エルメスが反トラスト法で訴えられる


 ラグジュアリーブランドとして日本でも有名なエルメスが、アメリカカリフォルニア州で反トラスト法(独占禁止法)違反で訴えられたというニュースがありました。

なぜ訴えられたのか?

 報道によると、原告は、バーキンを購入するためには他のアクセサリ(スカーフ、ベルト・・・)を購入しなければならないことが、反トラスト法上禁止されているいわゆる抱き合わせ販売に該当すると主張しているようです。

奥深い?バーキンの購入方法

 バーキンに縁のない(もちろん私もそうですが)方々には何のことだかという感じだと思うので、バーキンの購入方法(と言われているプロセス)について予習しておきましょう。なお、この話は私自身が体験したことではなく、人伝てに聞いた話なのでその点はご了承ください。

 バーキンは言わずと知れたエルメスのアイコニックなバッグで、その価格は数百万円と言われています。しかし店頭には並んでおらず、あるいは並んでいたとしてもディスプレイにすぎず、ふらりと店に立ち寄って買えるものではありません。
 ではどのようにして購入するかというと、正規店に通い詰め、スタッフが勧めてくれる衣類やアクセサリー、バーキン以外のバッグなどを購入することで、得意客となるのです。そうして店が認める優良顧客となって初めて、担当スタッフからバーキンの入荷があるということを告げてもらえるのです。ところが仮にバーキンの入荷があったとしても、当然にいくつも紹介してもらえるものではなく、自分の気にいる素材や色とは限らないそうです。    
 そのため、自分の欲しいバーキンを手に入れるまでには長い長い道のりが必要なのだとか。もはや修行では?と思うのですが、実はエルメスのスカーフにバーキンを手に入れるクエスト風の絵柄があるそうで...何だか笑えません。
 さて、そんなブランドミニ知識はこのくらいにして、なぜそれが反トラスト法に関係するのかという話に戻りしょう。

抱き合わせ販売とは?

 抱き合わせ販売とは、簡単に言えば、「Aという非常に魅力的な商品を購入するためには、Bという別の商品をまとめて購入しなければならない」という販売手法であり、日本でも独占禁止法においても不当な抱き合わせ販売は違法とされています。例えば、人気のあるゲームソフトに売れないソフトを付けて売るといったケースが典型例と言われています。

原告は何を主張しているのか?

 この抱き合わせ販売の主張には、まず、「バーキンが十分な市場支配力を持っていること」を証明する必要があります。すなわち、バーキンが属するハンドバッグの市場において、十分な市場支配力を持っていることを証明しなければなりません。
 この点について原告側は、“…unique desirability, incredible demand, and low supply of Birkin handbags gives…incredible market power…(バーキンのユニークさ、驚異的な需要、供給の少なさ)”を主張して、市場支配力を立証しようとしているようです。
 バーキンが消費者にとって非常に魅力的な商品であることは間違いない一方で、市場支配力を持っているといえるか(平たく言えば、独占的な商品か)は、一つのハードルとなりそうです。

 2つ目は、違法な「抱き合わせ」が存在することです。抱き合わせ販売とは、非常に魅力的な商品の力を借りて、「本来であれば購入しないor他の販売者から購入するであろうあまり魅力がない商品」の購入を強制するものです。エルメスが採用している、一定金額以上ほかのアクセサリやバーキン以外のハンドバッグを購入しなければ、バーキンを購入できないという販売戦略がこれを構成することを原告は立証する必要があります。

エルメス側の反応、訴訟の行方

 訴訟提起の段階で正式な反論は出ていませんが、おそらくエルメス側は、ブランドの価値を守るための戦略に過ぎないという反論をするかと思います。
 上記のように、日本でも、バーキンを手に入れるため、エルメスを頻繁に訪れるエルメルパトロール(通称"エルパト"と呼ばれるそうです)を通じて、欲しくもないアクセサリやバッグを購入し続け、やっとの思いでバーキンを手に入れられるそうですので、「抱き合わせ」そのものでは?という気もします。
 一方で、このバーキンを購入するためのプロセスがバーキンの入手に必要不可欠だとして、それが「違法な」抱き合わせといえるかは議論の余地がありそうです。バーキンを購入する権利というのは、いわば高級品へのアクセス権という特権的なものであり、ただのバンドルに過ぎない(違法な抱き合わせではない)という主張が成り立ちそうな気もします。
 優良顧客を優遇するという戦略は、エルメスに限らず高級ブランドでは珍しくない商慣習な気もしますので、これをどのように裁判所が判断するのか気になるところです。

 なお、原告は、上記抱き合わせ以外にもいくつかの主張をしていますが、その中で重要なものとして、クラスアクション(集団訴訟)にすることを求めている点が挙げられます。もしそれが認められた場合、より大規模なケースに発展していきそうです。

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