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Steam不評レビューには何が書かれているのか?~日本発インディーゲームの場合~

はじめに

SNS(twitter)でPCゲームについて追えるタイムラインを構築するとSteamレビューに関する話題が目につくことが非常に多く感じます。

「日本人の不評レビュー比率が高い!」「ウケ狙いで不評レビューを書くやつがいる!」「圧倒的好評を開発者は目指している!」等々…。

私もゲームをSteamで販売している身ですが、こういった話題は統計データの好評/不評の比率だけを見て話をしているケースやそもそもデータに基づかず感情論のみで議論されているケースが多いように感じていました。

せっかく議論するならSNSのマウンティングの道具としてではなく、より良いゲームを作るためにユーザーがどういった点を不満に思っているのか吸い上げを行ったほうがゲーム品質向上の役に立つのではないかなと考えました。

そこで私がゲームを出している周辺環境に絞って「何故その人は不評レビューを書くに至ったか」を調べて見ると面白いんじゃないかと思い、今回分析を行ってみることにしました。

因みにSteamでゲームを発売する際の究極の目標と言われるらしい"圧倒的好評"はレビュー総数が500件を超えて好評率が95%という極めて高い門で形成されています。"圧倒的好評"を維持するために許される不評レビューは500件中25件までと非常に少ないです。そのため減点側を減らす改善策も有効ではないでしょうか。

今回の記事がSteamでゲームを発売する上での参考になれば幸いです。どうせなら苦労して作ったゲームがプレイヤーの皆さんにとっても良いゲームであって欲しいと思っています。

集計・分析方法

2022~2024年にSteamで日本語圏の小規模開発体制から発売されたゲームに付与された、日本語によって書かれた不評レビューを人力で抽出しました。(売上が数千~数万本程度のもの)

ゲームの選定はインディーゲームのパブリッシャーやコンテスト、展示会などに参加していたゲームやプレスリリースから選抜した形です。
ジャンルはアクションからノベルゲーム等までなるべく偏りがないようにしています。どのゲームを選抜したかは言えません。(キング失礼なので)
また、売上が数十万本クラスのゲームからレビューを抽出すると、人力集計をした関係上そのゲームの不評レビュー一色になってしまうので除外しました。

集計したゲーム数:約30本
集計した不評レビュー数:218レビュー
不評レビューの合計文字数:約8万字
不評レビューの平均文字数:360文字(ツイート2~3回分ぐらい)
不評レビューは2件までレビューの分類タグを付与しどういったレビューの内容だったかを把握できるようにしました。

集計のイメージ(こんなレビューが実際にあるわけではありません)

集計結果

不評レビューの分類タグ集計結果を元に、日本語圏開発のインディーゲーム 日本語による不評レビュー分類と題してパレート図を作成しました。

パレート図とは「QC7つ道具」の一つとして日本の製造業で品質に関わる仕事をすれば嫌でも目にすることになるグラフです。
データの数を棒グラフで表し、構成比率を折れ線グラフで表します。何がどれくらいの比率を占めているのかがひと目で分かるのが特徴です。
最も棒グラフが多い品質不適合から優先的に対応していくことで最も効率よく不適合率を低減することが可能になります。

本題のグラフ

量が多かった順に各項目のレビュー分類について詳細を見ていきましょう。

第1位:クオリティ不足(ゲームメカニクス)

・このゲームをどう面白いと思って遊べばいいかわからない。
・ゲームジャンルを形成している根本のメカニクスの出来が悪い。
・リプレイ性が悪い、戦略性がない、カスタマイズ性がない、等々…。
・雰囲気が良さそうだったから買ったけどゲームとして面白くない。

早速身も蓋もない意見が登場…。いわゆる「つまらない」「面白くない」といった感想が分類分けされたカテゴリとなります。("面白くない"で分類分けしても良かったのですが、それはあまりにも残酷すぎるので深掘りしました)
アート・世界観先行で制作されたゲーム等で、ゲームとしての体裁を保つために取り敢えずくっつけたゲームジャンルが合ってない上に面白さを生む構造になってないなど、ゲームメカニクス以外の要素とゲームメカニクスがうまく接合できていないケースが多いようです。
更に、制作したゲームジャンルへの理解が薄く感じる、プレイヤーの入力や戦略・カスタマイズ等で遊び方の深みが生まれないや、そもそもランダム性が強すぎて再現性がなく苦痛などのレビューもありました。(ランダム性は特にローグライト系ジャンルで頻出します)

