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公務員はパラレルキャリアで無形報酬を稼ぐ!(公務員の副業を解説します)

夕焼けと朝焼け。
方角も時刻も分からずに見たとき、私たちは確信を持って見分けることができるのでしょうか。

公務員に対するパラレルキャリアや副業の規制は、実は働くということについて考察する格好の材料です。いい副業とわるい副業って線引きできるのでしょうか? 本業と副業の違いって何でしょうか?

今日は、そんな「働く」の境界線が溶ける話題です。


◆公務員の兼業・副業についての現在

このブログの元となる記事を2017年に書いた当時、民間企業の副業解禁が話題になり(そもそも禁止されていないという話もありますが)、ブログ公開後ほどなくして厚労省からはモデル就業規則の改定が発表されました。

そして「実は公務員の副業ってどうなのよ?」ということも一部の界隈で話題になっていました。

神戸市奈良県生駒市が報酬を得ながらNPOなどの活動に従事することを認めるための新しい基準を設けたのは2017年です。目的は、市役所職員が地域活動にもっと積極的に関われるようになることでした。

ちなみにここでいう基準というのは、地方公務員法第38条「営利企業等の従事制限」という地方公務員が兼業・副業をすることを実質的に禁止している条文が定める、許可手続きのための許可基準を従来よりも明確にするものです。

地方公務員法
第38条(営利企業等の従事制限)
職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(略)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(略)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。

両市の取組は、従前から許可できる事案のうち、NPOなど地域貢献度合いの高い活動について特別に明示して許可基準を設けたものなので、厳密に言えば“解禁”というのは違うはずですが、一部報道では公務員の副業解禁の事例として取り上げられたりもしました。


また、同じく2017年に開催された「第7回 地域に飛び出す公務員を応援する首長連合サミットin北海道」というイベントでは、生駒市の小紫市長から公務員の副業の制度化について発言があり、その場で様々な立場から意見が交わされたとのことです。(11月26日 北海道新聞)

その小紫市長に「公務員の”2枚目の名刺”」についてインタビューをさせていただいたのはコチラの記事です。


その後、長野県や宮崎県新富町などいくつかの自治体も神戸市や奈良県生駒市と同じような許可基準の明確化に取り組み、市役所職員が地域活動にもっと積極的に関われるように、報酬を得ながらNPOなどの活動に従事するための環境を整えてきました。


そして、先日、2020年1月には総務省がそれまでの審議会での議論や全国の自治体を対象に実施した実態調査の結果などを伝える目的で通知(地方自治法上の技術的助言)を発し、各自治体に「社会貢献活動等を含む職員の兼業の許可に当たっては~適切に対応するように」と助言しています。

考慮すべきこととして示されているのは以下の3つです。

①まずは具体的な許可基準を設定すること
②設定した許可基準は公表すること
③職員の兼業の実態をしっかり把握・管理すること

この通知がどのような意味を持つのか、それはまた改めて記事として書かせていただきますが、政府の号令により始まった民間の副業環境の整備(厚労省)国家公務員の兼業・副業の基準の明確化(人事院・内閣人事局)、そして地方公務員の兼業・副業の基準の明確化の先行事例(神戸市他)とそれを全国へ波及させるための技術的助言(総務省)が出たことで、一定の区切りを迎えたのです。


◆報酬とは何か

さて、前置きが長くなりましたが、公務員の兼業・副業の話です。


私自身は、公務員の兼業・副業というのは、なかなか世の中には理解されないだろうなと思っています。


それは、そもそも副業という言葉にポジティブな印象を抱きにくいという、言葉の問題も相当大きいと私は感じています。

なので、この記事では、副業という言葉を使わずに私の考えをお伝えしたいと思います。


ここで私がお伝えしたいことは、

公務員が報酬を得ながら何らかの活動をすることは認められていいし、公務員自身は積極的にそういった活動をするといいのではないか

ということです。


ここで「報酬を得ながら」というのは、早速ケシカラン! という反応をしたくなるかもしれませんが、その前に今一度言葉の整理をさせてください

皆さん、報酬って何でしょうか?
私は、仕事でも仕事以外の課外活動でも、

・貨幣又は貨幣に換算できる報酬
・貨幣に換算できない報酬

の2種類があると思っています。

前者は、お給料や謝金、原稿料など、まさにお金としていただく報酬です。

後者は、スキルアップや人脈形成、信頼関係構築など、お金では無いけれども自分にとって価値のある何か

便宜的にここでは、貨幣をはじめとする前者を有形報酬、貨幣には換算できない後者の報酬を無形報酬と呼ぶことにします。

もちろんここで言う有形報酬と無形報酬という呼び方は、リンダ・グラットンの『LIFE SHIFT』に出てくる、有形資産と無形資産に結び付けて名づけています。


◆仕事が疎かになるのは有形報酬? 無形報酬?

