海の王子、死す! はやぶさ号最期の戦い『不死身のハイドラ』/巨大ロボット大暴れ③

「週刊少年サンデー」の創刊号から連載が始まった、藤子不二雄A氏との完全合作「海の王子」

海底王国の王子(海の王子)と妹のチマが、スーパーロケットはやぶさ号に乗り込んで、次から次へと登場する地球征服を企む悪者たちや悪の組織と戦うストーリーマンガである。

週刊連載は約二年続き、この間10の悪者組織と対峙している。この手のバトルマンガにありがちだが、敵の力はどんどんと強大になり、戦いに勝つのは簡単ではなくなっていく。

そのため、科学者チエノ博士が開発した特殊な兵器を用いたり、時には肉弾戦や精神戦も駆使して、何とかピンチを乗り越えていく。

「海の王子」については、もう3年くらい前になるが、解説を試みているので、まずはこちらを読んでみてもらいたい。また、「海の王子」前後の藤子先生の活動についてまとめた記事もあるので、こちらもご参照いただきたい。


週刊連載版で戦った10大組織との戦いを10大バトルと個人的に呼んでいるが、そのほぼ全てで敵は大型の戦闘機や戦闘艦を繰り出して攻撃してくる。その意味で毎回巨大ロボットと戦うのだが、その中でも最大の強敵と言えば、10番目の敵となった「ハイドラ」であろう。

ハイドラは、電子頭脳を持った巨大ロボットで、あまりの強さゆえに、海の王子が命を懸けた攻撃を仕掛けなくてはならなくなる。

「巨大ロボット大暴れ」シリーズの締めとして、海の王子の連載版の最終回である『不死身のハイドラ』を読み進めていく。


「海の王子」『不死身のハイドラ』
「週刊少年サンデー」1961年5号~14号(全10回)

謎の飛行物体が日本海に落下したことを調査するところから幕を開ける。

落下地点付近では、パトロールに向かったジェット機や船が次々と怪現象に巻き込まれて消息を絶つ。

海の王子が現地へと飛ぶと、巨大なロボットが海中から姿を見せて、はやぶさ号に襲い掛かってくる。透視レンズで内部を観察すると、内部で人間が操縦している気配はない。

つまり、相当優秀な電子頭脳(コンピューター)で動くロボットであることが判明する。

空気や水を発熱できる機能を備えており、はやぶさ号は熱さに苦しめられが、針ねずみ砲という、機体全体から四方八方にミサイルを飛ばすお馴染みの装置で、ロボットの大破に成功する。

ロボットはバラバラになって落下。散らばった破片と、頭と思われる部分を回収して調査をすることに。しかし、頭の部分には肝心の電子頭脳が見当たらない。一体どのようにして動いていたのだろうか・・?


さて、海の王子の仲間と言えば、はやぶさ号に装備する新兵器などを開発してくれるチエノ博士と、コメディリリーフ的な存在である新聞記者のハナさんがいる。

ハナさんだけでチエノ博士の研究所に残っていると、バラバラだったロボットが自然と組みあがって、ハナさんに襲い掛かってくる。ハナさんは地下室へと逃げ込み、無電で海の王子に助けを呼ぶのだが、ロボットの魔の手が迫ってくる。

日本海の調査中だった海の王子は、ハナさんからの連絡を受けて帰還する。ところが、ハナさんは平然とした様子で、ロボットは逃げていったと報告する。

キャラ変してしまったハナさんは、案の定ロボットが扮装した姿だった。その夜、ロボットハナさんによって王子の妹チマも捕えられ、二人は空飛ぶ円盤に乗せられて、どこかへと送られてしまう。

チマはハナさんの正体を海の王子に無電で伝え、王子はロボットたちの撃退に成功する。


ここまでが本エピソードの導入部分となる。この後、チマたちは日本海の海底基地に送られ、今回の敵となるノア博士と対面する。

ノアと言えばノアの箱舟を想起させるネーミングだが、実際に世界の破滅に際して、新しい世界に導く存在になろうとしている男である。ただし、その破滅は、ノア自らの手で行おうとしている。

