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抄訳"Leading with Vision"-第4回「ビジョンで人をつなげるための4つの本質的な要素を深堀する(2)-明確さを築く」

株式会社シフト・ビジョン取締役の梯(かけはし)です。

前回に続いて「ビジョンで人をつなげるための4つの本質的な要素」の二つ目である「Forge Clarity 明確さを築く」について事例を見ながら深堀していきます。

最初の事例はChris Lofasoがグローバルテック企業でリージョナルマネジメントからよりGeneralなマネジメントへ昇進した際の話です。昇進と同時に彼はそれまでのSan DiegoからNorth CaliforniaにLocationを移動、年商1億ドル事業、3ヶ所合計300名の従業員の責任を担うことになりました。

就任して間もなく、次の三つの領域に集中して手をいれる必要があると結論づけました。

従業員エンゲージメントが低いこと
顧客満足度が目標未満であること
利益目標の未達が続いていること

Bonnie Hagemann, Simon Vetter & John Maketa 2017 "Leading With Vision"

とりわけ組織が混乱している原因が、個人の役割や責任のみならずリーダーシップチームの目標にも明確さが欠けていることであることに気がつきました。そしてリーダーシップチームに信頼が無いことも明らかでした。組織内に垣根(サイロ)が築かれ、チーム間に透明性が無く、重大な非効率を生んでいました。その結果何と10年連続で財務目標が未達だったのです。

もちろん財務目標、顧客満足、従業員エンゲージメントには明確な目標があった訳ですが、それをどうやって達成したら良いのかについての明確な計画が無く、誰も責任を担っていませんでした。この明確さの欠如によって、非難、否定、低い士気の文化が築かれ、やる気の無い社員が生まれていました。

この中でも早急に解決しなければならない最も致命的な問題はリーダーシップチームの機能不全でした。

Chrisはまず個々の役割と責任を明確にし、全員が自分の責任と自分の役割が全体のヴィジョンや戦略に結び付いているのかを理解できるようにしました。次に成功の基準と納期を設定することで責任の文化を植え付け、次にチームがその両方を達成できるように彼らに寄り添いました。そして期待を透明化する文化を築き、チームメンバーが他のチームの成功基準と納期を共有するようにしました。

これに対して従業員は素早く反応します。何が期待されているのかが明確になれば達成しようと思います。責任が明確になれば、喜んで責任を担います。二年後、Chrisのチームは米国全土にある19の同等組織の中で唯一全ての製品部門で利益目標を達成しました。

Chrisは「明確」を「すべての組織レイヤーでの同調と責任を可能にする状態」と定義します。「組織のすべてのレベルで明確になっていれば、従業員は毎日自分のやるべきことに集中します。彼らは何をやるべきか、どうやってやるべきかがわかっているので、結果が達成されるのです。」

Chrisはまた彼の組織には明確な財務目標がある一方従業員がつながる明確なヴィジョンが無いことに気がつきました。このためまずリーダーシップチームと一緒に従業員が心躍るようなパーパスづくりに着手します。そこで次の4点を問いかけます。

1.毎朝何が我々をベッドから立ち上がらせるのか?
2.我々は自分たちの組織に何を求めているのか?
3.我々は何をもって有名になりたいのか?
4.どうすればすべての従業員が自分に役割があることがわかるようにできるのか?

Bonnie Hagemann, Simon Vetter & John Maketa 2017 "Leading With Vision"

幾度もの議論を経てたどりついたのは「顧客ロイヤルティを築き、世界水準のサービスを思い描いて、従業員に権限移譲し、ビジネスを収益的に成長させる」ということです。従業員に権限移譲すれば、エンゲージメントレベルは上がり彼らはコミットします。従業員のコミットメントは高い水準での顧客サービスレベルにつながり、その結果業界一番の組織になります。

Chrisはこう言います。「結局、どういう産業にいたとしても、どういう製品を売っていても、どんな会社に務めようとも関係は無い。結局だれもが人が大切なビジネスをやっているのだ(”We are all in the People Business”)。

