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【エッセイ】20歳をこえた大学新1年生が、門限あり禁酒禁煙の一般家庭に下宿を決めた話

ひたすら長くて暗くて寒い冬を何度も乗り越え、数年がかりで大学に合格した。

そのとき、予備校近くの女子寮を引き払い、数年分の参考書と模試の過去問を大量に一気に処分し(清々したゼ)、引っ越しの荷造りをし、引っ越し業者に依頼し、大学近くに新しい住み処を決めて仮契約をし、入学金の支払いと手続きまでを、すべて一人でおこなった

母は年度末で仕事が多忙を極めていたし、わたしはすでに20歳を越えていて、母には金銭的にも精神的にも多大な迷惑をかけていたと自負していたから、せめて一人でやれる手続きはやってしまおうと思ったのだ。

いちばん大変だったのは、大学近くの新居さがしだった。

開学したばかりの大学だったから、周辺のマンションやアパートや寮が絶望的なほど不足していたのだ。それを初めて知ったのは、新居さがしのために、大学周辺に着いてしまってからである。

新居をさがしだして手続きするまでをほぼ日帰りでしようと、帰りの航空券を予約し支払いまでしてしまっていたから、さあ大変だ。

一軒目に伺った下宿はすでに予約でいっぱいだったが、そこの管理人さんのご厚意で、彼女の車で他の下宿先をまわってくれた

2軒目の下宿は見学をさせてくれたが、男子高校生しか住んでいないということで、やんわりと断られた。仕方ない。

 3軒目の下宿に伺い、そこの管理人さんと話したときは、すでに帰りの飛行機の離陸時間まで数時間に迫っていた。

管理人と書いたが、そこは一戸建ての6LDKで、旦那さんが単身赴任中で、息子さん二人はすでに自立しているとのことで、つまり、一般家庭の奥様が一人で切り盛りしていた。

一般家庭であり、わたし以外の寮生が高校生ということで、門限はあるし、飲酒が禁止(もちろん禁煙)なのが気になったが、もう選択の余地はなかった

口約束だけの仮契約をし、大体の引っ越し日を伝えて、慌ただしく下宿先をでた。

飛行場まではタクシーを拾い飛ばしてもらおうと思ったところ、なんと1軒目の寮の管理人さんが、片道1時間もかけて送ってくれるという。

タクシーがすぐにつかまりそうもなかったから、図々しく甘えさせてもらった。田舎はあまり信号機がないし、渋滞もない。だから、1時間はかなりの距離である。しかも、片側1車線のクネクネと曲がった山道を飛ばしてくれた。

彼女はまさに大恩人である。

新しい寮の管理人の女性も優しそうな人だったし、新しい土地にすっかり安心し、期待を大にして、それからの数週間は母の家でのんびりしていたので、下宿先に再び向かったのは、入学式のわずか2日前だった。

新しい下宿先の夕飯に、毎晩驚かされることとなるとは、そのときはまだ予想だにしていなかったのである。

《つづく》


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