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バランスウィッチクラフトの追悼とこれから

2020年11月のKCカップでウィッチクラフト(以下WC)1本で初めて銀アイコンを取ったのをきっかけにnoteを始めて,更新頻度を上げてすばらしい記事を量産しデュエルリンクス界で名を上げようと画策してから,特に何も記事も増えず,実績も増えず時だけ経ちました.いやいや2月のKCカップあったから記事書けただろと思われるかもしれませんが察してください...

挨拶はこれくらいにして本題.2月のKCカップが終わり新しいリミットとスキル変更が発表されました.

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遂に長らくデュエルリンクスの環境で使われていたバランスに再度の修正が入りました.これによりバランスWCは構築不可能になりました.
そこで本記事では,これまでのバランスWCを振り返りながら,これからのWCの方向性について考えていこうと思います.しかし,現段階で自分自身WCの新たなすばらしいプランが思いついているわけではく,この記事を最後まで読んでもWCの答えは書かれていません.あくまでもWC愛好家たちにこれからの方向性を示すだけです.WCをよく分からない人には,なぜバランスWCは強かったのかを知ってもらい,これからのデッキ構築の参考になるヒントになれば幸いです.

1. バランスWCの歴史の振り返り

1.1 悪夢のショーWC全盛期から消滅まで(罠デッキオワコン化の歴史)

バランスWCについては,かなり詳細に以前の記事にまとめています.

以前の記事は自分の予想以上の反響があり,多くの人に読んでいただいたことに感謝しています.この記事をきっかけか分かりませんが,WCの構築もバランスとリスタート以外ほぼ消滅しバランスWCの起源主張になれたと気持ちよかったです.
過去の実績をこするのはこれぐらいにして,以前の記事では書いていなかった点を補足しながら,バランスWCとWC周りの環境の歴史を振り返ってみましょう.

WCがまず環境に現したのは2020年6月に発売したウィッチズ・ソーサリーの登場と直後に来たDSOD杏子イベントで本格実装されてからです.

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この弾は今見るとかなりの強パックで,WCだけでなく2021年2月のKCカップで大暴れした呪眼の主要パーツが揃い,イベント産とメイン3周とあとちょっと背伸びするだけで環境デッキが一気に2つも作れてしまいます.
このとき一般的に使われていたのは悪夢のショーWCです.このあたりの昔話はゆーしゃんずさんがまとめているので詳細はそちらを読んでください.

悪夢のショーWCはトッププレイヤーを中心に研究が進みライトロードと組み合わせる型が完成しました.この悪夢のショーWCはかなり破格の強さがあり,デュエルリンクス史上最も強いWCは悪夢のショーWCです.なぜ悪夢のショーWCが最強だったのかその理由についての詳細は以前の自分の記事に書いています.
当時少数派ではありましたがバランスWC自体は存在しました.当時はそこまで深く構築への理解度が広まっていたとは思いませんが,バランスWCと悪夢のショーWCはコンセプトが異なる点や,デッキパワーは悪夢のショーWCのほうが高かったため,あえてバランスWCを使う意義もなくバランスWCが主流構築になることはありませんでした.
当時最強デッキだったWCが初めて参戦した公式戦はKCGT本戦1stステージです(あまりにも強すぎたせいで大会直前に緊急リミット更新がありました).このKCGT本戦1stステージは,個人的にはデュエルリンクスの環境の歴史を語る上で重要な大会の1つだと考えてます.あとから歴史を振り返ってみると,KCGT本戦1stステージは「最もデッキ相性表が間違っていた環境」のまま行われた大会と言えるでしょう.
KCGT本戦1stステージは,KCGT予選を勝ち抜いたトップ100のプレイヤーが決勝ステージへの参加権16席を争って行われたスイスドロー形式の大会でした.予選を勝ち抜いた強豪プレイヤーたちが,当時最強デッキだった悪夢のショーWCに対してどのような答えを出すのかが注目された大会でした.大会の様子を振り返りたい人は遊戯王公式チャンネルにアーカイブが残っています.

