四丈半島初登場!!『海に入らず海底を散歩する方法』/○○せずに△△する方法④

ドラえもんの王道パターンの一つに、スネ夫の自慢からのび太が嫉妬して、ドラえもんに嫉妬を解消してもらう道具を出してもらうという流れがある。

そのスネ夫の自慢話の中でも、しずちゃんやジャイアンを誘って素敵な場所へと出かけてしまい、のび太だけが仲間外れにされてしまうというパータンがあって、この場合、のび太は烈火のごとく悔しがることになる。

骨川家では、四丈半島や軽井沢やどこぞの海岸(葉山?)などに別荘を持ち、高級車やヨットなども所有している。そういう華やかな場所にしずちゃんを連れ出されるのはショックだし、何より自分だけハブされてしまうのがキツイのだ。


本稿では、そんなのび太の最も悔しいパターンである、スネ夫の別荘行きの仲間外れを食らった物語を見ていく。

そして、本作が伝説の「四丈半島」が初登場したお話でもある。四丈半島とは、実在する「八丈島」をモジった、藤子史上一、二を争う最高のネーミングの離島である。

ドラファンからすれば、「四丈半島」とスネ夫の別荘はワンセットであり、のび太の仲間外れもすべて含まれた言葉となっている。本作を皮切りに幾度も「四丈半島」が登場するのだが、これについてはまた別の記事でまとめたいと思う。

◆「四丈半島」登場話
『海に入らず海底を散歩する方法』(78年8月)
『つめあわせオバケ』(80年4月)
『アワビとり潜水艦出航』(81年3月)
『百丈島の原寸大プラモ』(82年4月)
『身代わりテレビ』(90年4月)
『バランストレーナー』(90年9月)
『のび太の創世日記』(95年9月~)
*他にも捜索中

なお、本作よりもずっと前に、スネ夫の自家用ボートに誘われなかったことから始まる『せん水艦で海へ行こう』(71年8月)があり、四丈半島の名前は登場しないが、四丈半島だった可能性もある。

ただ、水から水へとジャンプ(テレポート)していく「せん水艦」の特徴から、離島に行ったとは考えずらいので、「四丈半島」登場回にはカウントしなかった。



『海に入らず海底を散歩する方法』(初出:水をよけるロープ)
「小学六年生」1978年8月号/大全集6巻

「○○せずに△△する方法」と題して、同じような発想に基づく作品を集めて紹介しているが、今回含めた4作品全てに共通することがある。それは、初出の雑誌掲載時から単行本収録にあたって、改題がなされているという点である。

過去の記事はこちら・・・。


◆雑誌初出→単行本 改題リスト
初出:インスタント旅行カメラ → 単行本:行かない旅行の記念写真
初出:現代人の生き方 → 単行本:してない貯金を使う法
初出:返事先どりポスト → 単行本:出さない手紙の返事をもらう方法
初出:水をよけるロープ → 単行本:海に入らず海底を散歩する方法

こうしてみると、初出時でのタイトルはほとんどひねりがなく、ひみつ道具の名前そのままということが多い。その後、改題するに当たり、作品の内容に踏みこんだタイトルにしているようだ。

こうして並べてみると、藤子先生のタイトル発想の「癖」のようなものが見えてくるが、さらに踏み込んで考えると、物語を構想する段階において、「定型」のようなものをお持ちなのではないかと想像できる。


さて、中身を見ていこう。

とある夏休みのひと時。スネ夫からずっしりと重い封筒が届く。のび太は「ついに来たか」と反応し、「中身は見なくてもわかってる!」と声を上げる。

スネ夫たちが夏休みを利用して四丈半島の別荘に出かけているらしく、のび太の予測では、長ったらしい自慢と記念写真がいっぱい封入されているという。(予測は的中)

さらに、ポイントは別荘に出かけているのがスネ夫単独ではなく、しずちゃんとジャイアンを誘っているという点である。のび太だけは何らかの理由をつけて誘わえれなかったのだ。

さて、ここから、分かり易くのび太が悔しさを爆発させていく。以下、悔しさ一覧。。

①「誰が読んでやるか!!」と言いつつ、結局読み始めてしまう。

②「遠泳大会やらボート遊びやら楽しい毎日です。君も誘ってあげられなくて残念です」 → 「な、なに言ってんだ。そんなとこ、誘われたって・・・行くぞ!」

③「離れ島なので海底景色のきれいなこと、採りたてのサザエやアワビのおいしいこと・・・。君も食べてみたいでしょう」 → 「く~~~~だらない! そんなのちっとも食べたいぞっ!」

④「こんな手紙、ち~とも羨ましい!!」と言って、大泣きしながら手紙をビリビリにする。


全く悔しさを隠しきれていない健気な(?)のび太。ドラえもんはそんなのび太の心情を真正面から受け止め、「本当は行きたいんだね、よしよし」と慰めてくれる。ここでの二人の友情を感じさせるシーンは、読むたびに泣けてくる。

