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公務員は安定しているという誤解


なりたい職業ランキングや子どもに就かせたい職業ランキングで常に上位になる公務員。

(個人的には、Google 1社と約1,700団体からなる地方自治体全体を比較することに何の意味があるのだろう? と常々思うのですが……)

なりたい理由は様々でしょうが、よく聞くのが、公務員は安定しているという評価です。



でも、公務員が安定した職業だというのは誤解です。



その誤解は2つの誤解のかけ合わせで生まれています。

1つは、「安定している職業」に対する誤解
もう1つは、公務員という職業」に対する誤解


1.「安定している職業」に対する誤解

ある職業(業種・業界・企業)が安定しているかどうかを評価するのは簡単ではありません。

なぜなら、“安定”の評価軸が定まらないから。

評価軸は定まらないのですが、学校の先生や親御さんが考える「安定」の正体は何となく推測できます。


彼らが子どもが公務員になったり大企業に内定をもらうことを喜ぶのは、多くの場合「安定している=一生安泰」、つまり食いっぱぐれないと考えるからです。

この「食いっぱぐれない」の正体は、所属組織が潰れない(ように見える)ということ。


公務員や大企業
= 潰れない(ように見える)
= 食いっぱぐれない
= 安定


安定志向で公務員になりたがる若者の心理も、これとほぼ同じでしょう。


でも、「組織が潰れない(ように見える)」ことは、すなわち「食いっぱぐれない」ことではありません。


2.本当の安定とは

本当の安定、つまり「食いっぱぐれない」のは、どれだけ「組織に頼らず生きていけるチカラがあるか」です。

どんなに強固な組織でも、条件が整えば潰れることはあります。
潰れることは免れても、人員整理が必要なところまで追い詰められた大企業は星の数ほどあります。

どんな組織でも潰れる可能性はある。
潰れなくても雇用を維持できなくなることはある。

そう考えると、組織にぶら下がっている以上は、そもそも安定とは言えないのです。

逆に、どんなに小さな組織に属していても、それこそフリーランスであっても、どんな状況でも自分のチカラで生きていけるのなら、それは最高に「安定」した状態と言えるかもしれません。(もちろん、それが大企業勤務や公務員でも同じです)


タイタニックに乗って安心している場合ではなく、船が沈んでも自力で海を渡れることが必要なのです。


また、人生100年時代においては、一度どこかの組織に就職したとしても、転職すれば最初に勤めた組織ではない場所で働くことになります。仮に転職しなかったとしても退職後の10~20年間は、何かしら別の仕事に就くことなるでしょう。

たとえ勤める組織が潰れなかったとしても、その組織の外で働くチカラがなければ、いつの日か「食いっぱぐれる」リスクと向き合う日が来ます。


だからこそ、本当の安定とは、どれだけ「組織に頼らず生きていけるチカラがあるか」だと、私は考えています。


3.公務員という職業に対する誤解

続いて、公務員という職業に対する誤解についてです。

その誤解とは「公務員は終身雇用が保障されている」ことです。
加えて、多くの人が意識していない「見えないリスク」もあります(次項でお伝えします)。


公務員という業界は一見すると強固な城のようです。にわかには崩れそうになく、一度中に入れば安全に見えるかも知れません。

しかし、そう遠くない将来、公務員の身分保障は緩和または廃止されると、感じている人は、実は少なくありません。

AIの登場を待たずとも、公務員に任せるべき仕事は日に日に減っています。どんどんと外部委託が進んでいるのに加え、そもそもの業務の見直し、自助共助の文脈で市民に自ら担ってもらう役割も増えていく一方です。

いずれ、今の270万人以上いる地方公務員の全員を食わせるだけの仕事を、地域は維持できなくなります。財政上の厳しさもそれを後押しするでしょう。


JRもかつては国鉄でした。
日本郵政もかつては郵政省でした。

でも、今はどちらの社員も株式会社の社員です。


法律で守られているということは、裏を返せば法律さえ変えれば環境がガラっと変わるということ。


そして、法律を変える民意は公務員がコントロールするものではありません。つまり、多くの人が考える「公務員の安定」とは、自分たちの手ではどうにもならないものに身を委ねる安定なのです。



4.公務員の抱える見えないリスク

この記事のテーマである「公務員が安定しているか否か」に関連して、前述したような誤解とは別に、あまり意識されることのないリスクについて触れさせてください。


そのリスクとは、公務員の成長です。


私たちは、仕事をつうじて学び、成長します
公務員は、公務員としての仕事をつうじて学び、成長します


公務員としての学びと成長は、果たして、公務員としてではない場面で、どのくらい役に立つでしょうか
民間の転職市場では、公務員としての経験は資産としては「厳しい」という声を聴くことがあります。「個人差があること」「人による」それはそのとおりなのですが、「厳しい」という感覚もウソではないと思うのです。

