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【ドラマで見る女性と時代】その4の陸 『光る君へ』~あえての源倫子~(2024年)

「苦手なことを克服するのも大変ですから、苦手は苦手、ということで参りましょうか」

 無理をしない、ありのままでいい。
 時には苦手を克服する必要も、人によってはあるかもしれない。
 けれど、人生の大半において、そんな無理や苦労をしないでいる方が、穏やかで幸せな時間が確実に増える。

 

 冒頭の台詞を口にしたのは、左大臣の一の姫・源倫子みなもとのともこ(黒木華さん)。
 やんごとなき家柄の姫達が和歌を学ぶ会。それが、左大臣家で催されていた。
 といっても、倫子たちにとっては、真剣な学びの場ではなく所詮はお遊び。
 まひろ(紫式部)(吉高由里子さん)は、父・藤原為時(岸谷五朗さん)からこの会への参加を勧められる。身分の低い自分が参加してよいものなのか、と気にするまひろだったが、倫子の母は為時の親戚筋ゆえ、口添えをしてもらうことに。
 為時がまひろをこの会に行かせる本来の目的は、左大臣が誰を娘の婿にするのかとの動向を探りたい右大臣に、少しでも資することだった。
 まひろはこれに勘づき憤りを覚えつつも、倫子様がどんなお方なのかとの興味から、この平安女子サロンに通い続けるのであった。
 

※見出し画像は、ドラマ撮影で用いられたまひろ(紫式部)の着物の写真です。





存りのままであることを認める、余裕のある姫君・源倫子

 左大臣・源雅信みなもとのまさのぶ(益岡徹さん)は、人とむやみに争うことが苦手で、倫子のことを大事に大事に思っている。
 母の藤原穆子ふじわらのむつこ(石野真子さん)も、おっとりとした人物で、来年22歳になる娘の婚期を気にしつつも厳しいことはほとんど言わない様子。
 その父母に守られ愛されながら育った倫子は、のびやかでほどよく奔放。母の心配をよそに、年頃になっても婿を取る気のないまま過ごしている。

 倫子は、思ったことを正直に、でもふんわりとした口調でお喋りしては、おっとりとした笑顔で心から楽しそうに笑う。
 この和歌の会はあそび、書物を読むのが苦手、などと、和歌の指南役の歌人・赤染衛門あかぞめえもん(凰稀かなめさん)の前でも扇子で口元を覆いながら正直に喋ってしまう。

 きっと、ありのままの娘の姿を大切に慈しむ父母の愛が、このように素直でおおらかな姫君に育て上げたのだろう。

 五節ごせちの舞という、身分の高い家の未婚の姫が天皇の前で舞を捧げるという神事があり、左大臣家からも誰か姫君を、という役割をおおせつかった雅信。
 倫子が女性関係の淫らなあの花山天皇の前で舞を披露し、もしお目に留まってしまったら……と心配して頭を悩ませる。
 あの帝だから、という親心はわかるが、他の貴族ならともかく、自分の娘が帝の目に留まると心配する場面は、ちょっと親馬鹿で微笑ましい。

 こんなふうにほんわかとした左大臣家、右大臣・藤原兼家ふじわらのかねいえ(段田安則さん)が、一族繁栄のために使えるものは息子でも娘でも使い倒そうとするのとは大違いである。

 穆子の発案により、左大臣家からは倫子の代わりにまひろを出すこととなった。
 殿方からたくさんのふみが届く倫子様とは違い、わたしは身分の高いお方のお目に留まらず、気に入られない自信がありますので大丈夫、と快く役目を引き受けるまひろ。
 倫子はまひろの手に触れ、一生恩に切るわ、とお礼を述べる。まひろを見下しているのではなく、そんな宣言をするまひろを素直に面白い、正直なものは正直でいい、と楽しむ余裕が感じられる。
 やんごとなき姫君からふわっと手を触れられ一生恩に切るわと言葉をかけられたまひろの方が、そんな、大袈裟です、と恐縮してしまい、照れ笑いを浮かべる。
 その様子に倫子が笑い、釣られるようにまひろも楽し気に笑う。
 
 
 五節の舞の後でまひろは倒れ、左大臣家の和歌の会も休んでしまう。
 淋しいこと、と倫子は残念そうにつぶやく。まひろに会えるのをかなり楽しみにしていたのかもしれない。
 他の姫君が、身分の低いまひろさんがお出になったのが間違いでは?この歌の会に来るのも……と言いかける。すると倫子は、まひろさんは左大臣家の者として出てくださったのです、またこの和歌の会にお出になったら優しく接してあげてくださいね、と正す。恩人であるまひろをしっかりと守ったのだ。
 誰かの言いなりになるばかりの、ただののんびりしたお姫様ではなく、口調は品よく穏やかであるが人にしっかりと釘を刺す。倫子はそんな見極めができる女性でもあるのだ。
 
 今回の話では、この平安女子サロンにおいて蜻蛉日記の歌を学ぶ様子が描かれる。
 蜻蛉日記には、身分の高い貴族に愛された女の日記だと前置きがあり、実はそんな女性の自慢話ではないか、とまひろが解釈を披露する。
 倫子は感心しながら、そうなの?読んだことがないから知らなかったわ、と返す。まひろは、家にある写本をお持ちしましょうかと申し出るが、いらないわ、書物を読むのが一番苦手なの、ときっぱりやんわりと断る倫子。