KCGT本戦1stステージにおいて,世界の強豪がWCにぶつけたカウンターデッキはいくつかありましたが,採用率が高かったものでは,バレットネオス青眼剛鬼,採用札をWCに寄せたES召喚獣下降BFが挙げられます.この中では下降BFだけは他デッキとはカウンターとして採用された理由が異なりますが,WCに対しての答えは罠デッキであると多くのプレイヤーが考えました.
その後のデュエルリンクス環境の変遷を見た上でKCGT本戦1stステージを分析するといろいろ認識が間違っていた点が見えてくるはずです.以下にまとめてみます.

①バレットネオス,剛鬼,ES召喚獣は後に評価を落とす.デッキパワーが過大評価されていた.
②実際は,WCは罠デッキに対してかなり強かった.間違った認識が広まったきっかけ.
③当時WCのせいで評価を落としていた不知火が実は強かった.環境に合わせて構築とプレイを変えられる自由度の高さに気づいてる人が少なかった.

①と②は関連していますが,汎用罠でテンポアドを取るだけで勝てるデッキはここ最近のデュエルリンクスの環境から急速に消えていきました.これは,遊戯王OCGの歴史と同じで罠の遅さと汎用除去札は等価交換しかできないため,汎用罠が強いだけのデッキが勝てる時代の終わりの始まりはKCGT本戦1stステージだったかもしれません.
罠デッキが弱体化した理由は,実はWCを例にすると分かりやすく理解できます.以前の記事でWCの手数は3手(下級WCモンスターの変身で1手,ヴェールの無効効果で1手,ヴェールの打点上昇で1手の計3手)しかないと解説しました.このWCの手数3手はWCの対面相性を理解する上で分かりやすく,以前の記事をきっかけに理解していただいた人がいたようで書いてよかったと思っています.以前の記事では明確には書いていなかったことですがWCの手数3手は正確には,WCの1ターンの手数は3手しかないが,WCの強みは3手を半永久的に毎ターン供給できることです.半永久的にというのが重要で,毎ターン3手3手3手と飛んでくる手数に対して使ったら戻ってこない汎用罠で対抗しようとすると先に息切れするのは当然罠デッキのほうです.下降BFやサンダードラゴンのような序盤は4手も5手も用意できるデッキがWCは苦手ですが,展開次第で中長期戦に持ち込んだ場合,展開特化系デッキは1ターンの手数がターンを重ねる毎に減っていくので継続して手数を用意できるWC側が有利になります.ここから見えてくると思いますが,罠デッキで手数を安定させることとリソースゲームに持ち込むことを実現するのは非常に難しいです(この課題をクリアしたのが語り不知火やバランストラミッドでしたね).
「手数が安定せずリソースゲームが苦手なデッキ」と「手数が安定してリソースゲームが得意なデッキ」が試行回数を重ねたらどっちが強いのか?答えは明白な気がしますが,KCGT本戦1stステージではここまで理解が煮詰まっていなかった,スイスドロー形式の1回勝負なら最強のデッキに対して上振れに賭けるのも選択肢だったなどの理由からかなり歪な環境理解で行われたのがKCGT本戦1stステージだったと認識しています.

