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複数のモードを持つ武器の問題/『シャドウラン 5th Edition』コラム12


01 前口上

 この記事は新紀元社から発売されている『シャドウラン 5th Edition』日本語版ユーザーに向けた言い訳です。
 記事の閲覧・利用に関する前置きは下の記事を参照してください。

02 複数のモードを持つ武器の問題


Q:ジャベリンやアーバントライブ・トマホーク(『ラン&ガン』掲載)を近接武器として使用した場合の【精度】はいくつですか?
A:投擲する際と同じく、順に身体リミット、身体リミット+1になります。

Q:では、銃剣で攻撃する時の【精度】は装着した銃器のものになりますか?
A:いいえ。サバイバルナイフの「5」が適用されます。

Q:どういうことなの……。
A:長い話になりますが、ご説明いたします。

『シャドウラン・コデックス』発売記念企画にご応募いただいた中で、複数のモードを持つ武器についてのご質問がありました。これは『シャドウラン 5th Edition』の未解決問題のひとつで、武器の精度の問題とも絡むためコラムとして取り上げます。

03 複数のモードを持つ武器


『シャドウラン 5th Edition』には複数の使い方を持つ装備が存在します。例えばみんなの大好きな「アレス・アルファ」には銃身下部にグレネード・ランチャーがついていて、アサルトライフルとしてのデータと、グレネード・ランチャーとしてのデータを両方持っています。テイザーのディファイアンス EX ショッカーには近接攻撃用の端子があり、これは近接戦用のデータを別に持っています。『ラン&ガン』には武器にコムリンクを追加する改造があり、武器としてのデータの他にコムリンクとしてのデータを追加できます。
 これらの武器が「ひとつの装備」なのかどうか、という問題は、『シャドウラン』ではずっと棚上げされてきました。公式フォーラムでの議論では、「データが明記されている部分についてはそれに従う」「データがない部分は何らかの方法で補う」「複数のモードを持つ装備はそれぞれ別の装備として扱う」という見方が大勢を占めていますが、それでもいくつかの境界事例では意見の対立が見られ、正直に言って翻訳チームとしても統一した見解を出しづらい状態にあります。

04 問題の整理

 複数モードを持つ装備には、以下の種類があります。

(1). 元々複数の使い方を想定してデータが用意されているもの
 アレス・アルファ(アサルトライフルとグレネード・ランチャー)、ディファイアンス EX ショッカー(テイザーと近接武器)、破砕具(突破侵入用具と特殊近接武器)、照明弾ピストル(照明弾と特殊射撃武器)、グラップル・ガンなど

(2). モードを変更する動作によって武器データが変化するもの
 Cougar Collapsible Spear(『Hard Targets』)

(3). 装備に武器としての使い方を追加したもの
 間に合わせの武器、投擲奥義/Missile Mastery(『Street Grimoire』)

(4). 装備に別の装備を追加するもの
 銃剣、アンダーバレル武器、武器コムリンク(以上『ラン&ガン』)、スタン・ドングル(『Data Trails』/『シャドウラン・コデックス』)など

※広義にはサイバーリム・アクセサリーや防具改造の一部も「装備に別の装備を追加した」と言える場合があります。

(5). 装備の制御方法が変わることによるデータの変化
 武器を遠隔操作する、ドローン化した武器をヴィークル搭載武器として使用する、武器に精霊が憑依または侵蝕する

 複数のモードを持つ装備には、以下の問題があります。

・データとして不足している部分をどのように補うのか?
・その装備はルール上「ひとつの装備」として扱われるのか?
・その装備を強化または弱体化するルールはどう適用されるのか?
・その装備が破壊または損傷した場合、どうなるのか、どう修復するのか?
・その装備を複数のキャラクターが制御している場合、何が起こるのか?

04-01 投擲武器と身体リミット

 手榴弾(グレネード)を投擲する場合は身体リミットを適用することがSR5J, p.181で規定されていますが、その他の投擲武器についてはそれぞれデータ上で【精度】が決まっています。多くは身体リミットを基準に算出されますが、間に合わせの武器を投げる場合は「3」になる(SR5J, p.169「精度」参照)など、必ずしも身体リミットが適用されるわけではありません。このため、投擲武器の【精度】は「投擲武器のルール」として身体リミットになっているのではなく、「投擲武器のデータ」として身体リミットを【精度】として持っていることになります。ゆえに、投擲武器で殴る場合のデータは、「その投擲武器に近接攻撃時のルールが規定されている場合はそれに従い、そこに【精度】の変更が記載されていないならば武器データから変更されないものと判断する」ことになります。

04-02 銃剣は武器に別のパーツを組み合わせている?

