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「自分の考えを持つ」ということ

先日「C'MON C'MON(カモンカモン)」という映画を観ていたく感動したのだが、何がびっくりって、アメリカの子供たちが想像をはるかに超えるくらい思慮深くて哲学的で、何より「自分の考えをしっかり言える」ということ。
ホアキン・フェニックス演じるジョニーがラジオ番組を制作する人で、その番組の素材となるのが一般の子供たちへのインタビュー。アメリカの様々な州で、とりわけ移民の子供達に世の中のことや自分の将来のことなど、多様な質問をしていくシーンが劇中に散りばめられている。「C'MON C'MON」はどこまでが仕込みでどこからがリアルかよくわからない半ドキュメンタリーみたいな構成なのだけど、このインタビューに関してはリアルだと私は思っている。それ前提で考えると子供たちの回答が本当にすごい。
まずレスポンスが早い。質問の意図を瞬時に理解している。そしてちゃんと「自分」を主語にして思っていることを的確に言葉にしている。
こんなこと、日本では大人でもなかなかできていないのではないだろうか。ましてや子供なんて、意見を聞かれたら首をかしげて照れたような困ったような顔をして何も言えない子がほとんどな気がする。

これはまあ仕方のないことで、というのも、日本人は小さい頃から自分の考えを言葉にするクセがつくように教育されてないからだ。子供の頃の学校の授業を思い出してみても、「あなたはどう思うの?」なんて聞かれたことあっただろうか?先生に指されて、何か答えても「正解」か「違います、正解はこうです」と言われてただけだったように思う。
そして大体の子供はそのことに疑問を持たないまま、大人になってしまう。

私はというと、今でこそ常に自分の考えを持つように意識している。それが思考パターンのひとつになっている。
例えば会社で上司に質問する時にも、極力「どうすればいいですか?」みたいなオープンクエスチョンではなく、まずは自分で解決策を考えてから「〇〇が××なので▲▲してみようと思うんですが、それで問題ないですか?」と、相手が「YES」か「NO」だけで答えられるように質問している。

そのきっかけになったのは、20代の頃に従事していた映画の制作進行の業務のひとつである「ロケ弁の発注」だった。弁当の注文なんて、軽い業務のように思われるが、これがなかなか胃が痛くなる仕事だった。
ここでは弁当の「数の出し方」にだけ触れるのだが、その日の撮影スケジュールによって注文しなくてはいけない弁当の数は毎回違うので各部署に翌日撮影に来る人数を確認しなくてはならない。
ここで、「照明部さんは明日何人ですか?」なんて聞き方をすると、めっちゃくちゃ嫌な顔をされるのだ。「はぁ?いつもと同じだけど。なんで?」とか逆に聞かれて変な汗をかくことになる。
そうならないためにはとにかくスケジュールと脚本を照らし合わせて、「明日はこういうシーンをこういう順番で撮るからきっとこうなる」みたいなことを考えてから質問しなくてはならない。例えば、、
「明日はナイター(屋外での夜間撮影)があるから照明部さん応援呼びますよね?」
「うん、そうだね。いつもより3人分増やしといて〜」
「その3人ってハイライダー(高所作業車)技師さんも含まれてます?」
「あ、含まれてないや、だから全部でプラス4つだね」
みたいに、ここまで考えてやっと和やかで建設的な会話ができるのである。
(ロケ弁発注から学んだことは他にも多々あるのでそれはまた別の機会に書きたいと思います)

あともうひとつ「自分の考え」を持つクセをつけてくれたのは、やはりSNSだ。映画を観て、本を読んで、その他日常での些細な出来事でも、自分がどう感じたかアウトプットするのは本当に為になる。自分の考えを整理できるし、閲覧する相手のことを考えて言葉を選ぶ力もつくからだ。

し、か、し!
自分がそうやって少しずつ体得してきたことをまったくやらずに大人になった人たちと対峙しなくてはならない機会というのが、割と最近あった。
それは映画業界を引退して数年後、とある会社で責任者っぽい役職に就任した時のことだった。
ま〜あ、みんな、何も考えずに「どうすればいいですか?」と聞いてくる。
そこで「あなたはどうしたらいいと思う?」とか、「自分では調べてみた?」と返すと、フリーズ。ひどい時は泣かれる…。
自分は「ちゃんとやらないと怒られる」というある意味恐怖政治的な脅迫概念によってスキルを身につけてきたが、この時代にそんな体育会系な教育方法はお話にならない。ではどうするか?それは「自分で気づかせる」しかない。いわゆる「コーチング」というやつだ。
そのコーチングについて、外部講師による研修を受けたり同じ役職の同僚とロープレしたりもしたが、他にもやること満載の現場で実践に移すのがなかなか難しく、完全に挫折。ム〜リ〜!無理むりMURI !そもそも人材育成のプロフェッショナル目指してない。マイペースに創作活動やっていきたいから選んだ業種なのに、なに責任者とかやっちゃってるんだ私は…。ということで転職しちまいやした。

自分の考えがない人、というのは生きていく上でけっこうしんどいのではないかと思う。自分も若い頃はそうだった。
面白くもないのに笑い、尊敬してない相手を褒める。それを蘇生術みたいにしていたが、それはある意味「媚び」だったり「ただの嘘つき」とも言い換えられる。そんなことをずっとやっていると自分も相手も傷つくだけで、何も良いことはない。「思っていることを敢えて言わない」のは必要な場合もあるけど、「思ってないことを言う」ことに、何のメリットがあるというのか。それをやることでお金が稼げる人(キャバ嬢とか?わからんけど…)は別として。

やっぱね、最初の話に戻るけど、大事なのは子供の教育ですよ。アメリカの子供たちは自分がどうしたいとかだけじゃなく、家庭や住んでいる地域における自分の役割まで意識しているし、小さい頃からファンタジー的な絵本だけじゃなくて哲学や詩の本を大人が読み聞かせたりしているわけですよ。
もはや「考え」とか「意見」どころではなく「思想」をしっかり持っている。文部科学省はそういうことにもっと着目したらいいのにな。

何はともあれ「C'MON C'MON(カモンカモン)」はめちゃくちゃ良い映画なので大変おすすめです。(ちなみにインタビューのシーンが主体の作品という訳ではありません)

急に何年も会ってなかった甥っ子を預かることになったジョニー(ホアキン・フェニックス)。ラジオ番組制作のためにアメリカのあちこちに住む子供たちにインタビューをしながら、9歳(たぶん)の少年という未知の存在と向き合うことで様々な気づきを得ていく。名作!!
甥っ子のジェシー役のウッディー・ノーマンくんに釘付け。かわいすぎるだろ!!
役柄では行動が予測できない奔放な子供だったけどYouTubeのインタビュー動画みたら完全に言うことが大人でギャップにおののく。あれ全部演技だったの?まじで??

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