昔からフォロワーのいないリーダーは単なる孤独な人だということわざがありますが、Chrisはもうひとつ大切なのがフォロワーシップだと言います。Chrisの経験では人は役職に従うのでは無く、人に従うものであり、最良のリーダーは他者を関連づける価値を示してみせることができる、と言います。

このためChrisは、人生経験が影響を及ぼし形づくることから、チームメンバーは、重要な選択をどのようにしたのか、どんな価値観を抱えているのかを初めとするリーダーの経歴やバックグラウンド情報を少しは理解する必要がある、と強く思っています。それがないと感情的なつながりが欠けてしまうからです。

このためリーダーはこういった情報を進んで共有するだけでなく、弱みを見せる勇気が必要です。Chrisは自分がどういう場所で育ち、どのように育てられたのかといったことを進んで共有し、彼も人間であることを見せています。

チームがリーダーが期待することを理解するのにもう一つ重要なのがチームの憲章(チャーター)です。リーダーが求める価値、行動、期待、人に接する態度、こういったものをチーム憲章に落とし込みます。

Chrisにとってチーム憲章を作る作業そのものが「明確さを築く」行為そのものなのです。例えば「他者への尊重」と言った場合でも、それが日常的にどういう意味を持つのか、逆に他者を尊重しないとどういうことが起こるのかを突き詰めます。その議論の結果生まれたのが次の憲章です。

・我々は全員の多様な意見や価値観を尊重します。
・我々は自分がして欲しいように他人に接します。
・我々は個人的な偏見や判断を持たずに他者の見方にオープンに耳を傾けます。
・我々はとりわけ他者が話したり、プレゼンテーションをする際に他者を思いやります。
・我々は心を開いて理解し傾聴します。
・我々は自分たちの生活が顧客と従業員の手に委ねれられているかのように彼らと接します

Bonnie Hagemann, Simon Vetter & John Maketa 2017 "Leading With Vision"

チーム憲章が素晴らしいのは透明性が徹底されており、誰にでも当てはまる点です。もしChris自身がこの憲章に書かれた行動をとれていないのであれば、誰か他の人が彼を引き留めることを期待しています。つまり全てのチームメンバーが率先垂範することを期待しています。

もちろんどんな組織も同じままでいるわけではありません。今や変革はビジネスを遂行する上では避けがたいものですので、チーム憲章も生き物です。少なくとも四半期に一度はChrisと彼のチームはチーム憲章を見直し、まだ十分パーパス達成に向けてふさわしいものなのか、十分挑戦的なものなのか、関連性が十分なのかどうかチェックしています。そして必要であれば適宜変更し、その変更を組織内にしっかり伝えています。

憲章は新たに組織に入った人達にも必須のものです。Chrisは新たに組織に入った人達にそれをしっかり説明しています。そしてチーム憲章の最もプラスの効果は各リーダーならびにチームのエンゲージメントとコミットメントのレベルが上がることにあります。チームメンバーは若返り、元気を取り戻し、感情的なコミットメントレベルが急上昇します。

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「明確さを築く」べきなのは大きなビジネスだけではありません。小規模のスタートアップであっても同じです。

本書の著者の一人であるSimon Vetterは、ある立ち上げ間近のPRビジネスが自分たちの会社の明確さを築くことができるように、二人のパートナーが個別に回答するための質問表を作成しました。そしてそれらの質問の回答をお互いに共有し、同じ線上で考えているのかどうかをチェックしました。

・自分たちの職務をどのように表現しますか?
・顧客はあなたが顧客のためにしている職務をどう表現しますか?
・あなたが顧客に創造した成果物は何ですか?
・顧客が電話を掛けて来た時に何を求めていますか?
・あなたの理想的な顧客はどういうもので、それは何故ですか?
・あなたが採用する人はどういう属性やスキルを持っていますか?
・あなたは会社の文化をどのように表現しますか?
・あなたの職務上の感情的な目標は何ですか?
・あなたの職務上の財務的な目標は何ですか?
・あなたのリーダーとしての個人目標は何ですか?
・あなたにとって成功とはどのようなものですか?

