スタグル本は、どのように作られるのか。

今まで「自分で作るスタグルメ」という、スタジアムグルメを実際に食べて、その料理を自宅の台所で再現してきたレシピ集をおかげ様で7冊+ペーパー2種(こちらは漫画「サポルト!」(高田桂:著)に登場した架空のスタジアムグルメの再現レシピで、ある意味「漫画メシ」とも言えるだろうか。既刊の宣伝も兼ねて作ってみた)を出し、色々な同人誌即売会やサッカー関連のイベント、同人誌専門書店だけでなく、一般の書店さんである興文堂平田店さん(長野県松本市)やサクラ書店さん(神奈川県平塚市)や、過去にはBOOK LAB TOKYOさんにも委託で置かせていただいた。
絵もそれほど上手くはなく、文章もちゃんとした訓練を重ねたわけではなくほとんど我流でやって来たにしては、いろいろとご縁に恵まれた幸運な本のシリーズを出す事が出来たのではないかと思っている。

今は8月に迫った「夏コミ」ことコミックマーケットへの新刊の準備期間だ。
正直、原稿の進捗は芳しくない。そろそろ本気でエンジンを動かさないと非常にまずい状態だ。
ただし、今回は比較的大規模な誌面のリニューアルも控えているので、この機会に一度ネタバラしのテイでどうやって本を作ってきたのか、自分でも振り返っておくいい機会なのでメイキングを少し書いておこうかと思う。

1)取材前〜そして取材
どこのサポーターの家でも多かれ少なかれ見られる光景だが、居間に貼られた大判のカレンダーに書き込まれた試合日程を見ながら「この日は試合に行けそうだ」「このアウェイなら行けるんじゃない?」と予定を立てる。
我が家は夫婦二人でシーズンシートを所持しているけれど、だからと言って雨の日も風の日も全日程通いとおすには少し遠い場所に住んでいるし、仕事で土曜出勤がある日や、大事な予定を控えている時に風邪気味で、しかも雨模様が予想される場合は無理をしてまでスタジアムへ行かない。
いささか信仰心の薄いサポーターなのかもしれないけれど、それはそれ、これはこれ。

時にはJ1の試合や、自分たちが応援するチームが全く関係ない近場の試合に顔を出す事もある。単にスタグルを食べたかっただけかもしれないし、イニエスタを見たかったからかもしれないし、理由はその時々だ。

前日までにチケットをコンビニで押さえて、スタジアムへのアクセスや家を出て電車に乗る時間を調べながら、スタグルを調べていく。
まずはチームの公式HP。ここに紹介されているものは試合当日には必ずあるだろう。そこで気になったメニューがあれば、その場でチーム名とメニュー名で検索をかけ、どんなメニューなのか下調べをしておく。
あとは個人のブログや、Jリーグ親膳大使をされていたフォーリンデブさんこと橋本陽さんの記事などを参考にしたり、アウェイの場合はツイッターなどでおすすめのスタグルを質問してみたりする。
そうして、前日の夜までにメインに食べたい2〜3品は決めておく。

試合当日はガチガチに早く来て待機列に並ぶタイプでもないので、ゆるっと並んで程よい席を確保出来たら、ここからが本番だ。
スタグルの売店やフードコートの位置は事前にチェックしてあるので、売店形式の場合はまずその売店に行く。フードコート形式の場合はぐるっと一周して、そこに何が売られているか、行列の先頭の前をお邪魔して確認し、看板の写真を撮らせてもらう。
そして、家族や友人などと並びを分担して、1人前ずつ複数のスタグルを確保する。
並びの早い列に並んだ方が先に品を確保したら、すかさず次のターゲットか飲み物の列に並んで効率良く押さえて行く。

一通りスタグルを買い終えて座れるスペースがあればそこで、なければ席に戻って試食タイムだ。
この時、私は必ずスタグルの現物の写真を撮るのだが、最近は「スタグル本を書いてる人」で知られる事も増えてきて、岡山のシティライトスタジアムに行った時は写真を撮っていたらファジアーノ岡山のサポーターの皆さんが「ファジフーズの写真を撮っているから影にならないように」とわざわざ日が当たって美味しそうに見える写真になるように気を遣ってくださったり、自チーム他チームのサポ問わず「取材どう?」「いいのあった?」「これも載せてね」と挨拶がてら声をかけてもらえるようになった。