第2位:操作性が悪い

・手触りが悪い、レスポンスが悪い、もっさりしている…。
・コントローラ操作に最適化されていない/マウス+キーボード操作に最適化されていない。
・あらゆる入力に対してストレスが貯まる。

こちらもインディーゲームを見ているとよく遭遇するタイプの不評レビューです。充分な工数をかけられた大手ゲームと比較するとインディーゲームの操作性は一部を除いて劣る傾向にあると感じています。そうなってしまう理由の一つとして、開発しやすいように作られたゲームはプレイヤーにとっては操作性が悪い状態になるのではないかと考えています。楽に実装できる要素がそのままプレイヤーにとっても手触りがいい状態になると良いんですけどね…。

第3位:ボリューム不足

・とにかく物足りない。
・この値段に対して実装されている要素が少ない。
・面白いんだけど少なすぎる!

ボリューム不足もよく見かける意見です。割ける工数が限られているので長期間開発をしなければうまくやらないと基本的にボリューム不足になるのではないでしょうか。本点についてはどうしても同価格帯の人気作品(+セール価格込み)と比較されているケースが多いように感じます。1000円出せば1000時間狂えるゲームが乱発されているのがSteamと言う市場なので、小規模開発にはなかなか難しい問題です。(なのでローグライト等リプレイ性の強いジャンルが大流行するんでしょうね)

第4位:思ったのと違う

・ゲームジャンルが思ってたのと違う!
・これはジャンルAじゃなくてジャンルBだろ!
・ストアページの内容とゲーム内容が違いすぎないか???

Steamではストアページにトレイラーやインゲームのスクリーンショットなどを掲載でき、ゲームジャンルのタグを登録することができるため、自分が好きなジャンルのゲームを探しやすいのですが、それでも思っていたのと違う!と言うレビューは多いです。プレイヤーは少なくないお金を払ってゲームを購入しているわけで騙された!と言う気持ちが強く、不評レビューを書く動機付けにもなっていそうです。

第5位:クオリティ不足(シナリオ)

・ストーリーが雑。イラストに負けている。
・盛り上がりがない。
・オチがひどい。

エグすぎるだろ!!!他分類のレビューと比較してもAmazonクラスに辛辣なレビューがつく印象がシナリオにはあります。グラフィックは良いけど文章が面白くないみたいな物書きをナイフでツンツンするようなレビューがドシドシ付いています。容赦がありません。最初は良くても尻切れトンボになっていた場合はそこをつつかれています。容赦がない(2回目)。理想郷(古のSS投稿サイト、最近行方不明になった)を思い出しちゃった…。ノベルゲーム等のアクション性やストラテジー性を要求されないジャンルでメカニクスの代わりとして特に多く言及されている印象です。実はアクション等のタイトルで一切シナリオを搭載していないことに対して不評レビューをつけている人は今回遭遇しませんでした。

第6位:難易度が高すぎる

・難易度が高すぎてゲームクリアを断念。
・理不尽すぎてゲームをやる気力をなくした。
・最後の敵だけ異常に強すぎるんだけど…。

最後まで完走できない場合や高難易度のストレスでゲームをやる気力を使い果たした際に本レビューをつけていることが多い印象です。(購入したゲームはクリアするor全実績開放までやり込む人がレビューを書いていることが多いと感じています)そのジャンルに慣れていない人のケースもありますが、むしろ詳しいからなぜ難易度が高くなっているのか理由も込みでレビューをつけていることが多いですね。逆に難易度が低すぎるというレビューは今回は1件も遭遇しませんでした。恐らくボリューム不足としてレビューしていることのほうが多そうです。