通常、公務員に限らず副業という言葉からイメージされるのは、有形報酬を得るような活動であり、それがたとえ本来の目的は必ずしもお金ではなかったとしても、結果的に有形報酬を得ることになったとたん、「それは副業だ!」と糾弾されたりするわけです。

では、どうして有形報酬を得る活動は(ネガティブな意味の)副業として糾弾されるのでしょうか?
公務員が有形報酬を得る活動が禁止されるのはどうしてなのでしょうか?
そこには恐らく、「有形報酬を得る活動をすると本業が疎かになるから」という主張が多いのではないでしょうか?

確かに、有形報酬を得る活動をすると、本業への集中力など専念する気持ちが低下する可能性は否定できません。但し、それが無形報酬を得る活動だったとしても、同様に本業への集中力など専念する気持ちが低下する可能性は否定できません。

もちろん、有形報酬を得る活動をしても本業に専念する気持ちが低下しない人も多いでしょう。でも、それは無形報酬を得る活動も然りです。

いや、有形報酬は要するにお金でしょ? お金を得られる活動をする場合の方が、無形報酬、つまりはスキルや人脈を得る活動をする場合よりも本業が疎かになるに決まってる

そういう主張はありそうですね。

ただ、その主張の裏側には、有形報酬に対する評価の方が、無形報酬に対する評価よりも絶対的に優越する、という先入観があるように思えます。

人は本当に、有形報酬を得られると本業を疎かにするほどに、仕事以外の活動に没頭しちゃうのでしょうか? それは無形報酬を得られる活動よりも、絶対的に本業を疎かにするのでしょうか?

私の考えはそうではありません。

有形報酬であろうが、無形報酬であろうが、本業を疎かにするヤツはどちらでも疎かにするし、どちらを得ても疎かにしないヤツは疎かにしないというのが私の考えです。

何なら有形報酬も無形報酬も得られないような、テレビゲームに熱中して本業を疎かにするヤツだって、きっといます。


公務員ですから、職務に専念することは非常に大切です。


そのために、仕事以外の活動に何らかのルールを課すのも必要なことかもしれません。

でも、それが「職務に専念することが大切」だということであるなら、有形報酬を得られる活動を制限して、無形報酬を得られる活動を制限しないのは、あまり本質的では無いというのが私の考えです。


◆本業とは何か?

私も結果的に有形報酬を得られる活動をすることがありますが、その活動が有形報酬を得られる活動だから熱中し、時間をかけて取り組むということはありません。

何なら、お金で買えない無形報酬を得られる活動の方が大切だというケースはままありますし、そういう活動の方が熱中することだって珍しくありません。

でも、何故かその活動が有形報酬であるか無形報酬であるかで、制限されるのが今のルールです。


このルールを変えたほうがいいのかどうかは議論が分かれるところだと思いますが、私は有形報酬か無形報酬かという区別だけで線引きするのは本質的では無いと考えています。


個人的には、どのような(もちろん違法でない、公務員倫理上の問題も無いという前提で)活動をしていても、キチンと働いているかどうか、いや働いているかどうかだけなら単なるインプットですから、アウトカム(成果)で評価をして、仕事以外の活動に熱中しすぎて本業が疎かに(成果が低下)なったらその分評価で報いるというのが本質的なような気がしています。このあたりは私もまだまだ勉強中なので、いずれ考え方が変わるかもしれません。

もう少し踏み込んだ言い方をすれば、
有形報酬(貨幣等)と無形報酬(スキルや人脈等)の考え方を拡張すると、本業とそれ以外の活動を区別する意味が薄れてきます。

【活動A】500万円の有形報酬だけど小さな無形報酬しか得られない
【活動B】150万円の有形報酬と本人にとって莫大な無形報酬が得られる

この2つの活動をしている人がいるとして、本人にとってはAとBのどちらが本業なのでしょうか?
また、本人以外の誰かが「こっちが本業だ」と決めることはできるのでしょうか?

