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「穴のなかの君に贈る」

「女の子だったら。アナなんてどうかしら」
君は確かにそう言ったんだよね。
「アナってまさか、あのアナかい? なんだか男を見る目がなさそうなんだけど。どんな字を書くの? まさか穴じゃないよね? まちがっても仕事に穴をあけたりしないよね?」
 だけどもう確かめる術もない。君はひとりで深い穴の中に行ってしまったから。残されたぼくとアナはそれなりにうまくやってきた、少なくとも自分ではそう信じていた。ある日思春期の娘が言った。
「ねえパパ、あたしの名前本当はハナじゃないかなそんな気がする」
ANAじゃなくてHANA。足りなかったHはいつのまにか寝そべって穴の下にもぐりこんで、空虚な空気の空を娘との間にもたらし始めた。
「やっぱりお前はあのアナのように薄っぺらい男と手を取り合って出ていくのかい?」
「それができたらどんなにいいかしら」
 パパだってずっとまえからわかっていたよ、いつかこの日が来ることは。だからアナの中の君に花を贈ろう。

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