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谷崎推しの二次創作(刺青パロ)

 

◇ 谷崎潤一郎 「刺青」パロディ


(青空文庫で読めるので「刺青」是非読んで下さい。短編なのでどうか気軽に・・・。)


 女性の裸体、特に背中という部位は何とも言い難い、人を酔わせてしてしまう艶めきを纏っている。どこの誰であろうと、この見解への異論は認めない。

確か私が13の頃、姉が背中に大蛇の刺青を彫ってきたのを、私の部屋に来て見せてくれたことがあった。彼女は頻繁に顔を変えたり、身体に穴をあけたり、傷をつけたりして帰ってくる人だったから、その行動にも特別な驚きはなかった。
「どうだ、かっこいいだろ。」と姉が言うので、
「うん、すごく綺麗だね。」と僕は返した。
これは姉への恐怖からのお世辞でも何でもない。ただ、この世界にまだこんなにも美しい物が存在していた事に驚いた。それと同時に今まで刺青の存在を知らずに生きてきた数年間を激しく後悔した。
そこからの数年は、刺青にだけ興味を持ち、それ以外のものに一切惹かれる事の無い、一途過ぎる人生を過ごした。そのせいで友人はおろか、知り合いすら1人たりとも出来ないまま、ついに20歳を迎えてしまった。学生時代の僕は、勉強も運動も下の下であったが、芸術性と自身の持ち合わせた容姿のみは特優のいわゆる天才肌の不良生徒であった。それに加えて刺青をこよなく愛していた為、当たり前のように彫師を志し、高校なんかには結局最後までまともに通わず、全身墨まみれの怪しげな師匠の下で修業を積んだ。
そこで初めに学んだのは、美しい刺青を入れる際には強い痛みが伴う、ということだった。
これは僕の刺青に対する見方を大きく変える事実ではあったが、決してこれで刺青が嫌になるなんて事はなく、むしろ更にその魅力に魅せられていった。まるで、深い沼地に沈み込んでいく様に。

「言葉で学ぶより、身体で経験した方が覚えられる。」という師匠の一言で、僕は自分の左腕に
姉と同じ蛇を彫ることになったのだが、この体験は僕の人生にとって2度目の大きな転機であった。
自らの白い肌に針が突き刺さる鋭い痛み、それと同時に蛇が自分の体に宿っていくという興奮。
確実に耐えがたい痛みであることは認識しているのであるが、アドレナリンとかいう物質のおかげか、体は性的な興奮を享受してしまっていた。
 
その日を境に、思春期に目にした姉の裸体に宿るへの欲情と、
今自分に与えられている痛みとが、完全に繋がってしまった。
 
「えぇ、タトゥー、だっけか。ちょっと怖い。あと、絶対痛いじゃん。」
馬鹿な女は好きではない。中身には全く興味がない。
「大丈夫。それとも、俺と同じ墨彫るの嫌なの。」
「そういうわけじゃない、けど。」
この女は有名な雑誌のモデルをやっているらしく、容姿だけは確かに美しい。
絶世の美女、という言葉がここまで当てはまる女を僕は今まで見たことがない。
「じゃあいいじゃん、優しくしてあげるからさ。ね。」
最近は自分の恵まれた容姿の扱いにも慣れてきて、簡単な女性の喜ばせ方も分かってきた。

私の目的は、美しい女性の体に墨を彫ること。
それさえ達成できれば、他の何が犠牲になったとしても大した問題ではない。

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