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浦和レッズ外国籍選手契約期間について考える


はじめに

ボスマン判決以降、サッカー選手の契約は以前のものとは様変わりしている。それは端的にいえば契約が切れたら他のクラブと契約できるということだが、それに伴って契約切れ6ヶ月前以降には選手側が現所属クラブの了承なしに将来の移籍先クラブと交渉できるようになっている。
したがって、選手を所属させているクラブは契約期間が残り6ヶ月に至る前にその選手と契約し続けるかを判断しなければならない。実際には、契約が切れる1年前の移籍ウィンドウで契約を更新するか、さもなくば契約を更新せずに放出を容認するか、どちらかを選択する必要があるということである。

ボスマン判決以前、保有権の売買で移籍金を得ていたのが、判決後は誤解を恐れずに言えば、残り1年の契約期間を売買するように変化したのである。

この点を踏まえると、23年夏のウィンドウでのパリ・サンジェルマン(PSG)とキリアン・エムバペ選手との間の契約をめぐる騒動がわかりやすくなる。PSG側は残り2年以上の契約期間が残っていると思っていたものが、選手側がオプションを行使せずに契約期間が突然残り1年になったということによる衝突である。他にも色々あるのだろうがそのあたりが本質であろう。

このような変化により、契約期間は、特にレッズが最近契約することが多い20代最終盤から30代序盤の選手だと2年が基本。実績などがあって長く契約する選手で3年みたいな感じになると思う。


所属外国人選手(獲得順)

キャスパー・ユンカー Kasper Junker

21年冬のウィンドウで獲得。当時はブラジル人FWのレオナルドがシーズン前キャンプの途中で中国クラブへ移籍、興梠慎三も前シーズンに負った怪我によって出遅れる見込みだったため、急遽ストライカーを獲得する必要があった状況だった。
移籍ウィンドウが閉じるギリギリでの獲得だったため、渡日に必要なビザの発給などを待てなかったため、フェイエノールトの協力によってロッテルダムの施設を使わせてもらい、当地でメディカルチェックを行った初めてのケースでもあった。
そんな事情もあったので、当初の契約はおそらく23年1月までの2年間であっただろう。確かデンマーク紙の報道による(元記事を探したが見つからなかった)と、22年の冬のウィンドウでヴィッセル神戸から移籍金6億ほどの完全移籍のオファーがあったものの、浦和と新たに25年1月まで新たに2年の新契約を結ぶことで合意したという。その際に年俸もおそらく1億円前後になったのではと思っている。

22年シーズンでは怪我の影響もあっただろうものの、出場機会が減少していたこともあって、23年1月に名古屋グランパスに期限付き移籍。完全移籍でなかったのは、グランパス側が怪我等のリスクを嫌ってのものだろうか。
結果的にはグランパスで活躍、シーズン中にサウジアラビアのクラブから年俸で2〜3倍にもなるような巨額のオファーを受けたともいい、それで彼の年俸の相場は3〜4.5億程度の額まで上がっていそうである。
浦和との契約は残り1年となるため、契約を延長しない限り期限付き移籍の延長はあり得ない(期限付き移籍終了後にフリーで移籍されてしまうため)。他クラブへの完全移籍なら5〜6億程度の移籍金、さらに上昇した年俸の負担が必要なため、だいぶ高額な選手となっている。


アレクサンダー・ショルツ Alexander Scholz

21年夏のウィンドウで獲得。この時期、他に酒井宏樹、江坂任などを獲得しているため、いわゆる「フットボール本部」体制の信頼性が確立した原因の一員でもある。契約は実績から鑑みておそらく25年1月までの3.5年。0.5年は秋春制と春秋制の間隙を埋めるものである。
24年1月には残り契約期間が1年となるため、クラブの信頼も高いことを考えると更なる契約の延長交渉が行われるはずである。


ダヴィド・モーベルグ Jens David Joachim Moberg-Karlsson/アレックス・シャルク Alex Schalk

22年冬のウィンドウで獲得した2人。契約期間は2人ともおそらく24年1月までの2年。恐らく23年頭に契約を更新しなかったことから、7月からは2人とも移籍先を探していただろう。モーベルグは23年夏のウィ ンドウでギリシャのアリス・テッサロニキへ期限付き移籍。期限付き移籍の期限は明示されていないものの、1月の契約期間満了でそのままフリー移籍するものと考えられる。シャルクは23年シーズン限りでの契約満了による退団が発表された。こちらは退団後、噂のあった古巣NACブレダにフリー移籍するだろうか?


