「のび太と鉄人兵団」の前哨戦!『大あばれ、手作り巨大ロボ』/巨大ロボット大暴れ①

「大長編ドラえもん」の最高傑作のひとつ、「ドラえもん のび太と鉄人兵団」

鏡の中の地球を舞台に、ロボット軍対のび太たちが壮大なスケールの戦いを繰り広げるお話で、のちに「トランスフォーマー」としてハリウッドで映画化された。(一部嘘を含みます)

その中で、リルルという忘れがたき美少女ロボットが登場し、自己犠牲的なラストを迎えるに当たり、子供だった僕は死ぬほど涙を流したことを鮮明に覚えている。

そして、本作では、リルルの他に、超個性的なロボットキャラクターが描かれている。それが、巨大ロボットの「ザンダクロス」で、ロボット軍の先兵として地球に送られた戦闘ロボットだが、ひょんなことからのび太たちの味方となる。

そしてもう一体印象深いロボットとして、スネ夫の従兄(スネ吉)が設計し、ドラえもんの力を借りて意思を持つロボットに成長したミクロスがいる。

本作におけるコメディリリーフとして、要所要所で笑いを誘い、少しだけ活躍も見せる。藤子先生は、大長編ではこうしたオリジナルな、物語の緊張感を和らげるキャラクターを配置しているが、本作ではミクロスがその役割を見事に果たしていた。

蛇足となるが、劇場版のリメイクにて、ミクロスのキャラクターを矮小化させていたので、この点大いに不満である!


さて、そんな名作「ドラえもん のび太と鉄人兵団」には、いくつかの元ネタとなる短編が存在するのだが、本稿ではその中でも、ザンダクロスとミクロスのモデルとなったロボットが登場するお話を見ていきたい。

また、本作以外でも巨大ロボットが登場する話がいくつかあるので、それらもまとめて紹介していく。題して「巨大ロボット大暴れ」


「ドラえもん」『大あばれ、手作り巨大ロボ』
(初出:巨大ロボットを組みたてよう)

「小学三年生」1980年3月号/大全集10巻

巨大ロボットが活躍する漫画・アニメは無数に存在するが、残念ながら僕の知識量が浅く、ここでは十分に語れない。その前提で、藤子先生と同年代の作家に限って抽出すると、横山光輝先生と永井豪先生の二大ロボットマンガ巨匠がいる。

藤子不二雄両氏と同年代の横山光輝の代表作は、なんといっても「鉄人28号」(漫画1956年/アニメ1960年)であろう。巨大ロボットものの礎を作ったエポックメイキングな作品である。

藤子作品においても、本作を意識して描かれた『鉄人ひろったよ』というSF短編が存在する(こちらは別稿で大いに語る予定)。また、横山先生はその後「ジャイアントロボ」や「ダイモス」などを創作されている。

続けてロボット作品で外せないのは永井豪先生である。藤子F先生から見て一回り下の先生だが、トキワ荘仲間の石ノ森章太郎のアシスタントをされていたことから、繋がりも深い。

代表作「マジンガーZ」(漫画・アニメ/1972年)は、「鉄人28号」とは違い、操縦者がロボットに搭乗するタイプであったのが、何と言っても画期的。本作の流れで「ガンダム」が生まれたのではなかろうか。


さて、藤子作品におけるロボットものは多数あるが、巨大ロボットを主人公にしたお話がほとんどない。「鉄腕アトム」型の、人間と同じ大きさのロボットが活躍するお話ばかりである。(「すすめロボケット」「キテレツ大百科」など)

本稿で見ていくお話もそうだが、日常をベースにした作品を描く藤子先生としては、基本的に巨大ロボットを子供たちの日常スペースに置いておくのは難しいという考え方がベースとしてある。

現実として巨大ロボットを収納する場所はないし、庭に立っていては日照権などの問題でご近所迷惑となる。また、壊れたら直すのも大変だし、そもそも兵器としてのロボットを目立つ形で置いておくのは危険極まりない。

そんなリアルな視線が藤子先生にはあるので、その点に目をつぶって、巨大ロボットものを書くわけにはいかなったのではないだろうか。


本作の見どころを述べていく。

本作は、スネ夫の自慢(今回はイジメも加わる)に対抗して、ドラえもんにねだるといういつもの流れ。今回の自慢の種は、スネ夫のラジコンマニアの従兄が作ったという人型タイプのロボット・グランロボである。

とても一介のラジコンマニアが作り上げたとは思えない、闊達な動きをするロボットで、しっかりとパンチを繰り出すことが可能である。スネ夫の従兄とはスネ吉兄さんのことであろうが、この才能なら世界トップクラスの技術系の会社に就職できるのではないだろうか。

ちなみに「グランロボ」と言えば「エスパー魔美」の『グランロボが飛んだ』(1979年10月号)が思い浮かぶ。本作の半年前に発表された作品であり、ロボット造形は全く一緒。

エスパー魔美での「グランロボ」は、人気テレビ番組として放送中の正義のヒーローであったが、おそらくスネ吉兄さんも、この番組のキャラクターをラジコン化させたものと思われる。


のび太はドラえもんという、精巧な22世紀のネコ型ロボットに対して、「僕もロボットが欲しい」とねだる。僕がいるよと答えればいいのだが、ドラえもんは「タイタニックロボ」という大きな箱に入ったプラモデルを出してくれる。

早速組み立てると、それは左の足首の部分のみで、これをあと15箱作って組み立てると全長10メートルの搭乗型の巨大ロボットが完成するのだという。

のび太は大喜びしつつも、「そんなに大きいと部屋に入りきらない」と我に返る。ドラえもんも、「問題はそこだ」と指摘。庭で作っても人目についてうるさいし、出来上がっても危なくて運転できない。狭小住宅地である都心は、巨大ロボット制作には不向きなのである。


