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どうして日本の電子楽器界隈は踏ん張れるのか。

ツイッターで知ったんですが、シンセサイザーの老舗メーカーMoog(モーグ)が、アメリカのInMusic社に買収されたようです。

InMusic社はAlesisを手始めに、M-AudioなどDTM界隈でおなじみのブランドを手中に収め、日本発祥のAKAI professionalやDenon DJなども吸収しています。

海外老舗シンセメーカーの苦境

またポリフォニック・シンセ”Prophet”シリーズで知られるSEQUENTIAL(シーケンシャル)も、2021年にオーディオ製品会社のFocusriteに買収されています。

SEQUENTIALの前身会社(DSI)が開発に協力したPioneerDJの傑作シンセTORAIZ AS-1は、もうバージョンアップはおろか、後継機もないんだろうなあ。

創設者のデイブ・スミスさんも昨年天に召されたし、そもそもPioneerDJ自体が転々と買収されてますからね。

ソフトウェア含め、音楽制作界隈は世界中にユーザーがいるものの、ニッチかつ供給過多気味な市場で、また技術者中心で経営的に不安定な企業も多い印象があり、何かと大変だろうと察します。

前述したMoogのハードウェアはTHEREMINI(テルミニ:バーチャルアナログなテルミン)しか持ってませんが、とりわけニッチ・オブ・ニッチなジャンルゆえ、壊れちゃったらこの後どうなるのかな、後継商品あるのかな、と漠然たる不安はあります。

日本の3大メーカーは健在

先に書いたように買収された国内メーカーもありますが、3大シンセメーカーとされるKORG、Roland、YAMAHAはまだまだ健やかに意欲的な新製品を発表し続けています。

特に2000年代以降のKORGは、3万円台以内のガジェット楽器を大量に開発し、世界でも独特のポジションを維持しています。

キャラクター+ソフトウェア

また国内の音楽ソフトウェア界隈は、他国と異なる独特の発展を遂げています。

初音ミク「マジカルミライ10th」展示会場

『初音ミク』のクリプトン・フューチャー・メディアを始め、ソフトウェアから派生したキャラクタービジネスという、世界でも例のない展開を見せているのです。

自治体とのコラボも多いのがニッポンの企業らしいところですが、それゆえキャンペーンの安定感はもちろん、観光やグルメ、さらに町おこしにまで派生してるのは特筆ものです。

キャラクターというと、世界に誇るアニメ、特撮作品のイメージが強いのですが、制作される作品数が膨大で、大量消費されている印象もあります。

大御所の監督作品でもない限り、老若男女に国民的に認知されるキャラクターは生まれにくい現状です。

テレビも映画もシリーズ化されなければ単発で終わりますし、リクープを考えれば短期決戦は仕方のないところです。

一方、同じキャラクターとは言え、2007年夏に登場した「初音ミク」は15年以上続く息の長いコンテンツとなっています。
そこに紐づくのは、テレビ番組でも映画でもなく、あくまで音声合成ソフトです。

ソフトウェアはひとたびヒットすればいつでも店頭に置かれ、バージョンアップによってデバイスを跨いだ長期利用が可能となります。
だからこそ同じキャラクタービジネスとは言え、育てる期間がアニメや特撮とはまるで異なるわけです。

中の人が毎年替わり「初音ミク響鬼」や「初音ミクZ」になるわけでもなく、また20周年記念で20体が一堂に会する展開でもありません。

なのにイベントには、毎年新たにファンとなったローティーンが足を運ぶのです。
こんなことができるのはミッキーマウスくらいのものでしょう。

トークソフトに至るまで、ソフトウェアにまつわるキャラクター文化はまだまだ拡大していきそうな予感がします。

Rolandの商品展開

一方でハードウェア主体のシンセメーカーですが、最近面白いと思うのがRolandの商品展開です。

誰でも一度は聴いたことのある個性的なTR-808やTB-303を生み出した同社ですが、「アナログ復刻」を求めるユーザーの声には、頑ななまでに耳を貸さない印象でした。

ところが2010年代に入り、ACBやZen-Coreという音源方式を生み出すと、過去の機材をデジタルで完全復刻したり、ほぼ全てのハード/ソフトで仕様を共通化したのです。

これによりハードでもバージョンアップに対応した恒久的な利用が約束されます。
さらに同社ソフトウェアと連携させれば音源が追加されるオマケもあり、ついついサブスクプランに加入してしまうのです。
これ、マジ天才と思いました。

考えてみると、今回取り上げた老舗の海外シンセメーカーMoogとSEQUENTIALはアナログ機に拘ってきました。

職人気質でプロミュージシャンが愛用する高額商品によりブランドへの信頼は強かった両社ですが、ユーザー単位の買い替えサイクルが長期化し、新規顧客が付きにくい点があったように思います。

日本製の電子楽器やソフトウェアは、ゴルフ1プレー代で買える商品も豊富で、一度手に入れると長期楽しめる施策も多く、またキャラクター展開により親と子のコミュニケーションにも貢献しているのです。

これこそ文化と呼ぶに相応しいと思いませんか?

この楽しい文化が次の世代にも引き継がれることこそ、僕の希望であり期待なんです。

オチはないよ。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。