【男は宿命の果てに何を見る】映画『ノースマン 導かれし復讐者』感想
これは血塗られた宿命を背負った男の復讐譚。
『ノースマン 導かれし復讐者』は1月20日から公開している映画だ。『ウィッチ』、『ライトハウス』のロバート・エガース監督の3作目にあたる作品となる。
エガース監督の過去作品に比べると、その世界観は大きく広がっている。
過去2作は閉じられた空間で登場人物の狂気が高まっていくという点で共通していたが、今作でその狂気は外に向かう。
物語として分かりやすくなった分、過去作に比べると狂気も薄まっているように感じた。
当時の文化をできる限り忠実に再現したらしく、風習や伝統の描写を観るだけでも充分に面白い。
リアリスティックに描かれた物語に、時折ファンタジックな描写が挟まれるのも特徴的。「今見ているものが現実か幻か分からない」というシチュエーションは過去2作にも共通していた演出だ。これはエガース監督の作風なのだろう。
美しさと血と暴力が共存している映画で、アイスランドの美しい景色に魅せられる反面、残虐な行為では思わず目を伏せてしまう。
ヴァイキングたちが村を襲撃する場面は残虐ながらもテンションが上がる。あのシークエンスをカメラ1台で撮影したのが凄い。
映像も素晴らしいが、個人的に印象に残ったのは音の使い方だ。
襲撃前の鼓舞するよう音楽や儀式の時の切迫感のある音楽は観てるこちら側まで追い込まれた。爆音上映してる映画館があるのも納得で、Dolby AtmosやIMAXで上映していたら、そちらで観たい思う。
キャスト陣の作りこみも素晴らしく、アムルートを演じたスカルガルドの仕上がりっぷりは凄まじい(首回りの筋肉の付き方は凄い)。
いちファンとしてはアニャ・テイラー=ジョイに可憐さに特に魅了された。
この監督の『ウィッチ』でアニャを好きになったので、今作でも期待していたが、本当に魅力的に撮られている。アニャ好きには本作を強くお薦めしたい。
物語はアムルートの1人旅という訳ではなく、オルガという女性が相棒的な役割として活躍する。これは意外に感じた点だった。恐らくもとになった伝説ではここまで女性に焦点を当てて描かれていないのではないだろうか。
オルガ以外にもニコール・キッドマン演じる王妃など、男性が肉体的な強さを強調して描かれてるとしたら、女性は賢さが強調して描かれている。決して男の添え物として扱われていない。
こうした女性たちの描き方からはアップデートされた価値観も感じられる。
復讐に囚われていたアムルートだったが、オルガと出会ったことで狂気の感情から解放されていく。この描写もこれまでのエガース監督の作品の主人公たちと比べると逆である。
宿命の道を突き進んだアムルート、最後にその胸に浮かんだ思いは何だったのか。
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