「手数が安定せずリソースゲームが苦手なデッキ」と「手数が安定してリソースゲームが得意なデッキ」が試行回数を重ねたらどっちが強いのか?の答えが明白になったのが,2020年9月のKCカップです.
このKCカップで勝ち上がったデッキは悪夢のショーWC,カラクリ,海クリストロン,上位帯だけですが語り不知火,メガリス,トラミッド,ライトロードなどです.ES召喚獣やバレットネオスのような罠でテンポアドを取るデッキが,カラクリやWCのような振り切った展開系と無限のリソースで戦うデッキに敗北したKCカップだったと言えるでしょう.
WC視点でこの9月のKCカップを振り返ってみるとカラクリと語り不知火の登場は事件でした.カラクリは,WCに限らずデュエルリンクスの歴史の中でも本当に事件でした.パチンコと揶揄されるほど少ない初動パターンを初手安定スキルであるリスタ―トを使って揃えて決められた展開パターンをするだけでモンスターゾーン3つと魔法罠ゾーン3つ全部が札で埋められる理論上最高の盤面が誰でも作れました.超速攻型デッキだったため,対戦数も稼げてワイルドマンビート以来のハイクオリティのKCカップ周回デッキだったと思います(実際は運用面とメタの変化を考えるとカラクリで勝ち切るのは単純な話ではなかったですが).カラクリは初動率=勝率,勝率51%で試行回数さえ稼げたら理論上はKCカップ1位になれるを本当に実行可能だったデッキでした.ここで重要な点が,カラクリに対抗するにはカラクリが初動事故で自滅したパターンしか勝ち筋を見出せないデッキは,カラクリが初動引けずに負けるパターンを割り切っているので,カラクリに実質的には負けていることです.カラクリに本当の意味で勝つにはカラクリの理論上最高の盤面を捲って勝つことが要求されます.こんな無理難題を叩きつけてきたデッキだったので本当のサ終ビートはカラクリでしたね.そこでカラクリに対して,WCが出した答えが機械天使の儀式でした.なぜ機械天使の儀式が答えだったのかはkinghaloさんの動画でも解説されています.

機械天使の儀式から学ぶべきことは,機械天使の儀式がWCと相性よかったということだけではなく,展開系デッキへの対策方法として,やり取りを省略できる札やプレイは有効であるということです.手数の話に戻りますが手数のぶつけ合いになったとき,手数を増やして対抗するのも選択肢ではありますが増やせる手数には必ず限界があるので,相手とのやり取りを減らしてあげるという視点で対抗手段を探すべきです.その視点でのWC用の答えがデュエルリンクスのカードプール内に偶然にもあり,それがたまたま機械天使の儀式でした.この視点の切り替えはWC以外にも当てはまり,やり取りの省略が一番得意だったのがバランストラミッドだと理解しています.
もう1つの9月KCカップを語る上で外せないのが世界1位に輝いた語り不知火です.語り不知火が世界1位になった理由はいろいろ挙げられると思いますがWCに圧倒的に強かった点は外せないでしょう.これに関しては以前の自分の記事で触れているので省略しますが,後からKCカップを振り返ってこうやったら勝てたかもしれないと考えてしまうことはありますが,今でもWCが語り不知火に勝つ方法が思いつかないくらいギミック的に唯一WCが勝てなかったデッキです.苦手デッキではなく絶対に勝てないデッキが環境に存在したのが当時最強デッキの一角だったWCが世界1位にはなれなかった敗因です.
この9月のKCカップを総括すると,理論上絶対に勝てないデッキがあるデッキではKCカップを勝ち切れない,苦手デッキが環境にいたとしてもこれさえ通ればどのデッキにも勝てる勝ち筋を作れるデッキはKCカップに限れば強いということです.これが悪夢のショーWCカラクリ語り不知火が導き出した答えだと思います.

1.2 バランスWCの誕生(バランスWCが強かった理由)

やっとここからタイトルのバランスWCの登場です.9月のKCカップの結果から大幅なリミットの改訂とスキルのナーフがありました.WC関係では悪夢のショーが弱体化,隣の芝刈りがデュエルリンクス初の禁止カード,光の援軍とWCサボタージュがリミット2になり,悪夢のショーWCは構築不可能になりました.悪夢のショーWCが構築不可能になり,ここからバランスWCへと変わっていくわけですが,変遷の流れについての詳細は以前の自分の記事に書いているので省略します.
ここでは,以前の記事を補足する形で,バランスWCが強かった理由と悪夢のショーWCとのコンセプトの違いをまとめておきます.
「バランスWCが強かった理由」と文字にするとバランスWCが環境トップシェアになりKCカップや非公式大会で結果をたくさん残したように見えますが,実際にはバランスWCがKCカップで残した実績は,自分の2020年11月のKCカップの銀アイコンが1個,2021年2月のKCカップのCooperさんの金アイコンが1個と11月下旬から12月の期間で開かれた非公式大会ぐらいで数としては多いわけではありません.シェア率としては低かったバランスWCでしたが最高成績は金アイコンと矛盾しているように見えて不思議に思われる人もいると思います.「バランスWCが強かった理由」を理解するには「なぜWCは魔法の使い手でもなくリスタートでもなくバランスでなければならなかったのか?」「なぜバランスWCがKCカップで残した実績数は少ないのに最高成績は金アイコンなのか?」という疑問を解決する必要があります.この疑問の答えに,悪夢のショーWC以降のWCが歩んだある意味不遇な歴史と今回のバランス規制の意義が詰まっています.

