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Roland SH-101のハナシ(2024/3追記)

SH-101は、ローランドが1982年の秋に発売したアナログシンセサイザーで、当時中学1年生だった僕が最初に所有したシンセでもあります。

日本においてシンセサイザーという楽器がティーンにまで普及したきっかけは、間違いなく1980年のYMOブームでしょう。うわ、40年も前か。

肩にかからない程度の長髪が許されていた中高生であれば、ちょいと刈りあげ、もみあげを落としたテクノカットを気取り、文化祭のステージでヤマハCS-10、ローランドSH-2、コルグMS-20あたりを指一本で弾きながら、「なんでだろ、俺モテねえな」とスクールライフをエンジョイしたのではないでしょうか。

YMOチルドレン

一方でYMOブームは、当時小学校高学年をも巻き込んでいました。いわゆる「YMOチルドレン」です。

いきなり上記3機種か廉価版(CS-5/SH-09/MS-10)を買ってもらったボンボンもいたかもしれませんが、たいていのYMOチルドレンは、2、3年後の中学入学でシンセデビューをしようと野心を抱いていたものと思われます。
僕も楽器屋でもらったメーカーのカタログを風呂にまで持ち込み、湯気でブヨブヨになるまで眺めていたものです。

そして82年の3月、まさに入学祝いにうってつけのタイミングで、ヤマハからこのシンセが登場します。

当時の価格で3万2千円。
パラメーターは至ってシンプルで、おそらくシンセ初のミニ鍵盤を採用したコンパクトな筐体でしたが、ストラップをつければギター感覚で演奏できました。
ピッチベンドとモジュレーションホイールが左上という妙なところに配置されているのは、ショルダーキーボードとして使うのを想定してのことのでしょう。

この時期はポータサウンドだの、ジャイアント馬場の「僕にも弾けた」でおなじみPC-100だのとヤマハの電子楽器がことごとく当たっており、CS01もその戦略の延長線上にあるシンセでした。

実は僕が買おうと思ったのもこのCS01でした。が、翌83年のお正月、お年玉を握りしめて楽器店に行ったところ、同行してきた母が「後悔しないように」とお金を2万円ほど上乗せして買えたのがSH-101でした。

SH-101の特徴

Roland.comより

価格は59,800円と廉価シンセの部類に入る入門機です。フロントパネルは樹脂製で高級感はありませんが、リアパネルは金属製で、意外とズシっときます。

パラメーター構成は前述の入門モデルSH-09に酷似していて、1VCO-1VCF-1ENVと至ってシンプルでした。

VCOにはProphet-5にも使われているカーティス製のチップが使われており、抜けの良い波形が特徴。
あまりにもピッチが安定しているため、DCO疑惑が囁かれたほどでした。

さらにソースミキサーではノコギリ波と矩形波(PWM)、サブオシレーターとホワイトノイズの4波形がミックスできました。
とは言え、どの波形もピッチがジャストのため、厚いサウンドとは程遠かったわけですが、サブオシレーターで2オクターブ下の矩形波を重ねて中低域を弾くと、かなり太い音色になります。

モジュレーションの波形には珍しくノイズがあり、VCOに軽くブレンドすると、ベース向きの粗い波形を作ることができました。
クラブミュージックでの再評価も手伝って派手な音しか鳴らないと思われがちですが、VCFにも独特のスロープがあり、設定次第でくすんだ病的な音色も出せました。

加えてSH-101には最大100音のステップシーケンサーと、アルペジエイターが搭載されており、お金のない厨房にとってはたまらない機能でした。
まだMC-202もなかったので、シーケンサーと言えば本機よりも高いくせにステップ数の少ない機種しかなかったのです。

また特筆すべきは、外部クロック音でアルペジオやシーケンスを同期できるEXT CLK IN端子。
近年のKORG volcaシリーズやAIRA Compactなどともシンク演奏ができます。
僕はカセットMTRに101のゲート信号を録音し、この端子へ戻すことで同期録音に使用していました。

お金のみならず作曲の才能もない僕は、適当に鳴らしたシーケンスから、どのジャンルにも当てはまらない珍曲を何十も作ることができたのです。

デジタルへの改宗と後悔

このSH-101は2000年代にコルグからmonotonが発売されるまで、国内大手メーカー品としては最後のアナログモノフォニックシンセとなってしまいました(厳密には翌年発売のMC-202となりますが)。

83年の夏になると、ヤマハDX7やらローランドJUNO-106やらコルグPOLY800やら、各メーカーから安いポリフォニックシンセが続々と発売され、またそれらを友人が次々と入手しました。