Bonnie Hagemann, Simon Vetter & John Maketa 2017 "Leading With Vision"

この質問に回答することで、戦略を形作り、また従業員や顧客に自分たちのビジネスを明確に説明する助けとなるであろう共通のテーマや願望が浮き彫りになります

さらにこの取り組みの続きとして、二人のパートナーが今後5年間で自分たちのビジネスがどう変化するかについての物語を書きました。これは古典的な「見える化」作業です。これを仕上げると、彼らは自分たちの文化をどうしたいのか、仕事をしたい顧客とはどういう人達なのか、雇いたい人はどういう人なのか、どのようにチームを形成したいのか、自分たち自身の役割がどのようにビジネスの成功に影響を及ぼすのかが明確になりました。

このようにして二人のパートナーは自分自身で明確さを築き、成長中のチームと目標を共有したのです。5年後彼らは新しいオフィスにいました。色鮮やかで、オープンな空間、35名もの従業員を雇い、しかも彼らの多くはY世代でした。彼らパートナーは先に「見える化」したものすべてを達成していました。

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これらの例は明確さを築く能力があり、それを差別化に使うことができた事例でした。しかしそういう例ばかりではありません。2015年にINSEADが発表したNokiaのケーススタディ(”Who Killed Nokia?Nokia Did”)では76名のトップ・ミドルマネジャー、エンジニア、外部専門家のインタビューを通じてどのようにNokiaが間違った方に向かったのかを明らかにしています。

2007年にNokiaの利益の55%は携帯電話部門からのもので、市場を席捲しhていました。それがiPhoneの登場で、「真実を話すことを恐れ、気難しいリーダーと怖がる中間管理職の文化に組織的な恐怖が蔓延」しました。

NokiaのマネジメントはVisionでリードせず、これまで通りで行くことを選択したのです。そして組織は混乱し、「トップマネジャーの反応を恐れて、ミドルマネジャーは黙り込むか楽観論を提供するようになります。実際にリーダーシップの欠如により、逆境に際して、皆が進捗、売上、熱意についてすべて嘘をつくようになったのです。」

そしてNokiaのチーフデザイナーだったAlastair Curtisによると2006年から09年の間は「デザインよりも社内政治との闘いにより時間を使うようになっていった」と言います。

2013年にNokiaは2007年の株主資本の数分の一でMicrosoft に買収されました。「Nokiaのトップマネジメントは、組織の本当の姿を理解するためにも、もっと真摯に心理的な安全性のある対話・内部調整・フィードバックの機能を促し、自ら率先して行うべきだった。そうすれば何が実際に可能で、何ができないのか、そして何よりもどうすれば良いのかがわかったことだろう。」

バーチャルであることが格好良く便利である現代だが、それでも対面による対話はより明確にするために大切です。世界で有名な消費者ブランドの北欧事業のCEOであるRobertの会社は、毎年二日間のマネジメント会議のためにトップ80名のマネジャーをストックホルムにまで集めています。

2015年にビジネスが不調だった際、従業員にコスト節約を強いる中、80名ものマネジャーを出張させるのは誤ったメッセージを出すことだと考え、RobertとCFOのAndreasが4ヶ国に出向き、各地域のマネジャーと戦略に関するセッションを開きました。Robertはそれまでのマネジメント会議と違い、今までにないほどのフィードバックがあったことを実感します。これこそ対面効果と言えるでしょう。RobertとAndreaはそれまで以上の労力が必要だったのですが、努力が報われManagement Teamとより強い絆を築くことができました

Y世代の従業員は、初めての”Digital Native”でありデジタルでのコミュニケーションに熱心ですが、いつもそれが最善という訳では無いのです。「明確さを築く」というのは、最善のコミュニケーション手段と内容を決定するのに時間が必要だということです。

以上が、第6章の抄訳です。次回は第7章のBuild Connectivity つながりを築くを深堀していきます。

(続く。本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。)


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