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これは自分が2020年11月のKCカップで銀アイコンを取ったバランスWCの構築です.この構築に辿り着くまでいろいろ流れがありましたが,カラクリ不知火以外の全部のデッキに対してWCは初動事故さえ起こさなければ勝てると考えてバランスWCを使いました.初動事故さえ起こさなければという前提条件をベースに「初動率」の高さに注目して生まれたのがバランスWCですが,「初動率」の捉え方の違いが悪夢のショーWCとバランスWCは異なりコンセプトの違いです.現状のデュエルリンクスのカードプールでWCを構築すると,バランスでも手札事故はありますが,バランス以外のWCは必ず手札事故を起こします
WCの基本初動は下級WCモンスター+魔法カードの組み合わせです.下級WCモンスターは現状3種類最大枚数9枚しか採用できません.仮に30枚デッキに下級WCモンスター9枚と魔法カード21枚のデッキを組んだとして下級WCモンスターと魔法カードが初手4枚に揃う確率は約78%です.実際の初動率はこれよりも低いわけですから,どのように構築をしても4回に1回は手札事故を起こします.WCは汎用カードの採用枚数も少ないので手札事故を起こすと文字通り何もできずに負けてしまいます.この段階で魔法カードのみを初手に確定させるスキル魔法の使い手は初動の観点で有効ではないことになります.最大枚数9枚の限界がある下級WCモンスターに対して,魔法カードは採用枠に枚数の制約が少ないのにも関わらず,魔法カードだけの初手率に注力するのは間違っています.
ここまでの説明で分かった人もいるかもしれませんが,悪夢のショーWCは芝刈りや援軍が多く積めたので初動率は高い方でしたが無視できない確率で何もできないで負けるパターンがありました.それでも悪夢のショーWCが最強デッキになぜなれたのかは,4回に1回の初動事故に対して逆転の発想で,悪夢のショーWCは動ける4回に3回必ず勝つ初動率=勝率が基本コンセプトになっていたからです.ものすごく分かりやすく例を挙げれば芝刈り打てば勝てるので芝刈りの初手率=勝率は担保されてました(〇〇の初手率=勝率の担保の発想をデッキとして完成させたのがカラクリや2月のKCカップで暴れたセプスロが該当するでしょう).悪夢のショーWCが最強デッキだった理由はカラクリと似たようなコンセプトだった側面もあったからと思います.9月のKCカップで最終的にカラクリとWCどちらも勝ち切れなかったのは,同じコンセプトのデッキが同時に2つ存在したせいで不毛な勢力争いを繰り広げた結果,その枠組みから外れた語り不知火が見事出し抜いたという見方もできます.
悪夢のショーWCが規制で構築不可能になり,初動率=勝率を目指すコンセプトのWCは崩壊しました.カラクリと不知火が環境の中心になっていたので,初動動けたとしても負けるパターンも増えたのでこれまで無視できていた全く動けないで負けるパターンを無視できなくなりました.70%の確率で100点を取るコンセプトから100%の確率で70点を取るデッキへのコンセプトの変更が必要になりました.このような背景から生まれたのがバランスWCです.悪夢のショーWCが4回に1回何もできずに負けても3回必ず勝つのを目指したデッキだったのに対して,バランスWCは4回中4回とも勝負した上で3回勝つのを目指したデッキと言えます.
ここまでの説明で,スキルバランスが強かった理由の1つが見えてきたと思います.いくら初動率を安定させようと構築を練っても初動率100%とある程度の勝率を同時に実現するのは非常に困難でイカサマかスキルでも使わないとほとんど不可能です.スキルをセットするなんてデュエルリンクスを起動すれば数秒でできてしまう作業なのでスキルをセットするだけで勝率が上がるわけですからやってること強すぎますね.
もう1つのスキルバランスの重要な解釈があり「初手確定スキル」は言い換えると「tier表通りのデッキ相性に近づけるスキル」とも言えます.デュエルリンクス界最も注目されているtsuntsunさんのデッキ相性表を参考にしながら考えてみましょう.