 冒頭のご質問の例では、ジャベリンが複数モード装備の(1)に該当します。ジャベリンには投擲武器としての【精度】が身体リミットに等しいものとされているため、近接武器として槍で刺す場合にも身体リミットが適用されます。
 一方で、武器に銃剣を装着した場合は(4)に該当し、銃剣で殴る場合のデータは「銃剣」のものになります。しかしながら、『ラン&ガン』では銃剣のデータから【精度】が欠落しています。この場合は「銃器のデータ」から補われるのではなく、「銃剣のデータにより近いサバイバルナイフのデータ」から補われることになります。なぜなら、近接攻撃に用いられるデータは銃剣のものであって、銃器のデータではないからです。「間に合わせの武器」として銃器を使用する際の「ピストルの銃把」か「ライフルのストック」の【精度】から補うことも考えられますが、これらのデータは銃剣とは持つ場所や打撃面が異なるため、銃剣のデータとしては採用できません。

04-03 「攻撃の主体がどこにあるのか」が問題

 結局のところ、銃剣とジャベリンの裁定の分かれ目は、「攻撃時にどこの部位を持って、どこで打撃しているのか?」に尽きます。ジャベリンを投擲する際も、ジャベリンで突き刺す際も、基本的には柄の部分を持って刃の部分で攻撃していることから、投擲時も近接攻撃時もジャベリンの武器としての主体は変わっていないと考えられます。
 銃剣を使用する際に手に持つのはグリップやストックの部分ですが、打撃を与えるのは銃剣であるため、銃器としてのデータも、「銃把」も「ストック」も銃剣の【精度】の代用にはならないのです。

04-04 【精度】と身体リミットの関係

「【精度】のデータとして身体リミットを持つ」ことと、「ルールとして身体リミットを使用する」ことには若干の差違があります。SR5J, p.47の記述によれば、装備にリミットが指定されている場合には、キャラクターの固有リミットに関係なくそのリミット(【精度】)を使用することが規定されています。つまり、カスタム・グリップ/Personalized Grip(『シャドウラン・コデックス』/『Hard Targets』)や《Increase Gear Limit》(『ストリート・グリモア』)の呪文で自身の身体リミットを越えて上昇させることができます。
 では、ジャベリンや銃剣にこれらの強化を施した場合、何が起こるでしょうか?

05 もっとアレな話

 複数のモードを持つ装備を「ルール上ひとつの装備として扱う」とすると、「装備を強化する」改造、パワー、呪文、儀式、資質の扱いにおいて齟齬が起きます。装備を強化する効果には以下のようなものがあります。

(1). 武器を強化するもの
 武器収束具、武器改造ルール(『ラン&ガン』ほか)、Special Modifications/Prototype Material(『Better than Bad』)

(2). 電子機器を強化するもの
 即席整備、《診断》、電子機器改造ルール(『Data Trails』)

(3). 装備を魔法的に強化するもの
《機器分析》、《Increase Gear Limits》、《Attune Item》、《Imbue》(『Street Grimoire』)

 基本ルールの範疇でもわかりやすい問題としては、「その装備を近接武器と見なして武器収束具化し、アストラル空間に持ち込めるか」「電子機器と見なして『即席整備』の資質で任意の数値を+1できるか」などが挙げられます。
 むろん、アストラル空間に持ち込まれた武器コムリンクが「ただの光る箱」として扱われることに異論はないと思われます。しかし、例えばピストルを扱うアデプトにとって、「近接戦対応/Melee Hardening」の改造を施したピストルで精霊を殴れるかどうかはそれなりに気になる部分ではないでしょうか。
 あるいは、買ったばかりのカタナにはRFIDタグくらいしか入ってないだろう、という理由で「即席整備」で切れ味を伸ばせないというのは良いとして、では武器コムリンク化したらスプライトの《診断》パワーが適用できるようになるでしょうか? 

「ルール上、異なるモードを持つ装備はそれぞれ別の装備として扱う」とした場合にも問題は起きます。たとえば《機器分析》の呪文を使用する時、コムリンク化したカタナを手に持っても「カタナ」が対象だった場合にはコムリンクとしての使い方はわからないのでしょうか? この場合、わかるのはカタナの振り方でしょうか? それともカタナに入っているRFIDタグのアドレスでしょうか? アレス・アルファのグリップをカスタム・グリップにした時、【精度】+1の恩恵を受けるのはアサルトライフルのデータでしょうか、それともグレネード・ランチャーでしょうか?

