テイラー・スウィフトと「偉大なるアメリカの終わり」


柳瀬さんが書いていたテイラー・スウィフトの話。とてもおもしろかった。

僕もいろんなところでテイラー・スウィフトについて書いてきたけど、特に日本のマスメディアでは「経済効果!」みたいな取り上げ方ばかりだよなあと思っていた。音楽そのもの、曲そのものがフックになるよりも、現象ばかりが取り沙汰されているというか。

https://newspicks.com/news/9519009/


それはそれで非常に興味深いことなんだけど、それ以上に語るべきは、アメリカで共有されているテイラー・スウィフトの「物語」のことだと思う。

やっぱり2024年のスーパーボウルでは「テイラー・スウィフトがトラヴィス・ケルシーに祝福のキス」という場面が多くの人たちの記憶に刻まれたわけで。大統領選に関してもそうだけど、現代アメリカの歴史の主役になっている感がある。(もちろんビヨンセもその一人だと思う)。

https://www.vogue.co.jp/article/taylor-swift-travis-kelce-kiss-2024-super-bowl

で、テイラー・スウィフト自身も、アメリカ近現代史を紡ぐというところにすごく自覚的なんだと思う。

そういう文脈でテイラー・スウィフトを語るならば、『folkrore』に入っている「The Last Great American Dynasty」が最重要曲じゃないだろうか。なんせ「偉大なるアメリカ最後の王朝」という曲名なわけなので。僕自身とても好きな曲。

https://www.youtube.com/watch?v=2s5xdY6MCeI

https://www.youtube.com/watch?v=5W4jYjQZwS0


この曲はレベッカ・ハークネスという実在した女性についての曲。レベッカは1950年代にスタンダード・オイルの後継者と結婚して大富豪となり、未亡人となってからはアートやバレエのパトロンとしてその奔放な生活と共に名を馳せた。歌詞の前半では「ホリデー・ハウス」と名付けたその豪邸での暮らしぶりが歌われる。歌詞に出てくる「ダリ」はサルバドール・ダリのこと。


And blew through the money on the boys and the ballet
(男の子たちとバレエにお金を注ぎ込んで)
And losing on card game bets with Dalí
(ダリとトランプで賭けて負けた)

Taylor Swift ”the last great american dynasty"

で、この曲がすごいのは途中で人称が変わることなんですよ。「She had a marvelous time ruining everything」(全てを台無しにして最高のときを過ごした)と歌われていたサビのフレーズも含めて、後半の歌詞では主語が三人称の「She」から全て一人称の「I」になる。その切り替わりのタイミングでこう歌われる。

And then it was bought by me
(そして私のものになった)

Taylor Swift ”the last great american dynasty"

このラインは、2013年にテイラー・スウィフトがレベッカ・ハークネスのホリデー・ハウスを1700万ドルで購入しているという事実によって強力な意味を持つ。

つまりこの曲は、最初はレベッカ・ハークネスの奔放で幸せな暮らしを伝承(=folklore)として語るように見せかけて、いつの間にかテイラー・スウィフト自身の物語にスライドしているわけなのだ。

テイラー・スウィフトのソングライティングが強力なのは、こんなふうにフィクションとノンフィクションが重なり合っているところだと思う。

そう考えると、ずっとトーンをおさえて淡々とストーリーテリングの歌い方をしてきたテイラーが、曲の最後でオクターブをひとつ上げて「I had a marvelous time ruining everything」と繰り返し歌うところにすごくグッとくる。全てを台無しにして最高のときを過ごしてきたんだ、って。

そうだよなあ、と思う。

彼女は「最後の偉大なアメリカ王朝が失われてゆく」と歌う。

「帝国」としてのアメリカの歴史は終わりに向かっていく。みんながうっすらと抱えていた気分をその言葉が射抜いたことも、2020年代に入ってからのテイラー・スウィフトの大躍進のひとつの理由になったんじゃないかと思う。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?