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抄訳"Leading with Vision"-第3回「ビジョンで人をつなげるための4つの本質的な要素を深堀する(1)-勇気を体現する

株式会社シフト・ビジョン取締役の梯(かけはし)です。

前回の抄訳”Leading With Vision”-第二回「ビジョンで人をつなげるためにリーダーに必要な4つの本質的な要素」では4つの要素として(1) Embody Courage 勇気を体現する、(2) Forge Clarity 明確さを築く、(3) Build Connectedness つながりを築く、(4) Shape Culture 組織文化を形作る、をご紹介しました。

今回はまず上記4つの本質的な要素の最初の「Embody Courage 勇気を体現する」について事例を見ながら深堀していきます。

前回ご説明した通り勇気には「大胆になる」勇気「弱みを見せる」勇気があります。

(1)「大胆になる」勇気

最初の事例は、スイスにあるソフトウエア関連のスタートアップ企業Coresystemsです。創業者であるCEOのMinuel Grenacherは、大学卒業後間もなく、既存のテクノロジー企業が提供するOn-siteカスタマーサービスが顧客のニーズに対して十分では無いことに気がつきます。iPhoneの普及と相まってテクノロジーの範囲はますます拡がりつつあり、テクノロジーがうまく動かないと仕事も家庭も大きな影響を被る時代になってきました。

このため彼は「業界No.1の現場ベースの技術カスタマーサービス組織を作る」という大胆なビジョンを作ります。カスタマーサービスをどこよりも早く、リアルタイムに、フレンドリーに提供する企業を作りたいと強く望みます。実際のところ参入障壁は高くはありませんでした。調べれば調べるほど大企業のカスタマーサービスは酷いものでした。

最も大きな障害は、素晴らしいカスタマーサービスを提供するには、適切なスキルを持った適切な人材を、適切な時に適切な場所に持つことが必要だと気がつきました。大手の企業で流行しているのは、カスタマーサービスセンターを労務費の安いインド、フィリピン、タイなどの国に移転することでした。こういった方策はコストは切り下げられてもサービスレベルは落ち、効果性は悪化、その結果顧客満足度は低下していきました。

Manuelは自分たちのサービスをUberと比較します。コアビジネスを動かすのにわずかな従業員を雇う一方、現場に近いローカル人材を利用します。仕事はプロジェクト・契約単位の業務として担い、ローカル人材は他の会社や個人事業をやることも自由とします。

通常テレコム会社に電話すると、一週間経ってやっと技術者が来て、しかも技術者が訪問する時に顧客は家にいる必要がありその手間もかかります。Manuelは、電話をもらったその日中、理想的には3時間以内に、技術者が来るようなサービスを作りたかった。そしてこのサービス提供で問題なのは、人では無く、物流の問題であり、技術によって解決可能だと判断しました。

彼らはMilaという製品を開発し、まずスイスで最大のテレコム会社であるSwisscomsh社に提供し、”Swisscom Friends"というネットワークを築きました。このネットワークの参加者はテクノロジーに明るい個人で、技術や知識を駆使して顧客の問題を解決できる人達です。

MilaというPlatformを使えば、”Swisscom Friends”に参加した個人は、自分はいつ働いて、どんな注文に応えるのかを自由に選択できます。Milaはすぐにサービスサポートして欲しい個人と”Swisscom Friends”参加者を橋渡しし、一時間単位で求められているサービス内容を参加者に伝えます。この柔軟な働き方がY世代の労働者にバカ受けしました。

Manuelのこの「大胆な」勇気とサービス提供モデルは色々な想定外のベネフィットを提供しました。「まず近隣地域にコミュニティを形成」し、「次にFriendsはローカル人材なので旅費が不要」となり、「さらにはFriendsたちはテクノロジーの立場で説明するのでは無く、顧客がわかりやすい観点で問題を解決する」ことがわかりました。

その結果「Swisscomは金を節約でき、カスタマーも支払いが少なくて済み、Swisscom Friendsは収入が得られる、という三方良しが実現できた」といいます。

またPlatformを通じて得られるデータを使えば、顧客と技術者との接点を地理的な観点だけでなく、例えば利用言語といった観点でもマッチングができる。

Manuelが当初このIdeaを考えた際に、コストがかかる上、誰もこのIdeaがうまくいくとは信じてくれませんでした。彼のVisionを皆に理解してもらうのが大変だったのは、何しろ今までと全く違うビジネスモデルのため説明を聞く方が想像できなかったのです。それでも彼はCompellingなVisionを繰り返し売り込み、ついにはSwisscomでパイロット運用することに成功します。