そこで「どこでもドア」で人気のない山奥へと向かい、そこで残りの15箱を組み立てることにする。組み立て中に、そのあとに繋がる伏線的なセリフもあるので、ここに記しておく。

「線を切らないように。人間の血管や神経にあたる大事なものだから」
「山ひとつ崩せる力があるんだ」
「問題はせっかく作っても、力を振るう相手がなかなかみつからないことだ」

日が暮れるまでに下半身部分は完成。

すると、誰もいないかと思った山奥なのに、子供が3人山道を歩いているのを見つける。この辺には村も学校もないはずだが・・・。


さて、ロボット作りに精を出し過ぎて、宿題を忘れてしまったのび太は、先生にこっぴどく叱られ、居残り勉強をさせられる。これに懲りて、しばらくロボットのことを忘れて真面目に勉強しようと決意するのだが、帰り道のスネ夫のロボットに蹴飛ばされてしまい、ロボット熱を呼び起こされてしまう。

スネ吉はパンチだけでなく、キックの装置もあっさりと完成させており、類稀なるロボット工学の持ち主であることがわかる。

宿題もそっちのけに、今日中にロボットを完成させるべく、山奥にて組み立て開始。ガチャンガチャンと乱暴に作っていくので、「慌てて作ったら失敗するぞ」とドラえもんにたしなめられる。これはも後ほど効いてくるセリフである。

また、昨日見かけた子供たちが今日も歩いているのを目撃する。そして日が暮れてしまって、冷え込んできたので、作業はここで中止。ロボットは残り頭の部分だけ残して未完成となる。


またも宿題せずに寝てしまい、翌日も居残りする羽目となるのび太。今日こそは勉強を真面目にやろうという決意を固めるが、スネ夫たちがグランロボに搭載したハンドミサイルをのび太に試そうとしているのを知って、のび太はまたもロボット熱の灯がともる。

そしてドラえもん不在の中、雪が降りしきる中、のび太の手によって「タイタニックロボ」がついに完成する。

操縦法もすぐに把握し、タイタニックロボを空に飛び立たせる。スネ夫のグランロボと対決させるべく、山奥からのび太の町まで飛んでいく。

そして対決となるのだが、人の身長並みのグランロボと10メートル級のタイタニックロボがまとも戦えるわけもなく、あっさりと踏みつぶしてペラペラにしてしまう。

これでのび太の溜飲は下がり、めでたしめでたしとなるはずだったのだが、事件はここから起こるのである・・・。


山奥へと飛んで戻り、「また明日正義のために戦おう」と声を掛けて、のび太は宿題をすることに。ところが、ロボットが勝手に動き出し、山の木々を倒しながら歩き出してしまう。

そこへドラえもんが登場し、タケコプターで操縦室へと入る。調べてみると、暴走の原因はコントロール装置を作り間違えたことによるもの。つまり、のび太が最後に作った頭の部分の組み立てに失敗していたのである。

こうなってしまったら、電池が切れるまで操縦し続けるよりほかない。山がめちゃくちゃになってしまうので、空を飛ばすことにするのだが、電池が切れるまで10時間以上かかるという。

単三電池でこの巨大ロボが10時間も飛行できるというので、非常に電気効率の良いプラモデルであるが、宿題があるので、とても10時間も飛んでいられない。

ドラえもんは「宇宙怪獣なんかと戦えばすぐにエネルギーが切れる」というが、現実的に宇宙怪獣は存在しない。今日も宿題を放り出して、飛んでおくしか手はなさそうである・・・。


さて、ここからはこれまで散りばめてきた伏線の数々が一気に回収されていく。

激しい吹雪となったが、ロボットのエネルギーは全く消費されない。そんな折に、雪の山中で3人の子供たちが倒れているのを発見する。3人を救出して、谷沿いにあるという彼らの住む村へと向かう。

3人は毎日山を越えて分校まで通学しており、何と往復で3時間も歩いているという。僕の田舎でも毎日1時間かけて通学している同級生がいたが、雪山では無かったので、その点はまだよかったのかなと思う。(大雨の時は酷いが)


子供たちにとって、間の山さえなければ苦労は少ないはず。そこでドラえもんは、ロボットを使って山にトンネルを掘ろうと考える。宇宙怪獣ではなく、敵は山というわけである。

「山ひとつ崩せる」「力を振るう相手がみつからない」という物語前半のドラえもんのセリフが、この場面で生きている。

トンネルを掘ることでエネルギーも順調に消費し、ちょうど掘りぬいたところで電池が切れる。これで明日からは、子供たちは楽に通学できそうだ。のび太は「しっかり勉強しろよ」と声を掛けて、自分の部屋へと戻っていく。

すると部屋にはのび太のママが待ち受けていて、「勉強もしないでどこ行ってたの!!」と激怒される。夜も更けたが、今日こそは宿題を終わらせねばなるまい。

のび太は「ロボットの電池があるうちに、学校を壊しておけばよかった」と物騒な愚痴をこぼしつつ、泣く泣く机に向かうのであった。


本作登場のタイタニックロボが「鉄人兵団」ではザンダクロスに、スネ夫のグランロボがミクロスとなる。タイタニックロボが、戦闘ロボットでありながら、土木工事において力を発揮していたが、これも映画へと引き継がれていく。

また、普通に暮らすうえでは大型ロボットは邪魔という発想も、「鉄人兵団」に受け継がれることになるのだが、これは別のロボットのお話でも登場するテーマである。

それについては、別稿にて大いに語ってみたい。



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