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【岩井俊二監督の集大成として】映画『キリエのうた』感想

岩井俊二の監督の集大成的な作品だと思った。
映画『キリエのうた』は『リップヴァンウィンクルの花嫁』、『ラストレター』の岩井俊二監督による最新作だ。

東京でストリートミュージシャンとして生きるキリエと彼女のマネージャとなる謎めいた女性イッコ。「彼女たちは何者か?」、映画は2人の過去を遡りながら彼女たちの運命も描いていく。

主演は2023年の6月に解散したガールズグループ「BiSH」のメンバーとして活躍してきたアイナ・ジ・エンド。共演に『ラストレター』にも出演した広瀬すず、『すずめの戸締まり』の声優で注目を集めた松村北斗、『リップヴァンウィンクルの花嫁』で主演をつとめた黒木華などが名を連ねる。

2023年製作/178分/G/日本

観終わった率直な感想としても楽しめたが疑問に思う場面も多い映画だった。
終盤まで「これは一体どういう話なんだろう?」という気持ちがまとわりついたままだった。

そう感じた理由は2つあって1つは時系列の弄り方
本作は現在と過去が複雑に絡み合っており、パズルのピースのように埋まっていくことで全体像が見えてくるという構成になっている。

それ自体は面白いのだが少し自由過ぎる。
過去パートで回想が始まったと思ったらその途中で現代パートに戻ったりするトリッキーな展開には驚いたし感情が追いつかなかった。

この場面、回想から始まって「…ということがあったんです」で終わるまでに話挟みすぎじゃない?

もう1つは必要ないように感じるパートが多かったこと。
特に黒木華が演じる先生の主観パートって必要あったんだろうか。

キリエと夏彦、イッコ、この3人はそれぞれ「人生において傷みを抱えてる者同士」。それに比べて先生の立ち位置はあくまで「傍観者」でしかない。だから先生のパートだけドラマ要素が薄い。

キリエが児童相談所に引き取られてからはフェードアウトしてしまうし、物語もキリエとイッコの話に収束していくので余計浮いてるように感じた。
黒木華のハマり方は流石だったので監督が黒木華を出したかっただけにしか思えなかった。

と、合わない部分はあったものの好きな場面も多い作品だった。

『花とアリス』を彷彿とさせるキリエとイッコがわちゃわちゃしてる場面は観てるだけで幸せだし、海辺や雪景色の場面での「今、この世界には2人だけしかいない」というシチュエーションは刺さる。

岩井俊二監督、こういう琥珀に閉じ込めたような静謐な雰囲気を作るのが上手い。そこがこの監督を好きな理由でもあったりする。

個人的にはこの2人の関係性をもっと掘り下げて欲しかった。

キャスト陣も良かった。
まず本作はアイナ・ジ・エンドが好きな人には全力でお薦めしたい。
「アイナ・ジ・エンド推し映画」と思うくらい、彼女の魅力が描かれている。

しかし『スワロウテイル』のCharaといい『リリイ・シュシュのすべて』のSalyuといい、岩井俊二か小林武史かは分からないけどこういう声質の女性が好きなんだな。

本作を通して作り手側がアイナ・ジ・エンドをこの時代のヒロインにしようとしてる意思も感じた。

広瀬すずは自身もパンフレットで語っていたが「広瀬すず」というイメージからは珍しい役柄に感じた。現代パートと過去パートが見た目も性格も対照的。

なぜ彼女はこうなったか?
その理由を考えると何とも皮肉的で哀しい。イッコのキャラクターはもっと掘り下げて欲しかったな。

松村北斗は演技を観たのは初めてだが、いかにも岩井俊二作品の男性キャラという感じで線の細い役柄がハマっていた。

ただ、この役も不思議な役柄で、キリエとイッコに共通する人物かつキリエの過去に深く関わる人物なのに終盤でフェードアウトしてしまう。
キリエと再会した時に号泣したことで彼の贖罪は終わったかもしれない。
だとしても退場がやけにあっさりしてるとは思うが。

トップ画にも使われてるけど、劇中にこんな場面はなかったりする。てっきりこの3人の三角関係の話になるんだと思ってた…

ファンタジックな雰囲気の中で夏彦とキリエ(姉の方)のパートだけが妙に生々しくてリアルだったのも印象的。これって監督の実体験も影響してるのかなと思ったり。

物語はさまざまな人を巻き込みながら痛みを抱えた2人の正反対の行く末を描き出す。ラストは予想していてもグッとしてしまった。
ここで流れる「キリエ・憐みの賛歌」がまた良いのだ。

いかにも小林武史作曲の曲なんだけど耳に残る。
観終わった後は早速アップルストアでダウンロードして聴きまくっている。

小田和正、あいみょん、米津玄師、HY…本作の見どころを語るなら、劇中を彩る様々な曲もその一つだろう。間違いなく本作は「音楽映画」である。

後、豪華なキャスト陣も見どころの一つ。
江口洋介、奥菜恵など岩井俊二監督作品の出演者から松本まりか、武尊、粗品など幅広い登場人物たちのサプライズ的演出にも驚かされる。

結果的にノれない部分も多かったけど、気づいたら何だかんだハマってるのかもしれない…『キリエのうた』はまだ公開したばかり。気になる人はチェックしてみてね。

※過去に挙げた岩井俊二監督の作品の感想。良かったらどうぞ。

※ちなみに岩井俊二監督で一番好きなのは『花とアリス』。だからこそ今作のキリエとイッコの描写も好き。


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