ブライアン・リンセン Bryan Linssen

22年夏のウィンドウで獲得。残念ながら怪我により22年シーズンはあまりプレーできず。契約期間は確かオランダ紙の報道によると26年1月までの3.5年とあったと思うが、中には25年6月までの3年とされるものもある。欧州のシーズンに引っ張られた誤記であろうか?
夏のウィンドウでユトレヒト移籍という噂があった(現地記者により直ちに否定された)が、その際のファンの声を見ると、その手の欧州の中堅クラブは、今後化けるかもしれない若手選手に投資することは好まれるが、実力は別としても、彼のようなベテランを移籍金を払ってまで獲得するのは否定的なようだ。モーベルグやユンカーのような期限付き移籍、あるいは浦和レッズ側が違約金を払っての契約解除からのフリー移籍、あるいはヨーロッパになかなかツテを持たないアジア地域のクラブへの有償移籍ならともかく、現在の状況で欧州のクラブが移籍金を払って獲得、というのは少しリアリティが低いように感じられる。


マリウス・ホイブラーテン Marius Christopher Høibråten

23年冬のウィンドウで獲得。当時前シーズンレギュラーだった岩波拓也に海外移籍の話が来ており、実際にシーズン前のキャンプからも離脱していたことから、その対応策として獲得した。
その状況からすると、25年1月までの2年契約でも、26年1月までの3年契約でもどちらも考えられるが、2年契約なら24年1月には契約更新の交渉が行われうだろう。


ホセ・カンテ Jose Kanté Martinez

23年の冬のウィンドウで獲得。Giorgos Giakoumakis(ゲオルギウス・ギアクマキス)の獲得に動いていたという報道があったが、獲得に失敗した代わりに獲得したとされる。契約期間はおそらく26年1月までの2年ではないかと考えられるものの、今シーズン限りでの引退を発表した。
引退がどうこうではないのだが、純粋に制度とか法的なところへの興味として、選手側の事情で契約を解除した場合、選手本人や移籍先のクラブが違約金を支払うわけだが、こと引退の場合、そういったことにならないのは、契約上でその旨明記してあるだろうか?


エカニット・パンヤ Ekanit Panya

23年夏のウィンドウで獲得(24年12月末までの期限付き移籍)。
“ブック”・エカニットに関しては他の外国籍選手とは毛色が違い、提携関係にあるムアントン・ユナイテッドから他の2人のタイ人選手とトライアルで練習に参加した上で期限付き移籍にこぎつけた。タイ人選手はJリーグの提携国枠にあたるため、リーグとルヴァンカップでは制度上外国人としては取り扱わない。AFCチャンピオンズリーグでは、1枠が配分される自国以外のAFC加盟国の選手枠に該当する。
買取オプションも付いているとはいうが、完全移籍を勝ち取れるかどうか、出場時間も増えており、レッズ側の感触は良さそうに思えるが、ここでの監督交代がどう出るか、という状態である。


こうして見ていくと、23年の12月から24年の1月にかけては、ユンカーの移籍、もしくは契約更新、ショルツの契約更新、モーベルグとシャルクの移籍、ホイブラーテンの契約更新(2年契約の場合)、エカニットの獲得(完全移籍させる場合)に加え、まずはスコルジャの後継監督と契約しなきゃならないし、新たにどんな選手を獲得するか相談しないといけない。海外から帰ってきた酒井宏樹は外国人と同様の契約形態になっているはずで、3年契約ならショルツと同じタイミングで契約更新があるしで、担当者は目がまわるほど忙しいはず。
それでもどれ一つとして適当で良い仕事はなく、結果にダイレクトに結びついてくるとなると、思うだに大変な仕事だ。