取材は、まず写真を撮って、そのメニューに何の具材が使われているかを記録し、同時にスマホのメモにも記録する。
そして最初の一口。下調べして予想してた味と違うこともあれば、それと同じかそれ以上の場合もある。
そのあたりは自分に正直に、感じた味や香り、使っているであろう食材のことや今まで食べた中で近い食べ物などをメモに書き込みながら食べて行く。
予算的にも、お腹のキャパ的にも3品くらいだろうか。
これを、試合前に済ませてから試合観戦となる。

2)再現
取材時の写真とスマホのメモ、事前の下調べでわかった内容などを踏まえて、料理を再現する。
まずはネットでそのスタグルの元になっている料理の作り方を調べる。
読者投稿型のサイトだとたまに事故になりそうなのもあるので、企業や出版社が紹介しているレシピなどを参考にして組み立てて行く。
「…ここでは小麦粉を使うレシピになっているけど、あれは米粉使ってたよね?」
「スタジアムで食べたのはもやしは少なくてキャベツ多めだったからそこもちゃんと再現しよう」
…そんな感じで、ざっくり下書きのレシピができる。

それから、材料を買って来ていざ試作!だ。
試作は多くても2〜3回が限度なので、材料の買い出しは慎重に少し多めに用意する。
実際に試作で失敗作を出す事もあるし、味付けが上手く行かなくてやり直しも発生するからだ。
(もちろん、失敗作もちゃんと我が家の食事やお弁当のおかずになっているのでよほど黒焦げにでもしない限りは捨てたりはしない)

そうして、試作品が出来るとまた写真を撮る。
今度は誌面掲載も考えて撮らなくてはいけないので、複数のショットを撮っておく。最悪、背景を後からフォトショップで合成する事も含めて撮っているし、実際に後からランチョンマット等を合成した写真も過去作には残っている。

写真が撮れたら試食。だいたい夕飯のおかずとして食べて味を検証する。
8割方はこれで問題ないのだが、「実際のレシピではレモン汁入れてるねこれ」とかそういった微調整が発生するのでそのあたりはレシピ文面で修正可能ならばそのように下書きのレシピに書き加える。

3)本作り
再現したレシピを文章に起こして校正担当の方にメールで送る。
校正が上がって来たら再現時の写真を原稿用紙サイズのテンプレートにはめ込んでそこに文章を流し込み、スタジアム名などをよく確認して見開きの形に落とし込む。1冊に8品のレシピを載せているので、だいたい土日2日間で一気にDTP作業を済ませてしまう感じだ。
空き時間にカラー写真を調整してカラー口絵のページや表紙を作ったりしている。
1冊8品構成なのでどのメニューをどの順番で行くか……みたいな事もある程度考えてバランスを取りながら誌面に落とし込んで行く。

そうして、印刷所の早割入稿に間に合うようなスケジュールで本を仕上げて、イベント前に少部数を受け取る形を取っている。

ざっくり、こんな感じで「自分で作るスタグルメ」は作られている。
この先、誌面リニューアルも控えているので同じやり方では作れないかもしれないし、色々変化もあるかもしれないが、とりあえず7巻までの舞台裏はこんな風だ。
おそらく私の中で本作りにあたって役に立っているのは「味の記憶」みたいな感覚だろうか。
それほど舌が肥えてるわけでも、いい物をたくさん食べて来た方でもない。
ただ、食い意地が張っているのか、食べた物がどんな味なのか、何で味付けされているのか当ててみたりするのはそれほど嫌いではないようだ。
料理はさほど上手い方でもないけれど、この本を通して少しは料理を覚えて行ったし、食品衛生責任者の資格も取得した。

そんな事、5年前の私に言っても信じてもらえないだろうな。

そんなこんなで、スタグル本のメイキングの記録でした。

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