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これは2021年2月のKCカップ前のデッキ相性表です.tsuntsunさんのデッキ相性表はその作られた時点での相性をかなり正確に反映されており,この「相性表に上乗せできる答え=その環境の答え」になる可能性が非常に高くデッキ選択の上で重要な指針の1つになります.
〇と✕の関係にまずは注目してみましょう.〇と✕の関係は絶望的な相性差があるので今の構築やプレイプランでは,相性差を覆すのは困難であり大幅な改善案が生まれない限り相性表通りの結果になるでしょう.最も相性表通りの相性になりやすい組み合わせになります.
では〇と△やーの関係ではどうでしょうか?2月のKCカップの場合は聖騎士が先攻の勝率が圧倒的に高いと考えられていたため先攻・後攻を決定するコイントスの要素が強く先攻取れば勝てるけど後攻取るときついというコイントスゲーの状態に多くのデッキが陥ってしまいました.その結果△やーが非常に多い相性表になっていました.仮に△が勝率50%になるデッキ相性だと仮定してみましょう.今回のケースではコイントスという50%の確率に必ずなる事象だけで勝率が決定することで正確に勝率50%になるパターンもあるかもしれません.ではコイントスだけで勝率50%は実現するのでしょうか?これはカードゲームですから,上振れや対策カードを都合よく引けなかったなど一見運要素に見えることも厳密には確率で説明できる事象が非常に組み合わせが多くなるため確率で正確に理解するのは困難なパターンも多々あります(コストさえかければ正確に計算できると思いますが).実際問題,対面勝率50%を実現するのは非常に難しいです.
ここで「初手確定スキル」を導入してみましょう.初手確定スキルの場合,スキルなしのときなら起こりえた初手モンスター・魔法カードのみのような事象は絶対に起きないのに加えて,採用した対策カードが有効に機能する確率も事前に把握できる程度の一定の確率に収まります.△のデッキ相性の対面でありがちな「〇〇デッキは得意だけど✕✕カードは苦手」だから「✕✕の対策カード◇◇を採用しよう」の◇◇が有効に機能する確率を事前に把握可能なのは大きなアドバンテージです.具体例を示すと「WCは剛鬼デッキは得意だけど剛鬼デッキのネクロバレーは苦手」「剛鬼のネクロバレー対策にコズミックサイクロンを採用しよう」です.初手率だけに注目した場合,初手でコズミックサイクロンが有効に機能する確率は「剛鬼がネクロバレー引いて,かつWCがコズサイを引いてる確率」を計算すればいいので,これは確率計算ツールを叩けば数秒で分かり用意した事前ブランが有効かどうかの判断がすぐにできます.実際の確率はデュエル通して引けたか引けなかったかも考慮しないといけないので厳密な確率を把握するのは難しいですが初手だけに注目しても事前プランを練りやすいのはアドバンテージです.
説明が長ったらしくなりましたが,端的にまとめると「スキルバランスは起こりえる事象の母数が減っているので確率通りの勝率を実現しやすい」という強さであり弱さがありました.先攻・後攻の事前プランが用意可能かつ有効なデッキのバランスが強力だったというのを理屈ぽく説明してみました.
実際に2月のKCカップではバランスの強みを活かせたデッキで明暗が分かれて,先攻・後攻プランのブレが小さかったバランスWCやバランストラミッドは結果を残せたのに対し,後攻は罠をプレイと札で踏んでいくしかなかったアドリブの展開が要求された聖騎士は事前評価で期待された結果は残せませんでした.
以上が,「なぜWCは魔法の使い手でもなくリスタートでもなくバランスでなければならなかったのか?」に対する「バランスはなぜ強かったのか?」を軸にした答えです.
リスタートではダメだったのか?の説明は省略しましたが「リスタートは初手枚数の期待値が4枚以下」と「WCの手数は3手」を組み合わせると見えてくる答えがあるはずです.思考実験として気になる人は考えてみて下さい.リスタートの強みと弱みが見えてくるはずです.