公務員の人は、試しに転職サイトで自分の情報を登録してみてください。自分がどんなキャリアを積み、何ができる人なのかを入力しようとしても「用意された強みや経験の選択肢の中に、公務員が選べる選択肢がほとんどない」ことに驚きます。

営業もマーケティングも企画も開発もチェックできず、「あ、私にはここでアピールできる職務経歴なんてないんだな」と思わされるはずです。


もちろん、転職だけの話ではありません。


退職後、10~20年間、公務員ではない立場で働くことになることは前述したとおりです。

公務員だけをずっとやってきた人が、60歳や70歳になって、一体どんな価値を社会に提供できるのでしょうか。
無自覚に公務員を続けて、役所の外で通用するようなスキルも専門知識も高まらないまま歳を重ねて大丈夫でしょうか?

教育から就職、そして退職して優雅な年金暮らし。
そんなモデルが崩壊した時代に、たった40年たらずの雇用「だけ」の安定と引き換えに、100年の人生の後半の選択肢が狭くなりレジリエンスが低くなる職業だということは、意外と知られていません。



5.だからこそ生涯成長し続けることが大切

ここまでの話を簡単におさらいします。

「公務員は安定している」というのは誤解であり、その誤解は以下の2つの誤解のかけ合わせから生まれているとお伝えしました。

「安定している職業」に対する誤解
公務員という職業」に対する誤解

「安定している職業」に対する誤解。それは潰れないような組織に所属して、終身雇用が保障されていることが「安定」だと思われがちだけど、そうではなくて本当の安定は組織にぶら下がらず自分のチカラで生きていけることだということ。

「公務員という職業」に対する誤解とは、終身雇用が保障されているように見えるけど、実はそうじゃないという誤解。また、ボーっと過ごしていると人生の後半の選択肢が狭くなりレジリエンスが低くなる職業だということが知られていないということ。


だから、公務員はやめておいた方がいいよ、ということではありません。


公務員は、この記事に書いたようなことを頭の片隅におきながら、自分で意識して行動しないと「安定」とは程遠い職業になるから気をつけましょうね、ということです。

自分で意識して、どんな行動をするのか。


それは「生涯にわたり成長し続けること」です。


生涯にわたり成長し続けるためには、職場の中でできることもありますし、職場の外でもできることがあります。

舞台は「人生」。職場は、あくまで舞台の上のセットの一つです。(大きな大きなメインのセットかもしれませんが)


私自身は今、市役所という職場の境界を越えて、様々な場面で活動することを強く意識しています。

市役所を辞めるためではなく、市役所での仕事だけでは乏しい非金銭的な資産(技術や知識、人脈など)を蓄積するとともに、市役所じゃないところで働いてもいいけれど今は市役所を選んでいるという意識を強くするために。

職場という世界から越境して、様々な活動を通して能力を得たり人脈を構築したりすることが当たり前の世の中となるように、私自身こういった生き方を広く伝えていきたいと思っているし、自ら示していきたいと思っています。

こうしてnoteで記事を書くのも、その表現のひとつです。


もちろん「越境」だけが生涯成長する方法ではありません。

大学院で学びなおしてもいいでしょうし、職場の中で専門性を高めてもいいでしょう。

いずれにしても、この記事に書いたようなことを頭の片隅におきながら、自分で意識して行動することで生涯にわたり成長し続けることが大切。



6.最後に

「安定」については、組織にぶら下がらずに自分のチカラで生きていけることだと書きましたが、私はもう少し自分なりの言葉に言い換えています。それが下の言葉です。


これではない何かの方法でも働き、食べていけるけれども、今は自分自身が必要だと思って主体的にこの職業を選んでいる


鳥かごに守られて生きるのではなく、
厳しさの中でも自由に羽ばたける翼を持つ。

今はそんな生き方を目指したい。

そして、そんな生き方を当たり前にしたい。

きっと、役所の中にいても
鳥かごから出て
自由に羽ばたくことはできるから。


皆さんは、いかがお考えですか?


★     ★     ★

(おまけ)

この記事は以前アメブロで書いて大きな反響をいただいた下の記事を大幅に加筆修正したものです。アメブロ時代の記事を公開したときのFacebookでの投稿ではたくさんのコメントも寄せていただきました。

◆Facebookでの投稿


今回の記事もSNSで発信しますので、たくさんのコメントをいただけたら嬉しいです。



★ご報告★

2021年2月に初の著書を出させていただきました。

主に若手公務員を対象に「公務員が充実した気持ちでイキイキと働くことが、住民の幸せにつながる」という信念のもと、「自分の人生のハンドルは自分の手で握ろう」というメッセージを込めて書かせていただきました。

そのあたりのことは、こちらの記事でもお伝えしています。

よろしければお手に取っていただけたら嬉しいです。


★連絡先★

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