Swisscomでも最初はチューリッヒの街でわずか200名のFriendsから開始しました。そこで得たデータを使ってSwisscomへのフィードバックのためのKPI分析を行い、SwisscomのCEOに提供、顧客が大満足であることを示します。これが大きな転換点になりました。

もしManuelがVisionの追求を諦めていたら、彼らのアイディアはすぐに死に絶えていたでしょう。人々はたとえ変化が必要であっても変化を嫌います変化を起こすためには大胆さが必要なのです。例え小さくても素早い実行ステップが上手く行けば、Visionが現実に変わるのにそれほど時間は必要ではありません

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二つ目の事例はSan DiegoにあるJimbo's…Naturally!という5つの店を持つ生鮮食料品ストアチェーンです。彼らのレジには「すべての子供のリサイクルランチバッグにオーガニックフルーツを」という大胆なビジョンが掲げられています。

創業者のJim ”Jimbo” Someckは熱心なランナーで、厳格な菜食主義者。次世代のための環境保護と誰にでも健康なライフスタイルを奨励することに熱心です。

New YorkのCornell大学を卒業後、San Diegoで協同組合でボランティアとして働き、1984年に健康食品ビジネスを始め、高品質なオーガニックおよび自然食品の提供に熱心になります。

彼は2016年に”The Jimbo’s Ethos"として、ビジネス行動指針と地域社会での役割についてシンプルな言葉で権利章典=エートスを作り上げました。このエートスの主要な要素の一つが人工原材料を一切使わないということした。

彼はたとえ遺伝子組み換え製品(GMO)のサプライヤーから、自分たちの製品を扱わなければ顧客を失うぞ、と警告されても信念を曲げませんでした。Jimは彼の原理を保持するのであれば喜んでそのリスクをとる、とサプライヤーに伝えました。その結果大手メーカーが彼らのGMOに対するポリシーを変更するに至りました。

今ではJimbo’sのビジョンは現実となり、GMOに対する妥協なき姿勢は忠実な顧客基盤を築きました。

さらに2008年にはJimbo’sは顧客にレジ袋の提供を止めました。顧客へのインセンティブとしてリサイクルバッグを持参した顧客には木製のニッケルコインが提供され、また木製ニッケルコインによる収益はすべて地域の非営利団体に寄付されます。こういった取り組みの結果は、Jimbo’s…Naturally!に数々の表彰をもたらしました。

この二つの事例で見られるように、大胆なVisionを持つことは素晴らしいですが、必ずしも自動的に上手く行くわけではありませんVisionは大胆であればあるほど、人を説得するのは難しくなります。しかし良い面は、ちょっとした成功がより大きな成功につながることです。新しいアイディアが素晴らしい結果をもたらすのを見れば人はすぐに飛び込んできます。

(2)「弱みを見せる」勇気

次に「弱みを見せる勇気」ですが、この勇気はもっと個人的な問題です。

「弱気を見せる」とは自分を曝け出して、人間としての不完全性をすべて見えるようにすることです。このため「弱気を見せる」ことは大変難しいわけです。

人間は不完全であり、ミスを犯す。失敗するし、上手く行かないし、自分の思考がマヒすることもあります。そういう失敗や躓きを他人に認めることが難しく、恐ろしく危険で勇気が要るのです。

私たちはリーダーが弱みを見せたがらないのをよく目にします。自分が弱いところを見せたくないからです。しかし「弱いこと」と「弱みを見せること」の違いは勇気なのです。弱いリーダーは決して強くなれませんが、弱みを進んで見せるリーダーは強くなれるのです。

Bunge North Americaという1818年にAmsterdamで創業されたグローバル農業関連企業の最大ビジネスユニットのCEOであるTodd Basteanと彼の同僚はまさにこの二つの勇気を持つ事例と言えます。

Toddは2013年にそれまでのCFOからCEOに昇進し、その後彼と彼の上級幹部チームはあらゆる方面で大胆な変革を起こします。そういう中でToddのLeadership Styleは「弱みを見せる」勇気で輝きました。

元々英語の”Courage”の語源はフランス語の”Curage”で内的な強さを言います。Toddの場合、他のLeader達と違うのは、強みと弱みを認識することを厭わないことです。Toddは感情的にリスクを取ることで弱みを見せる勇気を見せます

