見出し画像

尿検査こそ、人生の最難関である。

序章 順調だった人生


これまでの人生、比較的うまくいっている方だと思う。

勉強は地元でいちばん賢い高校に行く程度にはできたし、運動も体育レベルであれば苦労はしなかった。容姿も平均以上だと思うし、身長は180cmだ。

強いてあげるとしたら、幼稚園の頃に女の子に二股かけられてたぐらい。

でもそれを含めたとしてもやっぱり、僕は人生うまくいってるんじゃないかなって思う。


そんな中、僕は、ほぼはじめてといっても過言じゃないほどに、大きな試練にぶち当たった。


それは浪人の時、予備校にて実施された尿検査だ。


現役の大学受験、全落ちしたことなんて比にならないほどに、当時の僕はメンタルをえぐられ、青ざめ、その出来事はトラウマとして僕の脳裏にしっかりと焼きついた。


落ち着いた今だからこそ。

当時の尿検査での死闘をここに、供養しようと思う。

第一章 尿検査との出会い


僕は前述の通り、大学受験に失敗し、浪人生として予備校に通っていた。

浪人生といっても、僕が通っていた高校では学年の半数が浪人するような高校だったということもあり、高校4年生の気分で予備校に通っていた。

僕は、高校の時から仲がいい友達数人と共に授業を受け、時には一緒に勉強しながら、比較的平和で安定した浪人ライフを過ごしていた。



そんなある日、予備校から健康診断を受けるようにという案内をされた。

もちろん、その健康診断の一部として尿検査も含まれていた。

健康診断は午前の部と午後の部に分けられており、

午前の部 10:00-12:00
午後の部 13:00-17:00

と定められていた。


念のために記しておくが。

ここにおける尿検査とは、高校までのとはまるっきり違う、もっとアダルトな尿検査である。

高校までは、まず前日に紙コップとプラスチック容器を配布される。
そして尿検査当日の朝に、朝いちばん絞りを採取し、それを提出するといった形式のものである。

一方、以降のアダルトな尿検査は、たった一日の猶予すらも与えてはくれない。当日に現地で尿を採取し、それをそのまま提出する。

そういった形式のものである。



当時、僕と僕の友達は早く終わらせちゃおうといった魂胆で、午前の部を希望した。

しかし、人は同じ人であって、考えることもやはり同じなのであろう。午前の部は、似たような魂胆の人間で溢れかえっていた。

結局のところ、僕らは泣く泣く午後の部への変更を余儀なくされた。


午後の部は、午前の部とは打って変わって空いており、待ち時間ゼロで健康診断をはじめることができた。

健康診断の担当の先生は、どこか柴田理恵に似ている、そんな雰囲気のおばちゃんだった。


柴田理恵

先生は、僕らに紙コップを渡して、

「はい、今から尿を採取してきて。」

と、そういった。

紙コップを差し出した時のその笑顔は、柴田理恵にそっくりだった。

僕らはその命令に従うがままに、トイレに入った。


第二章 尿検査は、青春だ。



立ちション専用の便器がちょうど二つあった。

そのため、僕らは男二人で並んで立って、各々が各々の尿に集中した。

数十秒後、ポコポコポコと隣から音が流れてきた。

友達が採取を開始したのであろう。

比較的早めのスタートだった。

僕は当時からスロースターターの自負があった。だから焦る必要はなかった。ただただ、僕は自分の尿に集中するのみだった。

やがて、隣からの音が止まった。

友達は、どこか満足気で、またどこか誇らしげな顔をして

「先、いってるわ。」

と一言告げ、トイレを後にした。

扉がパタリとしまったのち、トイレには静寂が流れた。



あれからどれくらいの時が経ったであろう。


実際の時間は数分だったのかもしれないし、もしかしたら1分にも満たないのかもしれない。しかし、体感時間は軽く1時間を超えていた。

僕はこれまでに経験したことがないほどの時間を、便器の前で過ごした気がしていた。右手に紙コップを、左手にブツを持って、ただただ自分の尿意に向き合った。