第7位:説明不足

複雑なゲーム内容に対して説明が不足・ない上にあんまり面白くなかった場合につく印象です。

第8位:クオリティ不足(バランス)

メカニクスはまあまあ面白いが、各要素のバランスが崩壊していて楽しく遊べないという感想です。カスタマイズやビルド構築ができるけど選択に対する変化が少なすぎてプレイフィールが変化しないとか…。

第9位:あるべき要素がない

オートセーブがない、スキップがない、マップがない、オプション設定がない…。

第10位:この要素が嫌い

ゲームジャンル毎に忌み嫌われている要素があり、それを踏んでしまうとこのレビューが大量発生していました。ホラーゲームとかは結構これで不評がつくケースが多い印象です。

特選

・クオリティ不足(グラフィック)
実はインディーゲームの明確な欠点であるグラフィックのクオリティについてはほとんどレビューがありませんでした。数件あった内容も品質そのものではなく違和感に文句をつけていました。恐らくグラフィックの品質が低いとわかってわざわざ買って文句をつける奴はいないということでしょうか?

・ウケ狙い
よく問題に挙げられますが、218不評レビュー中3レビューがウケ狙いだなと私が感じたレビューでした。約1.4%存在しています。仮にこの結果を元に"圧倒的好評"基準である500レビュー中25不評レビューにウケ狙いがどれだけ交じるかを試算すると、25不評レビューの中にウケ狙いが1件混ざる確率は約29.3%となります。いちげきひっさつわざが当たる確率でウケ狙いの不評レビューが1件着弾するのは…影響あるのかな?(500~1000レビュー帯を集中的に調査すると変わるのかも)

不評レビューの動機を探る(単語頻度分析)

レビューを分類していると気づいたポイントとして、レビューの内容とは別にレビューを書くに至った動機が不評レビューには隠れていると感じました。そのため、不評レビュー中に登場する単語について頻度分析をかけることで、不評レビューの動機を探れないか検討してみました。
結果は次の通りです。

第1位:おすすめ/オススメ 登場頻度50回
※オススメできない・しないという文脈で登場します。
第2位:ストレス 登場頻度41回

第3位:説明 登場頻度32回
※説明がない・不足しているという文脈で登場します。

第4位:残念 登場頻度24回

上記の結果から主に2種類の動機によってプレイヤーは不評レビューを作成しているように感じました。

①ゲームをプレイしていた際に感じたストレスの閾値がレビュワーの限界を超えたケース

この不評レビューを読み込んでいた際に多く出てきた表現として"ストレス""説明が足りない"がありました。どちらもゲームをプレイしているプレイヤーに対して開発者が意図していないストレスをかけている状態を指していると考えています。手触りが悪い、UIが不親切、システムの説明がない等々、スムーズにゲームを進行できない点に不満を持っているケースが多いです。このストレスが閾値を超えてしまった場合、そのストレスの発散先としてsteamレビューは機能していると考えられます。

②このゲームはオススメできないと警鐘を鳴らしているケース

頻度分析の第一位は"おすすめ/オススメ"でした。これはオススメできない、オススメはしないなどの文脈で登場するものです。この場合の"おすすめしない"とは誰に向けた言葉でしょうか。私は他のSteamでプレイしている同じゲームプレイヤーに読んでもらいたくて書いたレビューではないかと感じました。かなり面白い表現として「私は楽しめたけどオススメはしない」という文脈で不評レビューを投稿した人が何人かいらっしゃいました。日本語圏の不評レビュー比率が他言語圏と比較して高いというデータが出るのは、"帰属しているコミュニティに対して本当にオススメできるのか?"という観点でレビューを書いているケースがあることが影響の一つではないかな?と感じました。(これは英語圏等でも同じような分析を行い、比較することで影響が見えてくるかもしれません)

考察と改善策について

グラフをもう一度再掲

第1位:クオリティ不足(ゲームメカニクス)
第2位:操作性が悪い
第3位:ボリューム不足
第4位:思ったのと違う
第5位:クオリティ不足(シナリオ)
第6位:難易度が高すぎる
第7位:説明不足
第8位:クオリティ不足(バランス)
第9位:あるべき要素がない
第10位:この要素が嫌い

