロードムービーであり、成長物語でもあると思います」(藤井道人監督)

公式サイトより

これは公式サイト内で藤井監督が語られている言葉の一部です。監督によるとこの作品は恋愛映画であり、ロードムービーであり、成長の物語だとおっしゃっています。この言葉を聞いて、心にストンと落ちたのは、このように重層的に作られているからこそ、心に残り、さらにはいまだに余韻が覚めない作品に仕上がったのではないか?と思ったんです。ひとつひとつはシンプルにジミーとアミの恋愛映画でもあるし、ジミーの旅行記(ロードムービー)であり、彼の成長の物語でもある。が、それらが複雑に絡みあい、さらに深みのある核心へと終盤に向かうにつれて我々に驚きとともに、より一緒の感動が描かれているのです。


以下はネタバレとなりますので、未鑑賞の方はその旨をご理解いただいたうえでご覧ください。

そしてアミのもとへと訪れるジミー

皆さん、このサプライズはどう感じられましたか?只見に到着し、松重豊さん演じる地元の方とのやりとりから、なんとなくそうなんじゃないかなと思いますよね?そしてアミのお母さんがジミーを自宅に招くがアミは出てこない。このあたりで不安は的中し、「やっぱりそうだったのか・・・」というのが一つ目のサプライズ。そこからこれまでジミー目線だった台湾でのストーリーがアミ目線でダイジェスト版として描かれます。このあたりの作りが本当に素晴らしすぎる。もう一回改めてリピート鑑賞したくなりますよね。

そして最大のサプライズはジミーがすでにアミの結末について知っていたということでしょう。これには本当に驚かされました。ということは、この旅はアミの死を知っていたうえで、彼女としっかり相対することで、自分自身の中での「アミへの思い」に、一区切りをつけようという旅だったのかもしれませんね。そういう風に見てみると、日本パートでは常に浮かない表情だったことにも合点がいったように感じました。てっきり仕事の件でのショックから、ああした様子だったのか、と思っていたのですが、いやいや、もっと深い、18歳の時に感じた「思い」を、酸いも甘いも嚙み分け必死で生きてきた36歳の自分がその思いに「決着」をつけるための旅だったのか、と。


まとめ~事前情報なしが功を奏した好例

そもそもこの映画に関しては、台湾が舞台だということ、恋愛映画だということくらいしか知りませんでした。そして藤井監督に関しても、お名前は存じていたのですが作品は未見でしたので、あまり予備知識なしでこの映画を見たことが逆に良かったのかなと思いました。ストーリー展開も過去(台湾パート)と現代(日本パート)がちょうどいい塩梅で交互に描かれ、ダレることなくテンポよく進んでいきます。まあ、日本パートの旅先で出会う偶然の旅行者たちに関しては、一部否定的なコメントもあるようですが、実際、旅をしているとああした出会いってあるんですよね、ですから、私はむしろ良かったと思います(特に黒木華さん、よかったですねー)。

映像も劇中の音楽もよかったですし、何より脚本の出来の良さは特筆すべきでしょう。また公式サイトでも紹介されていますが、今回は日台合作ということで、双方からスタッフが結集したわけで、言葉の違い、風習の違いなどを乗り越え、「いいものを作るぞ!」と意気投合した結果がこのような素晴らしい作品に仕上がっていったのだと思います。


ま、強いて言えば、私はミスチルファンなのですが、この映画の場合、ラストに敢えてミスチルを持ってこなくても、インストといいますか、劇中の音楽がとてもよかったので、そのまま流してもよかったのかな、と思いました。もちろんミスチルの音楽もよかったんですが、なんとなく私は余韻をしっとりと迎えたかったので、ボーカルなしのインストを聞きながらエンドロールに浸りたかったな、と。繰り返しますが、ミスチル好きの私が敢えて言うくらいですので、そのあたりはご了承くださいね。とにかく素晴らしい作品に出会えて本当に良かったと思います。ぜひ、ロングラン中ですので、未見の方は映画館へ!


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