 その会が終わってから、倫子とまひろはこんな会話する。

「 まひろさんて、いつも張り詰めてらして、疲れません? 」

「 ………疲れておるやもしれません 」

「 そうよね、もっとお楽になさいましよ 」

「 幼い頃に母を亡くしてから、いつも方に力を入れて生きてきたように思います。
楽に生きるのが苦手なのです。
倫子様が、書物をお読みになるのがお苦手なように 」

「 そうでしたか………苦手な事を克服するのも大変ですから、苦手は苦手、ということで参りましょうか 」

  
 倫子だって、書物を読めと誰かに強要されたら非常に不快なはず。
 だから、もっと楽しそうにしましょうよ、と押し切ることなく、まひろさんが苦手というのなら、無理せずありのまま、苦手なままで行きましょうか、とおおらかに受け止める。
 甘やかされて育って、相手が自分の言うとおりにしないと機嫌が悪くなるような姫君ではない。懐深く、こんな機転のきくところも倫子の魅力だ。


 倫子はまひろの良き話し相手となりゆく様子であるが、やがてはまひろの想い人である藤原道長の嫡妻となる女性でもある。
 まひろと倫子の関係が今後どのように描かれてゆくのか、非常に興味深い。


 

日本一身分が高く男前な旦那・花山天皇 vs 妹想いとは程遠い兄・藤原斉信

 

 『 みんな大好き!今回の花山天皇 』とシリーズ化できるほど、現時点での注目度No.1キャラクター・花山天皇(本郷奏多さん)(ただし、SNS上を見た限りのわたし調べ)。

 前回に引き続き、今回も苦しそうに床に伏せてている女御の忯子よしこ(井上咲楽さん)を見舞いに現れた花山天皇は、

「 忯子、いかがじゃ?
そなたのことが気になって、まつりごとに気が入らぬ 」

「 朕がついておる、案ずるな 」

と声をかけながら、妻の白魚のような手を両手でしかと包み込む。 

 前々回は帯で縛り(←しつこい)、一風変わった愛の形であったものの、今回は直接手を取り励ます姿となり、より一層深い帝の愛情を描いている。

 帝は、忯子に語りかけてから背後を振り返り、下に控えている貴族の男を鋭く睨み付け「おまえは誰じゃ?」と凄む。
 その視線に震え上がる男は、忯子の兄・藤原斉信ふじわらのたたのぶ(金田哲さん)。
 
 帝が現れる直前、病んでいる実の妹を見舞いながら、元気な皇子を産んでもらわねば、とすっぽんの干物を差し入れ、さらに『 帝のまつりごとには、ワタシの兄みたいに若い力が必要だからどうでしょう?って帝に俺達のことをすすめてくれよ、一族の命運がおまえにかかっているのだから、頼むよ 』と、苦しんで臥せている妹にこそこそと頼み事をしていた。

 帝に愛され過ぎて体調を崩すわ、具合悪いのに兄は面倒な頼みごとをしてくるわ。
 横たわったままの忯子は、『 えぇ…?わたし、こんな状態なのに…?しかも、そんなしゃしゃり出るようなこと言えないし……… 』と困惑しかなかったご様子。

 その後に登場した花山天皇、そんな忯子のぐったりオーラを察知したのか、下に控えている斉信に向かって凄まじい眼力を飛ばす。
 こんな苦しそうな忯子に余計なことを吹き込もうとしたのは誰じゃ……!とすべてをお見通しで相手を射抜くかのような帝の視線(まあ、体調を崩したそもそもは、帝の寵愛が過ぎたのが原因らしいのですが……)。

 自分は帝の最愛の女御の実の兄なんですけど……と名乗る勇気もなく…というか、この時代に帝に対して簡単に名乗るのも恐れ多くてNGなのか、斉信は震えあがって頭を下げたままだった。

 ……今回の花山天皇、普通にこのうえなくイケメンな旦那じゃないか……!!


 そして、今回のラストシーンでは、女御様がお隠れに…!と夜更けの宮中を女房達が右往左往する。
 知らせを聞いた花山天皇は、忯子!と叫びながら、頭の被り物もなく寝間着姿一枚で宮中の廊下を一目散に歩く。
 当時の男子にとって、烏帽子を人に取られることは今で例えると下着を脱がされるのと同じ恥辱なのだそう。
 だとすれば、もう床に付く刻でやむをえないとはいえ、この時の花山天皇、相当恥ずかしい恰好のはず。
 一見滑稽に見えかねないこの有り様だが、本郷奏多くん演じる花山天皇となれば、愛妻の元に必死に駆けつけようとする、痛ましい帝の姿として仕上がっている。

 本郷奏多くんは、2020年の大河ドラマ『 麒麟がくる 』では、関白・近衛前久このえさきひさという役を演じています。この時も、気高くそれこそ見目麗しき公家姿でした。
 顔には高貴な位の気品を十二分に漂わせつつ、キャラクターのその時々の表情を滲ませる演じ分けが素晴らしい役者さんです。

 この花山天皇が哀しい末路をたどりゆくのかと思うと、非常に残念でたまりません。
 そして、花山天皇を追い詰めるのが、まさかの初回でまひろの母を殺害しショッキングなストーリーに仕上げてくれた、藤原道長の兄・道兼。
 ……初回の暴挙といい、花山天皇を騙して裏切るといい、道兼よ………。



 以上が、第六話
『 二人の才女 』感想であります。
 この二人の才女とは、後の紫式部と清少納言。
 にも関わらず、あえての源倫子さんについての感想でした。
 清少納言は、今後も色々なネタがあるでしょうから……。



前話までの感想です。
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