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ゆるされた時間

カンボジアの遺跡を見学する際、外国人は顔写真入りのチケットが必要だ。再三言われていたはずなのに、入場前に、僕はチケットを持っていないことに気が付いた。
「もしかしたら、バスに置いてきたのかもしれない。」
他のメンバーが観光に向かう中、僕は付き添ってくれたカンボジア人と一緒に、チケットを探すためバスに戻った。メンバーから遅れ、迷惑をかけてしまった負い目から塞ぐ僕に、彼は優しかった。
「バスにチケットがなかったら、カンボジア語で挨拶してみたら?もしかしたらカンボジア人と勘違いして入場させてくれるかもしれないよ」なんて、ジョークを言って元気付けてくれた。
チケットが無事見つかり、僕はメンバーに追いつかなくては、と焦って小走りに進む。

しかし彼は、僕に足元に気をつけてゆっくり歩けと言った。そして遺跡について詳しく説明を始めた。
その時、気付いた。メンバーに追いつくために、僕は今しかないチャンスを失うところだったと。

僕たち二人は、団体客から離れ、誰もいない静かな遺跡を歩き、話をした。

果物を食べる猿の向こうに子どもたち、そして仏像が見える

もちろん、忘れ物をした僕はうっかりしていた。でも失敗は誰にでもある。そして今、見るべきものがここにある。
人に迷惑をかけないことは大切だ。でもそれを重要視するあまり、見失うことがあるのかもしれない。僕にとって、それはゆるされた時間だった。
程なく、僕たちはメンバーに追いついた。

数少ない僕の写真


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