 論理的にこの問題をクリアにする唯一の方法は、ルール・テキストと装備の物理的/電子的/霊的な構造を手がかりとする以外にないようです。アレス・アルファのスマートガン・システムは、データ上はアサルトライフルとグレネード・ランチャーの両方の【精度】を強化しているように読み取れます。つまり、アサルトライフルとグレネード・ランチャーは機器としては一体のものであって、ひとつの《機器分析》でどちらの使い方も理解でき、スマートガンやカスタム・グリップの強化はどちらの使い方にも適用できるとするのがよいでしょう。しかし、アレス・アルファの銃身を握って間に合わせの武器として殴りかかる場合には、スマートガンもカスタム・グリップも無効になります。スマートガンは射撃に対してしか使えませんし、グリップを握っていない以上カスタム・グリップの恩恵もないとするのが直観的です。
 武器にコムリンクを組み込む場合、何か特殊な理由がない限りは、電子機器としては武器もコムリンクも一体のものと見なします。武器のデータのうち、ダメージや反動補正などは電子制御されている訳ではないでしょうから、おそらく「即席整備」ではレーティングを上げられないでしょう。しかしスマートガンが組み込まれているなら、【精度】くらいは上がってもよさそうです。スプライトの《診断》パワーについても同じことが言えます。おそらくは、電子制御されている部分があるならばそこにチームワーク・テストが可能で、そうでないなら(カタナによる斬撃とか)不可となるでしょう。
 あなたが偏執的なロマン主義者で、あなたのアレス・プレデターが小粋なジョークを話すことは許可しても、撃ち方や残弾数についてアドバイスすることを許可していないなら――つまり、武器コムリンク化はしてもスマートガンを内蔵していないか、機能をオフにしているなら――その銃器に対する《診断》パワーは射撃には影響しなくなり、ハッカーにクリップを強制排出させられたりもしませんが、依然としてひとつの《機器分析》でコムリンクの名前も撃ち方も理解できるようになります。
 武器を収束具化して攻撃に用いる場合、「打撃面」がどこかが問題になります。銃剣を武器収束具にしたなら、その銃剣部分はアストラル空間や精霊に対しても有効ですが、アストラル空間で射撃ができるようになったりはしませんし、ライフルのストック部分で殴りかかる場合には武器収束具のボーナスはありません。

06 ジャベリン/トマホークは強すぎる?

『シャドウラン 5th Edition』はダイスプールだけに一点特化させるのではなく、ダイスプールとリミットと【エッジ】にバランス良く割り振ったキャラクターが有利になるように設計されています。その関係で、成長したキャラクターは特に武器の【精度】が足枷になることが知られています。
 この問題は開発サイドでも認知されており、現在未訳の追加データを利用すれば、どんなキャラクターでも武器の【精度】の問題は解決できます(キャラクターが特定の武器しか使わなくなるとか、初期作成では使いにくいという問題は残ったままになりますが)。しかしながら、現状の翻訳ペースではなかなかすべてのニーズにお答えできない状況であることは、翻訳チームとしても心苦しく思っています。

武器の【精度】を上げられるデータリスト(抜粋)
・カスタム・グリップ、銃身延長(『シャドウラン・コデックス』/『Hard Targets』)
・《Attune Item》、《Imbue Item》、《Increase Gear Limits》(『ストリート・グリモア』)
・Cyberlimb Optimization(『Chrome Flesh』)
・Special Modifications、Prototype Material(『Better than Bad』)

 さておき、現状の日本語(に翻訳された出版物のみの)環境においては、主に近接攻撃の当てにくさ――能動防御で防御テストのダイスプールが増えやすい傾向から、近接攻撃を確実に当てるためには多数のヒットが必要であり、必然的に【精度】の低い武器は使いにくくなる――から、ジャベリンやトマホークなどの身体リミットが【精度】として使用できる武器が問題視される場合があります。
 現時点では、翻訳チームとしてはこれらの武器が問題であるとは考えていません。なぜなら、最終的にはほとんどの武器で【精度】問題は解決されるからです(まあ、救済しにくい武器もあります。椅子とか)。翻訳チームとしては上記のデータリストの翻訳完遂こそが任務であって、過渡的にトマホークを担いだトロールがシアトルを闊歩することに目くじらを立てるつもりはありません(しかしながら、あなたのプレイグループでトマホークの近接武器としての【精度】を引き下げることがどうしても必要だ、というのであれば、SR5J, p.169「精度」の記述に従って「5」としても構いません。美学はルールに優先するものです)。

 もちろん、ここで述べたことはあくまでも私見であり、あなたのプレイグループにはあなたのプレイグループに相応しい裁定をするべきです。多少なりとも参考になれば幸いです。

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