日本語圏開発のインディーゲーム 日本語不評レビュー分類

今回の結果から読み取れるのは、インディーゲームであってもゲームの面白さ≒ゲームメカニクスはゲームを購入したプレイヤーの評価に直結するという当たり前の話が再確認できたという事実です。そして操作感とボリュームというこれも当たり前の要素が重要視されていることがわかりました。
しかしながらゲーム制作経験が薄く割ける工数も少ないインディーゲームデベロッパにはこれに真正面から殴りかかって解消するのは至難の業です。
なのでクローンゲームやリプレイ性の強いジャンルがインディーゲームでは流行するのかもしれません。

とはいえ、日本語での不評レビューを減らしたいと考えた際、今回の集計結果から様々な対策が思いつくと思います。私の方で思いついた対策をいくつか提示します。

●プレイヤーに意図しない部分でストレスをかけないようにする。

手触りが悪い、UIが不親切、システムの説明がない等々、ユーザー目線で見た際にストレスと感じる部分をなるべくなくしましょう。プレイヤーが気持ちよくプレイできる状態というのはそれだけで不評レビューを書く動機が薄れると思います。ただし、ゲーム本編の面白さやボリュームを生む部分にかけられる工数がその分減ることにはなりますので深入りすると沼に嵌ります。

●ゲームの内容を正確に説明する。

ゲームを買う際には口コミ(好評レビュー)やメディアの紹介文は勿論のこと、トレイラーやスクリーンショット、ストアページ本文などを見て購入するかどうかを判断していると考えています。そのストアページの中にもしオススメできないと思える要素が紹介されていなかったら?ストアページに追加することができるレビューという形で不評レビューを書く動機が生まれると思います。期待感を煽るのは重要ですが、ゲームの内容を正確に伝えるのもストアページの重要なポイントだと考えます。

●発売するゲームが属するジャンルのお約束事を理解し、守る。

全く新しいゲームを開発したケースでない限り、作ったゲームは必ず何らかの文化・ジャンルに属したゲームとなります。そしてそのジャンルで当然実装されているべき機能などが生じます。例えばノベルゲームでスキップとバックログが搭載されていないゲームはそれだけで不評が付きかねないでしょう。シューター(FPS/TPS)のキーバインドがWASDじゃなくて矢印キーがデフォルトだったら暴動が発生すると思います。既存ジャンルのお約束事をしっかり調べて自分のゲームに反映させることでプレイヤーのゲームへの理解度を高め、コアの面白さにいち早く触れてもらえることで不評レビューを少なくすることができると考えます。

最後に

この記事は「不評レビュー」に絞った内容となります。ここに書かれているだけを守ってゲームを作っても、プレイヤーが手に取ってくれるようなゲームは作れないと考えています。それはこの記事があくまで減点される要素を抑えただけであり、加点される要素については語ることができていないためです。加点される要素とは「ゲームをプレイしたくなる魅力」そのものとなります。とはいえSteamで"圧倒的好評"を狙う場合には「ゲームをプレイしたくなる魅力」に加えて不評に繋がりやすい要素を潰していくことが重要ではないかなと考えています。また、"圧倒的好評"を狙わないというのも一つの戦略としてはありだと思います。

twitter等でレビューの数や比率について語っている人は多数いらっしゃいますが、その中身を読み込んでいる人は意外といないんじゃないか?と思い今回集計を試みました。別の切り口(例えば好評でも同じような分析をしてみる、多国語圏ではどうなのか?AAAタイトルではどういった傾向にあるのか?等々)でも集計できると思うので我こそはと思う人は是非トライしてその結果を共有してもらえると嬉しいです。

そしてSteamで活動しているゲーマーの方々へは是非、これからも屈託のない意見をSteamレビューに投稿いただけたらなと思います。今回不評レビューの中身を読み込ませていただき、ゲームに対する熱意を非常に強く感じました。レビューを見にする機会はAmazonやApp Storeなどでありますがそれらと比較しても極めて高い品質のレビューがSteamでは構成されているように感じました。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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