ノアはチマたちに、自分の戦いの目的を明言する。

「人間どもは互いに争いあって、今に地球を破滅させてしまうだろう。そうならぬ先に、わしが愚かな人間どもを消して新しいロボットの世界を建設するぞ!」

地球の支配者を人間からロボットに交代させると述べているが、これは藤子不二雄の実質的なデビュー作である「UTOPIA最後の世界大戦」とかなり似たようなプロットとなっている。

今回の敵は単なる地球征服ではなく、ロボットの王国を作ろうとしていること、そして、海の王子を襲った巨大ロボットの名前がハイドラであることも判明する。


ハイドラは王子との初戦ですぐにバラバラにされてしまったが、実はこれは最初から予定された行動であった。

バラバラとなり、金属を食べる細菌をバラまいていたのだ。この細菌を浴びたはやぶさ号は動力部分が機能停止してしまい、機関部全体を取り換えなくれはならなくなる。

こうしている間に、日本海側の都市である富山県の低岡市にハイドラが出現し、町を業火に包み込んでいく。銀田中佐の十字編隊が迎撃に向かうが、赤子をひねるかのようにあっという間に全滅させられてしまう。

注釈するまでもないが、低岡市とは、藤子不二雄両氏の故郷である富山県の高岡市のパロディとしてネーミングされている。

ハイドラはその後北陸から長野を抜けて東京方面と侵攻していく。海の王子は、やられてしまった機関部の代わりに、ジェット機のエンジンを装備したはやぶさ号でハイドラの進撃を止めようと考える。ただし、ジェット機の出力では空を飛ぶことはできず、地下を潜航して向かうことに。


その頃海底基地では、チサとハナさんが。ノア博士に海底基地の内部を案内してもらっている。まるでノアの箱舟を意識したかのように、基地内には動物たちが飼われているが、全てノアの作ったロボットであった。

ノアは言う。

「機械は大好きじゃ、わしの言うことを聞く。そこへいくと人間はけしからん。みんな自分のことしか考えん」

もちろん、ノアの言いたいことはわかるが、この発言に対して、常に素朴な感覚をもつハナさんは、「あんただってそうじゃないか」と一言で論破してしまう。

そしてここで、「人の心を読むロボット」が登場。これにより、ハナさんやチサの企みなどが漏れてしまい、ノアに警戒されて再び閉じ込められてしまう。しかしこのロボットが、思わぬ働きを見せてくれる。


「ヤキイモをドッサリ食べたい」と、心を読まれたハナさんが逆上してこのロボットを放り投げると、機械の調子が狂って、ノア博士の心の内をしゃべりだす。

それによると、固まるとロボットになる雪を降らせて世界を支配下に置こうと計画しているが、それらを動かすためにはこれまでの電子頭脳では力不足で、チサたちの生きた脳みそが必要だというのである。

ノア博士の行動を先読みして牢から脱出したチサたちは、ノア博士が秘密にしていた部屋へと潜り込む。するとそこには巨大なコンピューターが稼働しており、導管が張り巡らせてある姿は、まるで巨大な脳みそのようにも見える。

この部屋を博士は神殿と呼んでいる。つまり神様のいる場所ということだが、そこにあるのがこの巨大なコンピューターで、博士はハイドラと呼んでいる。

ここで読者には伝わるが、巨大ロボットハイドラは、海底基地の電子頭脳によって、遠隔で胴体を操っていたのである。なので、ロボットがバラバラになっても再びくっつくことができたり、電子頭脳が見つからなかったのである。

この、本体と頭脳が分離しているというアイディアは、「大長編ドラえもん   のび太の魔界大冒険」の魔王デマオンを思い起こさせる。(本体と心臓が分離していた)