彼は自分が持つ思いやりの性質を隠そうともしません。個人的にもハグやプレゼントを贈り、職場や家庭で問題が起きた人を呼び出します。彼と多くの時間を過ごす人は同僚について話をするときに彼が涙を流したり胸が一杯になる様子を見たことがあります。

Toddは安全に関して同社はそれまでも高い標準を設定し、ゼロ災害を目指していたのですが、彼の安全への関心は彼自身の経験に基づいたものでした。彼がまだ子供だった頃に、伯父が労働災害で亡くなったのです。Toddはその事故が起きたこと、ならびにその事故が家族全員とその人生に及ぼした影響をしっかりと覚えていました。

彼はそういった個人的な経験を同僚に話すことを厭いませんでした。彼の安全に対する情熱とビジョンを一人でも多くの人と共有したいと願って自分の弱みを曝け出したのです。

Toddは労働災害が起きた時に地球上のどの場所であっても自分自身に起きたことのように感じます。そしてどうすれば離れていたもそういう悲劇を防止できたのかについて考えます。BNAではゼロ災害は徹底されており、一つであっても災害は認容できるものでは無く、ゼロ災害は達成可能なものだとされています。

彼は安全に関するイベントにも積極的に参加し、過去一年間に23工場を訪問、工場メンバーと関わり、安全面の施策の進捗状況について議論します。そして安全面での節目を達成した際やホリデーの際には手書きで手紙を送ります。そして同じような行動を彼の上級幹部にも求めます。

その結果休業災害は概ね50%減少し、総労働災害件数は20-30%減少したのです。

Toddがもう一つ自分自身の弱みを曝け出した例として、彼が”Dancing with the St. Louis Stars”に参加した時のエピソードがあります。このイベントはSt. Louisの著名なリーダー達がIndependence Centerという重い精神障害のある人達が自立して生活し就業できるように高度なプログラムを総合的に提供する組織の資金提供を目的としています。

Toddはプロのダンス教師であるLucyからのダンスパートナーになって欲しいという要請を受け入れた際に、自分の時間を費やす以上のことをしようと決意します。それはダンスコンテストで勝ち、楽しみ、他の人と違うことをすることでした。彼とLucyとのパフォーマンスはこちらのYouTubeで見ることができます。Toddはもちろんプロのダンサーでは無いのですが、彼のパフォーマンスは真剣で、弱みを曝け出し、人間味があって、勇気のあるものです。他人がどう考えるかは関係ありません。結果的にToddとLucyはセンターのために250,000ドルもの資金を調達できました。

社会科学者で恥の研究家であるBrene Brownはこう結論づけています。「弱みを見せるということは弱いということではありません。基本的に不確実性、リスク、感情面の露出です。私たちの唯一の選択は、自分自身が弱みを見せることに積極的に取り組むかどうかの問題です。自分の弱さを認め、それに積極的に取り組む意欲が、私たちの勇気の深さと目的の明確さを決定します。私たちが自分自身を脆弱な状態から守るレベルが、私たちの恐怖と断絶の尺度です」。弱みを曝け出す際には、心からそうしなければなりません。人は嘘に気がつくのがとても得意です。もしリーダーが本当に傷つくリスクをとっていなければ、その弱みの見せ方が本当のものでは無いと気づき、人の心を揺さぶることはできません

リーダーシップでキーとなる原則があります。重要なのは意図では無く、毎日示して見せる行動こそが一貫性のある信頼と信用を築くのです。ここで挙げられたリーダーは皆単に人に何かをもたらそうとしたのでは無いのです。彼らは彼ら自身が行動し、自らのリーダーシップスタイルや対話で影響を及ぼしたのです。そうすることであわや嘲笑や批判を招きかけたことでも尊敬や忠誠を勝ち取ることができたのです。

結局、人々に責任とモーティベーションを与えるのは、内容では無く、どのように彼らの心を揺さぶるのかです。フランスには、「音楽で重要なのはそのToneだ」ということわざがあります。これはLeadershipにもつながるもので、Leadershipで重要なのは言葉では無く、大切なのはLeaderが示した感情がチームを揺さぶり、感情的なつながりを築き、行動面での変化を起こし、最終的に成功を招くのです。

以上が、第5章の抄訳です。ここまでで十分のボリュームになりましたので、ここからは一章ずつご紹介することとします。次回は第6章のForge Clarity 明確さを築くを深堀していきます。

(続く。本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。)






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