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People Time / Stan Getz with Kenny Barron

「これいいですよ」。いつものようにウィスキーグラスを傾けていると、マスターが今日ご紹介するアルバム「People Time」を聴かせてくれました。このマスター、僕の酒の好みだけでなく、音楽の好みまでわかっています。それはもうくやしいぐらいで、マスターの演出する音の世界にすぐはまり込んでしまいます。

 死期が迫ると、人は最後のきらめきをみせるのでしょうか。それとも、ただ静かに色あせていくだけなのでしょうか。Stan GetzとKenny Barronのアルバム「People Time」を聴くとそんなことが頭にふとよぎります。People Timeはコペンハーゲンのライブハウス、カフェ・モンマルトルで行われたライブの録音ですが、Stan Getzはその三ヵ月後、1991年6月6日にこの世を去ります。癌と闘いながら最高の演奏を続けていたゲッツ、彼にとってジャズは人生そのものだったんでしょうね。

 Stan Getzはソロを終えるたび息を切らしていたといいます。Kenny Barronはもちろんそのことを知りながら彼の演奏をやさしくサポートします。決してでしゃばりすぎず、かといってただの伴奏役でもなくサックスの演奏に合わせて自在に形を変えながら演奏するKenny Barron、まさに理想的なサポートといえるでしょう。まるで、二人は音楽で語り合っているかようです。「わかってるよ、そろそろ終わりかい?」「ああ、もう終わりだけど、急ぐこともないさ」。「楽しそう」僕ははじめて聞いたときそう思いました。2人がつくる空間には、死が迫る圧迫感はありません。温かい安らぎさえ感じます。

 このアルバムの中には数々の名曲が詰まっています。どの曲もいいですが、2人のコンビネーションもさることながら、Kenny Barronが縦横無尽にソロを弾くNight and Dayがお気に入りです。しっとりするFirst Songも最高ですが・・最近涙もろくなりましたのでこの辺で。

注:この記事は僕が以前音楽ブログに書いた記事を編集したものです。いろんな記事をせっかく書いたので、noteで甦らそうと思います。

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