ここまでは,バランスWCが強かった理由をバランスに注目して説明してきました.ここからは「なぜバランスWCがKCカップで残した実績数は少ないのに最高成績は金アイコンなのか?」を考えてみましょう.「実績数が少ない」は環境でバランスWCを使用するにはクリアしないといけなかったハードルが多かったと推測できます.クリアしないといけなかったハードルはここまでのバランスの説明で気づいた人もいると思いますが以下にまとめてみます.
①平均70点しか取れないデッキが戦える環境であること
②環境把握及び対面相性を正確に理解できていること
③事前プランを用意できていること

この3点がクリアできる環境でしかバランスWCのようなデッキは勝てず,全ての人が事前プランの答えに辿り着けたわけではありません.
①の平均70点しか取れないデッキが戦える環境は逆に考えると平均70点以上取れるデッキや類似の平均点狙いのデッキしかいない環境では絶対に勝てません.オノマトや聖騎士の2つのみしか存在しない環境でKCカップが行われていれば平均点狙いデッキ同士の戦いなので平均点で負けてるデッキは勝てないです.11月のKCカップのカラクリや2月のセプスロのような100点狙いのデッキが中心に回る環境は,バランスWCが勝てるチャンスだったわけです.
②と③の環境把握及び対面相性の理解と事前プランの用意は両方関連した項目になりますが「環境把握及び対面相性の理解」を具体的に表現すると「tsuntsunさんのtier表に上乗せされた環境での新しいtier表を把握し正確に〇✕△をつける」作業が要求されるということです.「事前プラン」というのは「新しい〇✕△に対する答えをデュエル開始ボタン前に用意する」作業ということになります.これらからバランスWCが導いた必勝法は「事前に確実に勝てると分かっている環境で確実に勝てる事前プランを用意した上で戦う」ということです.バランスWCに限ったことではない必勝法が答えになってしまいましたが,対面相性の把握と事前プランに気づくのが他デッキに比較して難しい面があります.
実は自分がバランスWCで銀アイコンを取ったときにいただいた反応で「この環境でWC1本で勝つのはすごい」があります.これは2月のKCカップで金アイコンを取ったCooperさんのWCにも同じような反応があったと思います.

Cooperさんとは面識がないのでどのように考えていたかは想像するしかありませんが,自分が11月のKCカップで銀アイコンを取ったときと同じ考えなら「この環境でWC1本で勝てる」確信があったと思います.だから自分の場合,すごいと言われる反面,勝てて当然なのにすごいと言われるのに少々戸惑いました.
対面相性と事前プランになぜWCは気づきにくいのかをもう少し具体的に考えてみましょう.11月のKCカップの時点では世界で1番WCの対面相性を理解していたのは自分だと思います.対面相性の詳細が気になる人は以前の自分の記事を読んでください.2月のKCカップのとき世界で1番WCの対面相性を理解していたのはCooperさんです.