ここで「Aに決まってるでしょ」と考えるとしたら、それは「お金をたくさんもらえる活動が本業であり、本業を本業たらしめているのはお金の報酬の量である」と考えていることと同義にならないでしょうか?

でもですよ、これを地方公務員で考えたら、公務員としての仕事を本業と扱い、他の活動よりも大切にすべきと考えるのは、「お金をたくさんもらえているから」ということになりませんか?

それでいいのでしょうか?
公務員の仕事は、お金をもらえるから本業なのでしょうか?


「いや、公務員の仕事は地域や社会に貢献するものだから大切なんだ」という主張もありえますよね。「だから公務員の仕事(活動A)を本業とし、活動Bよりも優先すべきだ」と考えるとしたら、それはお金の軸で評価するよりも共感を得られそうですし、私もちょっと納得感があります。

しかし、よくよく考えると、地域や社会に貢献する度合いで評価するとしたら、公務員の仕事よりも、例えば仕事以外の活動として取り組んでいるNPO活動の方が地域や社会への貢献度合いが高かったとしたら、公務員の仕事よりNPOの活動を優先すべきということになってしまいますよね。


他の軸を考えてみましょう。

例えば、「公務員の仕事は、仕事以外の活動よりも成長できるから、公務員の仕事こそ本業として他の活動よりも優先されるべきだ」という考え方もできると思います。これもあり得そうですよね。

でも、仕事と仕事以外の活動では取り組む時間が仕事の方が長いこともありますから、ある意味、仕事以外の活動より成長できることは当たり前

例えば、社会人大学院に行ったり、財団のプログラムなどで数ヶ月~1,2年の学びを経験すると、その密度は仕事よりも大きく、単位時間あたりの成長も仕事より大きくなる可能性があります。そして、社会人大学院や財団など、仕事以外のプログラムでの成長が、仕事よりも大きくなる可能性があるとしたら、活動の内容や関わり方によって仕事以外の課外活動であっても仕事より密度が大きく成長できる可能性は否定できません。


こうやって考えると「仕事」という言葉や「本業」という言葉を、あまり安易に使えないような気になってきますよね。

私の中でパラレルキャリアや2枚目の名刺、そして兼業・副業のことを考え続けているうちに、仕事というものに対する当たり前の感覚が融けてきて、ゲシュタルト崩壊を起こしているような感じです。


◆人生100年時代だからこそ、公務員は2枚目の名刺で無形資産を築く

もしかしたら、貨幣など有形報酬の価値が無形報酬の価値に比べて相対的に低下しつつあって、つまりはお金をもらうよりも、スキルを身に付けたり人脈が作れたりすることの方が価値があると認められるケースが増えてきていて、まとまった時間を投じてまとまったお金を得る「労働」というものが、絶対的にその人の人生において他の活動よりも重要である、という従来の価値観が揺らいできているのかもしれません。

そう考えたときに、公務員に限らずではありますが、長い時間を投じて大きなお金を得ようとする「仕事」というものと、無形報酬を得られる他の活動との優劣を簡単に評価できないのではないか、そんな風に感じる瞬間があります。

このことをもって、「じゃあ、公務員ももっと自由に有形報酬を得られる活動を認めればいいじゃないか」とすぐに言えるかどうかは、労働と価値と人生との本質的な議論だけではなく、市民・国民の理解や納得感なども重要な観点なので難しいところです。


ただ、私はそんなに急がなくてもいいのかなと感じています。


むしろ、世の中には有形報酬と無形報酬という考え方があることを踏まえて、公務員も仕事では有形報酬と無形報酬を得つつ、仕事以外の活動でより多くの無形報酬を得られる活動をすることで、有形資産と無形資産とを築くという考え方はあるのではないでしょうか。

公務員はルールの制約もあって、有形資産は仕事でしか築けないかもしれませんが、無形資産なら仕事と仕事以外の活動を組み合わせていくらでも築くことができます

100年人生だからこそ、公務員は2枚目の名刺で無形資産を築く、そんな意識を持ってみるのもいいのかもしれません。

皆さんは、いかがお考えでしょうか。



参考に、アメブロ時代にこの記事の原型となる論考を公開したときのFacebookの投稿をご紹介します。皆さんからいただいたコメントも大変興味深く、勉強になります。

Facebookで投稿した際の議論
https://www.facebook.com/masashimada/posts/1492823084127680



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もし業務外の活動などで有形資産・無形資産を築きたいけどどうしようか……悩んだら、キャリアコンサルタントにご相談いただくのも方法の一つです。

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