【エッセイ】『米粉パン販売中』に喜び勇んで、ガッカリした話
所用があり、普段は利用しない駅で降りると、バス乗り場に向かった。
バスを待ってる間に、駅前のお店をグルッと眺めた。
定食屋さん、靴屋さん、スマホショップ、ラーメン屋さん、理髪店、100円ショップ、パン屋さん。
そこまで見て、少しうつむいた。
(パン屋さんか……)
元々はパンが大好きだった。ほとんど毎日食べているくらいに。
いや、今もほんとうは大好きなのだ。
だけど、小麦粉が体質的に合わなくなって、遠くにあるグルテンフリー専門のパン屋さんにたまに行く以外は、パンを食べる機会はまったくなくなってしまった。
ブロロロロ
「発車します。お立ちの方は手すりなどにおつかまりください」
バスの運転手がアナウンスした。
(ん? あれっ!?)
一瞬、目の端になにかが映った。
(米粉? 米粉パンだ!)
パン屋さんのウィンドウに『米粉パン販売中』の文字が見えたのだ。
それからは、行きのバスも、所用の間も、帰りのバスも、頭の中は駅前のパン屋さんの米粉パンでいっぱいなった。
(通勤圏外とは言え、最寄り駅から2駅しか離れていないところに、米粉を扱うパン屋さんがあったなんて! 交通費がかかっても毎日買いに来ちゃうぞ!)
仕事帰りはちょっと寄り道をして、毎日大好きなパンが食べられるなんて! つらい仕事も楽しく感じられるに違いない。だって、その先にご褒美のパンが待っているのだから。
(毎日、米粉パンか! なにが売られているかな? 何種類くらいかな?)
たとえ2~3種類しか売られていなくても、大きな問題ではないような気がした。
(食パンなら、ジャムやバターを買って。ケチャップとベーコンとソーセージとレタスにあわせて)
夢はどんどん膨らんだ。
(あー! 米粉パン売り切れてないよね?)
停留所ごとに停まるバスにやきもきしながら、はやる気持ちを抑えた。
「⚫️⚫️駅前、終点です」
ようやく車内アナウンスが流れてバスが停まると、出口に向かった。
(落ち着けー、落ち着けー。Suicaをピッと。バスと歩道との段差にも気をつけてと)
パン屋さんに入ると、真っ先に米粉パンのコーナーに向かった。そのコーナーだけキラキラ輝いているように見えた。
果たして、米粉パンはまだあるのか。売り切れていないか。
(小麦粉? 小麦粉? 小麦粉?)
見た文字を信じられなかった。信じたくなかった。
他のパンコーナーも確認した。
原材料:小麦粉
原材料:小麦粉
原材料:小麦粉
小麦粉
小麦粉
小麦粉
結局、そこのパン屋さんに売られていたパンには、すべて小麦粉が入っていた。
泣きたいのを必死にこらえながら、パン屋さんを出ると、ウインドウを再び確認した。
(嘘じゃないけど、嘘じゃないけど、せめて『米粉入りパン』って書いてくれたら、ぬか喜びすることもなかったかもしれないのに……)
ボロアパートに着くまで、足が重たく感じたのは、きっと気のせいではなかっただろう。
この話を後日、知り合いの助産師さんに話した。
「凄くガッカリした気持ち、そのパン屋さんに伝えた方がいいわよ」
彼女の言葉に驚いた。勘違いしてぬか喜びした自分が悪いんじゃないのか。ただのワガママなんじゃないのかと、少し自分を責めていたのだ。
「米粉やグルテンフリー人気に便乗して、わざと紛らわしい書き方をしたと思いたくないけれど、ちょっと酷いわね」
とも言ってくれた。確かに、重篤な小麦アレルギーの人が、小麦粉でできた米粉入りパンを誤って食べてしまえば、アナフィラキシーショックが起きて、最悪亡くなってしまうのだ。
ちなみに、彼女は小麦粉に対して、なんのアレルギーも不耐性もないから、毎日、小麦粉でできたパンを食べていた。そんな彼女でも、ガッカリした気持ちを汲んでくれ、危険性を指摘してくれたのだ。
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