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バランスWCを使う事前準備の第1ステップはまず上の画像のような対面相性を正確に把握して〇✕△をつけることが必要です.この作業がWCは難しい場合が多々あります.具体例を挙げてみましょう.例えば,コキュートスが禁止カードになる前はデスペラードデッキに対して召喚獣はコキュートスを出せばデスペラード側に回答札がないので勝てました.この場合,デスペラードはグーしか出せないじゃんけんをしているのに対して,召喚獣はパーを出して必ず勝てるじゃんけんを仕掛けているわけです.効果テキスト欄に書いてある情報だけで絶対に勝てるじゃんけんの関係が分かる対面相性は多くの人がすぐに気づけます.それでは,デスぺラードとWCの関係はどうでしょうか?テキストを読んだだけで正確に〇✕△を答えられる人は多くはないはずです.実際にプレイしながらなら〇✕△がすぐに分かるかと言うとこれも難しい場合があります.調整環境にもよると思いますが,自分が想定している環境が実際の環境と違う場合や,調整相手のWCへの理解度が低い場合など,実際の〇✕△に対して間違った評価をしてしまいがちです.元環境デッキの宿命でもありますが,悪夢のショー以降のWCは常にtier1デッキと比較され続けました.これはバランスWCが少数派デッキになってしまい正当な評価がされない不遇な歴史を辿ったにも関わらず金アイコンが誕生した要因だと思います.よく陥りがちなミスですがtier1デッキと比較するだけでは,常に変化する対面相性表が書き換わったとき全く対応できません.対面相性表の変化の先を読み環境候補デッキを含めた相性を把握しておく必要があります.実際には,書き換わった対面相性表においてはバランスWCは最強デッキの一角でした.正確に〇✕△を把握するのが難しいためWC関係の情報で最も価値がある情報は正確な対面相性表です.だから金アイコンのWCが完成させた上の画像の相性表は世界で1番価値がある情報です.
第1ステップの対面相性表を作る作業がクリアできたとしましょう.事前準備の第2ステップは対面相性表に従って事前プランを用意することです.事前プランというと対策カードを想像するかもしれませんが,対面ごとに札で対策するか,プレイで対策するかを分類する作業と対策法を探す作業です.具体的には,札で対策する事前プランに該当するのは悪夢のショーWCの機械天使の儀式,11月のKCカップのシステムダウン,2月のKCカップの死者への供物が該当します.プレイで見るプランの具体例は以前の自分の記事でまとめているので省略します.事前プランがすぐに見つかれば幸運ですが,見つからなかったり,見つけたとしても間違っている場合もあります.これに関しても調整環境に大きく依存するところがあります.
実際には,第1ステップと第2ステップの繰り返し作業が必要ですが,1つのデッキに対して,最終的に考えた先に答えがあるかどうか分からない状態を長く続けるのは苦痛です.カードゲームに勝つことにおいて,導くのが難しい答えを見つけて勝つのと分かりやすい答えで勝つのは,結果だけ見れば全く同じ価値です.KCカップのような限られた期間の中で答えを見つけることが要求される場合において,高すぎるハードルをクリアしないと導けない答えを探す人が少数派になるのは当然と言えば当然です.
長く当たり前のような結論を説明をしてきましたが,まとめるとバランスWCは勝てて当然の環境で確実に勝てる事前プランを用意して後出しじゃんけんをしていたから強かったわけです.「この環境でWC1本で勝つのはすごい」の真相は,環境に対しての見方の相違によって生じた食い違いです.

1.3 まとめ(WCは難しいデッキの本当の意味)

非常に長く理屈ぽくバランスWCについて振り返ってきました.結論からの逆転の発想になりますが,多くの人がイメージとして持っているであろう「WCは難しい」の本当の意味は「(デュエル開始ボタンを押す前の作業量が多いから)WCは難しい」ということになります.デュエル開始ボタンを押す前に完璧にプランを練ってデュエルに臨めば,あとは決められた作業をひたすら繰り返すだけです.初手確定スキルバランスが完璧なプランを練るというプロセスを補助しプランの実現性が高くなっていたのがバランスWCの最大の強みでした.極論を言えば,完璧な構築と使い方を紙に書いてWC初心者に渡してあげれば,その指示に従って回せばアドリブで展開を考えることもほとんど要求されず,今すぐにでもバランスWC上級者になれます.この状況どこかで見たことありませんか?

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最強ですね.
バランスWCは理論上最強デッキの答えにあと1歩まで辿り着くところでした.

2. これからのWC

過去の栄光を思い出して感傷に浸るのはここまでにしましょう.ここからは未来を見ていきましょう.自分もずっと使っていたバランスWCが構築不可能になり,新しいデッキを探しているところなので,答えはまだ見つかっていません.本章では,今現在自分がこれから練習しようと考えているデッキや今後の見通しをまとめるだけです.WCロスに陥っているWC愛好家の道標になれば幸いです.