その後、チサとハナさんは、爆弾ロボットの火薬部分を取り除いてその中に隠れる。そして、他の爆弾ロボットと並んで発射されて、基地から脱出することに成功する。王子たちと無事合流を果たし、ハイドラの秘密を王子たちに伝えるのであった。


ハイドラだけでなく、雪のロボットや爆弾ロボットによって、首都圏は火の海となる。ここまで敵に押し込まれることになるのは連載開始以来初めてのことで、これまでにない強敵であることを存分に描いている。

頭脳を破壊しなければロボットたちの動きを止められないと判断し、加葉山長官率いる軍勢と共に、海底基地攻略へと向かうはやぶさ号。はやぶさ号の新エンジンはチエノ博士が完成させていた。

はやぶさ号がハイドラと交戦している間に、加葉山軍の潜水艦は「原子分解光線」で壊滅し、空軍も網の目のような白熱光線で青息吐息。

はやぶさ号はハイドラを振り切って海底基地へと向かい、ありったけの弾丸をぶつけるがビクともしない。チエノ博士は魚雷攻撃を仕掛けたとしても、ハイドラの頭脳が壊せるとは思えないと述べる。


軍は全滅し、はやぶさ号の攻撃も歯が立たない。これにて万事休す。ノア博士は自分たちの勝利を確信する。

絶体絶命に陥ったはやぶさ号だが、その時偶然海底地震が起きて、王子は海底火山を爆発させて海底基地を壊すというアイディアを思いつく。近くに火山地帯はないが、地殻に穴をあけて火山を作ってしまえばいいと王子は考える。

しかしそのためには、危険を冒してはやぶさ号を地球の中心に突っ込ませる必要がある。そこで、王子はとっさに眠りガスではやぶさ号に同乗しているチエノ博士とハナさんを眠らせて、二人を人間魚雷で海上に脱出させることにする。

チマも一緒に行けと言うのだが、チマは自分も手伝うと告げる。そして、ここからの兄妹の会話が最高なので、抜粋しておく。

王子「いけない。とても危険な仕事なんだ」
チマ「私たち兄妹じゃないの。こんな時こそ力を合わせるのよ」
王子「ほとんど助かる見込みはないんだよ」
チマ「かまいません」
王子「チマ・・・ありがとう」

とてもシンプルなやりとりなのだが、これまでの二年間に及ぶ長期連載での死闘の数々を思い起こすと、かなり泣けてくる。


海の王子たちは、まずハイドラの胴体をはやぶさ号の体当たりで撃破して、そのまま海底の地下深くへと潜行していく。やがて海底で火山が爆発し、巨大なエネルギーが海底基地を破壊する。

その様子を遠くの沿岸からチエノ博士たちが眺めている。海の王子からの連絡は途絶えたままである。長官は「この大爆発では海の王子はもう生きていないのでは」と語る。

ハナさんは「海の王子が死んでたまるもんか」と反論するが、絶望する気持ちもあるので、ウワーンと子供のように泣き出して、チエノ博士にすがる。

そこで、チエノ博士は力強くハナさんに声を掛ける。

「わしも信じているんだ。海の王子は必ず生きている。海から来た王子は、使命を果たして海へ帰ったんだ。もし世界の平和を乱すものが出れば、再び姿を現すに違いない」

この希望に満ちた博士のセリフは、果たして叶うことになるのだろうか。

結果的に言えば、ここで「海の王子」の週刊連載は最終回となるが、数か月後に別冊などで無事王子たちは復活を遂げる。この復活以降のお話についてはまた別の記事で取り上げていきたい。


そして最終回の最後のコマ。これがいかにも藤子不二雄的な、あっさりとしつつも、余韻に満ちた見事な終焉を描ききる。

その終わり方は、台風のフー子だったり、大長編ドラえもんのラストなどを想起させる。藤子F先生の最終回の原点と言えるような、感動的な終焉なのである。

最後の一コマついては、ここであっさり語るのも勿体ないので、未読の方は、是非とも原本にあたってみて欲しい。




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