マハーバーラタ/4-18.ドゥルヨーダナの悲嘆

4-18.ドゥルヨーダナの悲嘆

ビーシュマが間に入って話し始めた。
「ドゥルヨーダナよ。こんな口論をさせておいてはいけない。我々は一つの軍だ。意見の相違があってはならない。共に戦うべき英雄達が仲間割れしているのを放っておいてはならない。状況をよく見るんだ。
ドローナの言うことは正しい。
クリパの言うことも正しいだろう。
アシュヴァッターマーがブラーフマナについて語っていることも真実だ。
ラーデーヤによって彼らが侮辱されるべきではない。
アシュヴァッターマーよ。ラーデーヤの言葉を真に受けて怒ってはいけない。彼は軍隊を励ましたいのだ。ブラーフマナを侮辱したいわけではない。彼の軽率な発言を許してあげなさい。
たとえ真実であってもアルジュナを称賛することで軍の士気を下げるべきではない。そう思ったからラーデーヤは激しい言葉を使ったのだ。表面上の言葉など忘れるに値する。
差し迫っている危機に集中すべき時だ。全員が一丸となってアルジュナに対抗しなければならないのだ。賢い者は余計な言葉は覚えておかないものだ」

ビーシュマの言葉によってアシュヴァッターマーの心は落ち着いた。
「そうですね。私の父ドローナと伯父クリパが彼を許すなら、私も怒りを鎮めましょう」

ドゥルヨーダナは状況の深刻さに気付き、ラーデーヤの発言を許すようドローナとクリパに頼んだ。彼らに謝るようラーデーヤを説得した。

ドローナは言った。
「ビーシュマの言葉を聞いて私の怒りはもう消えました。この件は忘れましょう。さあ軍の陣形を整えよう。
アルジュナはきっとドゥルヨーダナを狙って攻めてくるだろう。彼の怒りはきっと恐ろしいものだろう。ドゥルヨーダナを守るような陣形にすべきだ。
13年間の期限が終わる前にアルジュナが現れるとは考えられない。パーンダヴァの追放は終わったんだ。戦いに集中しよう」

ビーシュマは言った。
「そうだ。ドローナの言っていることは正しい。追放期間は終わった。
時間を正確に読む占星術師によると5年毎に2か月ほどの時間が変化するそうだ。この13年間の間に5か月と12日のずれが生じる。つまりパーンダヴァ達は森で12年、身を隠して1年、合わせて13年間を過ごしたわけだが、5か月ほどは必要のない時間だったのだ。すでに追放期間は終わっていたのだ。
ユディシュティラはそれを知っていたはずだ。それでも彼はこの5か月の短縮に頼ることなく静かに苦しみに耐えた。いかなる反論の余地もない形で13年をやり遂げたのだ。そして些細なもめごとも起こさないように今日まで沈黙してきた。
アルジュナは13年目が終わったことを知っている。だからこそ姿を見せたのだ。
彼らが戦うことを決意したなら我々には勝つ望みはない。
ドゥルヨーダナ、これが最後のチャンスだ。
なぜいまだに彼らを敵と見なすのか? パーンダヴァ達に王国を返してあげなさい。彼らと平和に過ごすのだ。あなたは幸せになり、世界中の人々が殺戮を免れます。
言うことを聞きなさい。パーンダヴァ達を呼んで、彼らの王国を返すのだ」

ドゥルヨーダナの表情は青ざめた。パーンダヴァ達を再び森へ送り返すという夢が消えた。
そして彼の目は怒りで赤くなった。
「返さない。私はパーンダヴァ兄弟に国は返さない!
今は戦争のことを話し合うべきだ。それ以外のことは要らない。
私は戦う。戦争の準備をするんだ!」

ドローナはあきらめの表情を浮かべ、話し始めた。
「ドゥルヨーダナ、こうしましょう。軍を四つに分けます。
あなたは四分の一の軍を率いてハスティナープラの方へ向かいなさい。
そして、皆の者よ。残る我々はいかなる犠牲を払ってでもドゥルヨーダナを守る。決してアルジュナをドゥルヨーダナの元へたどり着かせてはならない。
もう四分の一の軍は牛を連れてハスティナープラの方へ向かわせます。
残った半分の軍でアルジュナを迎え撃つ。
ビーシュマ、クリパ、アシュヴァッターマー、ラーデーヤ、そして私がアルジュナと戦う。
アルジュナの戦闘馬車がこちらへ向かってくる音が聞こえてきている。時間がない。もうすぐ彼はここにやってくる。急いでドゥルヨーダナをハスティナープラへ!」

ビーシュマは軍の総司令官を引き受けた。
「陣形はヴァジュラヴューハとする。
ドローナを軍の真ん中に置く。
アシュヴァッターマーが彼の左側を守る。
クリパが右側を守る。
ラーデーヤが先陣だ。
私は後方から皆を守る。
これなら私達五人でアルジュナを何とか食い止められるだろう」

アルジュナの戦闘馬車がやってきた。
彼は三日月形の陣形を見た。
「あれはヴァジュラヴューハ。ダイヤモンドと同じくらい固く貫けないという意味の陣形だな。これはきっと祖父ビーシュマの指揮によるものだ」

彼は敵軍を観察し、金色に塗られたヤシの木の旗を見つけた。それは祖父ビーシュマの旗。敵の心に恐怖を打ち付ける旗印。
アルジュナは覚悟を決めた。

(次へ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?