①新しいWCデッキを探す
可能ならこれが一番ベストでしょう.ここまで読んでいただいた人は分かっていると思いますが,初手確定スキルが使えなくなった現状のデュエルリンクスのカードプールでは,必ず無視できないレベルで手札事故の問題にぶつかります.この問題に対して答えを出した悪夢のショーWCとバランスWCが構築不可能になったので新しいスキルの模索と構築の変更は必須条件.以前の自分の記事でも書いていますが,既存のスキルは概ね試した経験があり,自分は他スキルとの組み合わせで実用レベルまで持っていくのは挫折しました.一番困難な選択肢だと思います.希望があるとすれば,テーマ自体の規制強化はなかったので安定しないだけで回ってしまえば環境でも戦える十分なパワーがあるテーマです.この可能性を信じて,ここで新たな答えを導けばWC界の救世主であり新たな起源主張者になれるチャンスです.次の金アイコンはあなたかもしれません.

②新規カードの実装を待つ

現状のカードプールで組むのは諦めてWCの新規カードが実装されるのを待つのも選択肢ではあると思います.kinghaloさんの〇〇が来たらヤバいシリーズで紹介されてるように未実装のWC関連カードはまだあります.汎用魔法カードと組み合わせやすいテーマなのでヴォルカニックウォールのような偶然相性のいいテーマ外カードが実装される可能性も低くはないです.実はデュエルリンクスのカード実装ペースがあまりにも速いためOCGの未実装カードのストックは少なくなっています.今の実装ペースが維持されるなら,そう遠くない将来,新規カードを取り込んだ新たなWCが誕生するかもしれません.割と現実的な選択肢の一つだと思います.ただし,待ち続けただけで本当にサ終を迎える可能性もあります.

③WCを捨てて新しいデッキに乗り換える
自分はこの選択肢を取る予定です.「WCを見捨てるのか?WCへの思い入れはないのか??」と言われそうですが,自分は次のKCカップ勝ちたいので...
今までWCをずっと使ってきたのでWCで培った経験は次に活かしたいですね.自分がオススメの再就職先を2つ示しましょう.
1つ目は呪眼です.2月のKCカップで大流行したデッキです.呪眼はWCと同じ弾なのでWCを組んでいた人なら今すぐにでも乗り換え可能です.同じ弾だからという理由だけではなく,呪眼とWCは似たような境遇のデッキだったのでWCの経験は活かしやすいと思います.呪眼は巨大決戦ワンキルに注目しすぎて見落としがちですが,テーマ自体のパワーは特別高いわけではありません.偶然,環境が噛み合い確実に勝てる土俵で戦っていたのが呪眼です.WCとよく似ています.WCで学んだ環境トップデッキをメタる側の戦い方はきっと呪眼でも活かせるはずです.
2つ目は炎王です.炎王にはマスターヴェールの代わりにモンスター効果を止められるガネーシャがいます.ガネーシャもマストカウンターを見極めて手数を限られた手数を効果的に使っていくのが大事なテーマです.モンスターに対しては妨害や突破手段がテーマ内にあるのに魔法・罠カードには触れないのもWCに似ています.デッキへの理解度の差で強弱の開きが大きいところもよく似ていますね.炎王もWC同様,デュエル開始ボタンを押す前の事前プランをしっかり練ることが大事になってきます.WCと類似点が多いテーマなのでWCを楽しいと思えた人にはいいテーマだと思います.これからはメスガキで分からせるのではなく象さんで分からせましょう.
自分も勉強中のテーマ2つなので,まだまだ初心者です.これ以外のテーマでも自分の探求心をくすぐるテーマが隠れているかもしれません.1つのデッキを極限まで高めることは遊戯王の楽しみ方の1つですし,そこまで全力を尽くしたいテーマに出会えたら幸せですね.

3. あとがき

最後まで読んでいただき,ありがとうございました.
自分の考えを整理するために軽く書くつもりが,予想以上に文章量が多くなってしまいました.かなり自論も含まれている上にWC触ったことある人にしか分からないような内容だったので,あまり役に立つ情報はなかったかもしれません.最後まで読んでいただいた方の人生の貴重な時間が無駄になっていなければ幸いです.

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