具体的に伝えたら大コケした経験、からの今思うこと

「何言ってるかわかんない。具体的に言って」
「もう少し具体的にお願いします」
「具体的に言うと、どういうこと？」

という言葉はあちこちで飛び交う。
私も言うよね、めっちゃ言う。
ただ最近ふとふりかえると、ここに落とし穴があったなあ…って思うことがいくつか。

で…大コケした、というのはこんな話。

10数年前にまだ市役所の人だったときのこと、我ながらとってもいい事業を立ち上げた。自画自賛で恐縮だけど（笑）、ほんと「我が人生でこれが一番じゃないか」と思えるような嬉しい事業成果が出た。何もないところから周りを無理やり巻き込み、多くの協力を得て、私の思いを形にして思った以上に成果が出た、そんな手ごたえがあった。
なので、すぐ「これは広めたい」と思った。

広めるうえでの課題は「わかりにくさ」だったけど、幸い「やってみた結果」が目の前にあったので、それを熱く語れば伝わるのでは？と思った。いいねー！の声はたくさん集まっていて、ぜひぜひ、と言ってくれる人も出てきた。（広めるっていってもお金をかける話でもなくて、ほぼ制約はない）

ところが思うようにはまったく進まなかった。
めちゃくちゃ賛同してくれているのに、いいよね、ぜひって言ってくれるのに。こんなに協力してくれる人がいるのに、思いを持ってくれているのに…何がどうダメなんだろう…と考えた。そうこうするうちに大元の「自分が立ち上げたもの」も止まっていた（私が職場を離れて数年後のこと）。

「あれもいいけど、別のことをやろうかなと思って」
「今忙しくてちょっと出来ないんです」
みたいになっていった経過を外から見ていて、誰一人悪くないとも思っていて、ただ私が間違っていたのは「こうやるとこうなるんですよ」という具体的なことしか伝わっていなかった、ということなんじゃないかということ。

いや、最初はもちろん「こういう考え方で」「こういう背景があるからこういう狙いで」「こんなマインドで」ということから話すのだが、すぐに
「ようはどうやればいい？」
「具体的に◎◎はどうするの？」
という一問一答のような、やり方マニュアルみたいな会話になってしまう。
わけわかんない事業だったから、みんな一生懸命に「私がやったようにやろう」として具体的なことを質問し、それをやろうとしてくれた。

けれど、本当はやり方は一つじゃないし、厳密な、誰がどうやっても上手くいく手法を開発していたわけではない。
私が見えていたのは「ねらい」とそのために創った制約、くらいで、そこに行けたら「どうやっても」よかったのだが、伝えた相手にはそう伝わらず、ただただ「WHAT」を表面的に取り入れる、みたいになった。
そして、大事なポリシーとかマインドが伝わらず、表面だけが「やるべき」or「やってはいけない」こととして受け取られて、「せっかくやったのに」結果が今一つだとやる人たちのテンションが下がる、そして「ほかによさそうなもの」を見つけて止まる、ということになっていった。

似たような話は私のこれだけじゃなく、あちこちで言われる。

「企業は事例を欲しがるけど、事例ばかり集めてても結局自社とは状況が異なるのだから使えないって言ってる。あるいはそのままやって結果が出なくてまた別の事例を欲しがるんだよね」
…みたいな話を言ってる専門家はたくさんいる。

具体的にはどうなのか？と聞けばわかりやすく答えを言ってくれる人が求められるが、実際には聞いただけで取り入れない人が大半だったりする。
そりゃそう、その事例があなたの状況にいつもマッチしているわけではないのだから。具体的なその話の中にある肝は何か、ようはどういう狙いなのか、エッセンスは何か、そこが重要なのにそこを見ないで終わってしまう。

子育て論でも、部下とのコミュニケーションでもなんでも同じ。

たとえ抽象度が高くても、そこをお互いに「つまりどんなこと？」と語ってすり合わせていかないと、日々の変化の中では対応できない。
その過程で「たとえば◎◎が◆◆になるようなことだよ」って具体的な例示が必要なことはあるけれども、それも「ああ、なるほど」じゃなくて「私はそれを△が～になること、ってとらえてるけど、同じ？」と確認しあわないと、やっぱり大きくズレちゃう。

チームで何かをめざしていくとき、ここに穴があるよなあ…としみじみ思う。ただ、具体と抽象の往復を苦手としている人や、そもそもやれない人が案外多いってことも感じていて、そこのすり合わせには課題を常に感じている今日この頃。
もしあなたが身の回りで「なんかわかりあえない」「なんでこんなにズレてる？」と思うことがあれば、こんな視点も参考になるかも、です。

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