孤独だった。



集中力が切れかけたその時、心配した友達が様子を見にきた。

「大丈夫?出そう?」

いや、まだかかりそう。と僕は言った。この年になって出そう?なんて聞かれることがあるのかと我ながらに驚いた。

「ちょっと、コーヒー買ってくるわ。利尿作用あるから。」

友達はそういって、走ってトイレを出ていった。

やはり持つべきは友達だ。

友達が本気で僕の尿に向き合ってくれている。僕も今一度本気で向き合わねばならぬ。そう思って僕は個室トイレに入った。

スマホで、「尿検査 コツ」「尿出ない なぜ」「尿意 ツボ」などとありとあらゆる方法で検索をかけ、片っ端から試した。

「ヒーヒーフー」でお馴染みのラマーズ法までもを試した。

しかし、そのどれもが暖簾に腕押しだった。



友達が2Lのコーヒーを持って汗だくで戻ってきた。

「買ってきたぞ!!!はやくこれを飲め!!」

仙豆の如くコーヒーを渡された僕も、すでに汗だくだった。

ありがたく受け取って、2Lのコーヒーをガブ飲みした。

友達が、僕の尿に本気で向き合っている。

僕も、本気で尿に向き合う。

浪人をして約4ヶ月。

成績は安定して伸び続け、このままいけば志望校にも合格できるだろうとメンターに言われていた。あらゆることが順調だったせいで、いつしか忘れていたのであろう。



青春ってこうだったな。



僕らは全身全霊をかけて、尿に向き合った。


集中!

集中!!


どれだけ集中しようとしても、柴田理恵の顔が脳内で邪魔をする。

僕はその顔をかき消すかの如く頭をふり、声を上げて唱えた。


集中!!!

集中!!!!!!!!!


限界などとうの昔に超えていた。

汗が滝のように流れる。足は痺れてもはや感覚を失っている。紙コップはすでに汗で原型を失っていた。

友達が叫んだ。


ヒーヒーフー!

ヒーヒーフー!!!


僕も叫んだ。


ヒーヒーフー!!!!

ヒーヒーフー!!!!!!!!


最後の最後の力を振り絞って、腹部に全てを集中させた。

その時だった。





ぶりっ。





うんこがでた。



神様とはなんて皮肉なものだ。

僕らの願いを嘲笑うかの如く、大きくて立派なうんこがでた。

一切、尿は出なかった。



人生うまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。なんなら、うまくいかないことの方が割合としては大きいのだとも最近思う。

しかし僕ら人間は、そういった試練にも臆することなく生きていかなければならないのだとも思う。

なぜなら。

僕ら人間は、3億もの精子の中からたった1匹に選ばれた存在なのだから。3億の存在したはずの命を生まれながらに背負って、この世に降り立った存在なのだから。


僕はいまだに尿検査が怖い。

尿検査があると分かれば、毎度コーヒー2Lを購入して挑む。朝のおしっこは絶対に我慢する。

しかし最近になってちゃんと準備さえすれば、失敗しないこともわかりつつある。

失敗は辛くて、しんどい。

しかしその分、学びも大きい。

尿はでずとも、大きくて立派なうんこはでる。

そうやって失敗を恐れずに、恐怖に立ち向かう。

そうやって試練をひとつずつ着実に乗り越えていく。

きっとその先に、幸せがあるのだろうと思う。

そうやってきっと。

大人になっていくのであろう。


終章 経験者は語る


尿検査は、僕にとっては人生最難関の試練だ。

しかし、人生最難関の試練は人によってそれぞれである。

それを乗り越えてこそ人は、真の大人になれるのではなかろうか。


これを読む、まだアマチュアの方々も。

年齢だけを重ねてしまった方々も。

ぜひ今一度、目の前の試練に本気になって向き合ってみませんか?

大丈夫。

尿検査ごときに恐怖を感じる人間がここにいるから。

大丈夫。

きっとあなたは乗り越えられる。




#創作大賞2024
#エッセイ部門

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?