しかし、グッときたのもつかの間、ドラえもんが何とかしようと腰を上げるのだが、その腰をのび太が簡単に折ってくるのだ。

ドラえもんは「どこでもドア」ですぐ行けると提案するのだが、「せっかく行っても僕泳げないし、潜れないし・・・」とのび太は、煮え切らない反応を見せるのである。

「じゃ、止めよう」とドラえもんがどこでもドアを引っこめると、「美しい海底、採りたてサザエ、アワビ美味しい・・」とのび太がメソメソしだす。泳げないけど泳いで遊びたい・・、やりたいけどできないという、のび太最大のジレンマが発揮されてしまうのだ。

そして、のび太が出した要望は、「海へ入らずに海底散歩がしたい」というものであった・・。

当然「ムチャクチャ言うよ」とドラえもんは困惑するが、すぐに「ようし、なんとかそのムチャクチャ、叶えようじゃない!!」と力を込める。さすがに無理を言っていることは百も承知ののび太は、無理を聞いてくれるドラえもんに抱きつく。やはり二人の友情は強固なものなのだ。


さて、ドラえもんは徐に「水よけロープ」というロープ状のひみつ道具を取り出して、壊れていないかの実験をするという。

長いロープを切って、円にして結ぶ。その中にドラえもんが立ち、のび太の水をかけさせる。するとあら不思議、地面に置いた円から見えない筒状のバリアが張られたように、水を弾くのである。

実験は成功。さっそく「どこでもドア」で四丈半島へと向かう。目と鼻の先にスネ夫の別荘があり、水着姿のスネ夫、しずちゃん、ジャイアンが出てくる。今日も楽しくボート遊びをするとのこと。

そして、スネ夫はまるでのび太が聞いているのを知っていたかのように、「のび太が見たら悔しがるだろうな」と嘯く。そしてスネ夫の言った通り、草陰では、この世のものとは思えない表情をしてのび太が悔しがるのであった。


ドラえもんは今度は30メートルほどの長さの水よけロープを用意して、楕円形を作る。のび太には一見、電車ごっこのように見えるが、果たして、電車ごっこのように輪の中に入ったドラえもんとのび太が海の方向へと進んでいく。

そして海の中へと入っていくのだが、何と水よけロープが海水の侵入を防ぎ、まるで海に穴が開いたようになる。そのまま水深の深いところまで進むが、全く海水の影響を受けない。

「海に入らず海底に行く」というのび太の無理難題を解決した瞬間である。


さてせっかくなのでここで記念写真タイム。輪の外は海の中なので、輪から出ればそこを泳ぐこともできる。のび太は海水に入り、泳いでいる写真を撮ってもらうのだが、泳げないのび太なので、見事に溺れた写真が出来上がってしまう。

そこで今度は海に入らず、ロープの内側でピョコンと飛ぶ。この瞬間をカメラで写すと、背景では魚が泳いでいたりするので、うまいこと海底で漂う写真が完成するのであった。

泳ぎの写真が取れたので、次は海のご馳走をいただく番。海底ではサザエやアワビがゴロゴロしており、これを拾って海底で焼く。海の上で食べることがあっても、海の中でサザエのつぼ焼きを食べるというのも、オツなものである。


海中で煙を上げてサザエを焼いたりしているわけだが、海の上のスネ夫のボートから見ると、海の中から煙が上がっているように見える。スネ夫たちは何だろうということで、煙の場所へと急行する。

その頃、海産物で満腹となったのび太とドラえもんは、水よけロープを使って、海底鬼ごっこを始める。すっかり海底を満喫する二人なのである。

そんな鬼ごっこに興じている間に、スネ夫のボートがのび太たちの作った海の穴に落っこちてしまう。スネ夫やしずちゃんたちは全員その衝撃で気絶している。

ボートは大破しており、簡単に修理できそうもない。そこで応急処置ということで、ドラえもんは巨大な紙をポケットから取り出す。そして、大きな舟の折り紙を作って、スネ夫たちを乗せる。

気が付いた皆は、折り紙の舟に乗っていることに衝撃を受け、かっこ悪い!と頭を抱える。その様子をニコニコとこっそり海の中から見ているドラえもんとのび太なのであった。


のび太を仲間外れにして、さらに追い打ちをかけるように写真を送り付けて羨ましがらせるという非道な行動に出たスネ夫。その汚い根性を思うと、ラストでボートが壊れてしまうくらいは、至極当然の報いであると思う。

ただ、である。

ボートの故障の原因となったのは、ドラえもんの作った海底の穴を放置していたからである。乗っていた全員が気絶してしまったように、一つ間違えれば、人身事故にも繋がりかねない。

なので、僕の場合、本作を読むと、ちょっとだけドラえもんも酷いなと感じるし、水よけロープを海底で使うのは大変に危険なのではないかとも思うのである。




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