さらに、これらのシンセには全て、世界初の統一規格となるMIDIが搭載されていました。当時の感覚として、SH-101は強烈なまでに乗り遅れ感を抱くマシンだったわけですね。
これはもう覆しようのない話でして、僕も高校1年になった85年、ヤマハのDX21でデジタルシンセユーザーに翻ることになりました。

しかし、当時最先端のデジタルかつポリフォニック、そして将来を約束されたMIDIというトレンドを手にしても、どこか心の底から喜べない自分がいました。

曲を作ろうという気がどうにも起こらなかったのです。すぐに使えるシーケンサーやアルペジエイターの存在が大きかったことに気づきました。
DX21の購入資金を作るため、SH-101を手放したことをしばらく後悔しておりました。

それが払拭できたのは、88年にコルグのM1を買ってからのことでした。

突然注目の機種に

90年代に入る頃、SH-101はTR-808やTB-303と並び、突如ビンテージシンセの仲間入りをします。その価値を再発見したのは、クラブミュージックの作り手たちでした。

デジタルシンセ全盛にあって、ノブが前面にあってリアルタイムで音色をコントロールできる、アナログならではの良さに気づいた世代が登場したのです。

最近のアナログ(VA含む)シンセには、アルペジエイターやシーケンサーがデフォルトと言っていいほど搭載されていますが、その元祖がSH-101だったわけです。

ちなみに僕が本機を所有していた頃、アナログシンセの遊び方は、サウンドチャートに代表されるように「○○の音」をセッティングして鳴らすのが王道でした。

今みたいにシーケンスやアルペジオを走らせながらカットオフを弄るとか、ディストーションを通して歪ませるとか、そんな文化はアマチュアレベルではほとんど皆無だったはずです。
これ、結構重要なポイントだと思うんですけどね。

その意味で90年代以降の再評価は、当時のオーナーにとって、相当に目からウロコだったわけです。

今後ビンテージ物を買おうと考えている方は、かつて所有していた人のコメントはアテにしない方が良いと、謹んで進言させていただきます。

SH-101との再会

ちなみにSH-101実機とは、2012年に担当していたラジオ番組で再会しました。
ディレクターがネットオークションから落札してきたのです。
(バナーはスタジオでの画像)

27年ぶりのSH-101からは、相変わらず真っ直ぐで明るい音がしました。自分も落札しようとまでは思わなかったにせよ、いいシンセだなと改めて見直しました。

SH-101のオーバーレイを付けた図

そして2014年に購入したローランドのVAシンセSYSTEM-1の特典として、SH-101のPLUG OUT版をインストールしました。
簡単に言えば、SYSTEM-1がPCを通じてSH-101としても使えることになったわけです。
現在はRoland Cloudに置かれており、後継機種SYSTEM-8にもPLUG OUTできます。

VAとは言え、回路レベルから設計されたACBテクノロジーによるPLUG OUT版は記憶のままの音で、無論モノフォニックです。

ノイズモジュレーションもしっかり再現されていますが、VCFに独立してエンベロープが搭載されたり、リバーブとディレイが付いてさらに細やかな音作りができるようになりました。

オプション設定により、限定モデルの赤と青のカラーを選ぶこともできます。

何度も甦る101

そしてこの後2023年に至るまで、なんと5度の復活を遂げています。
お前はゾンビか。

まず2017年には、Boutiqueシリーズのラインナップとして小型化の上単体のハードとして復刻。
こちらもPLUG OUT版同様ACB音源ですが、なんと4音ポリ化されました。
さらに当時と同じくシーケンサー(100音!)とアルペジエイターまで完全再現されています。

さらに2019年には、Rolandが全機種に採用した新音源”Zen-Core”によるビンテージ音源の復刻が行われました。
そのフラッグシップ機JUPITER-X/Xmのモデル音源のひとつとしてSH-101が搭載されています。

この機種では単に「SH」と表記されています。
SHシリーズには国産シンセ第1号のSH-1000、3、5、7、1、2、09、32、01(GAIA)など、キャラクターの違う機種もあるのに、いつの間にか101がシリーズを代表する機種になっていて、かつてのユーザーとしては不思議な気分となります。

2020年には、プラグインシンセ”ZENOLOGY”のModel Expansion(特定のシンセの復刻版)のひとつとして、SH-101が登場。
2023年に発売されたVAシンセGAIA 2にプリインストールされているのもこちらです。

こちらも波形の明るさやフィルターの特性はよく再現されています。
ポリフォニック仕様となり、PLUG OUT版よりCPUへの負荷が軽減されているようですが、聴き比べると結構音質に差があり、この辺りは用途で使い分ける感じなのかなと思います。

権藤権藤雨権藤

そして2023年には、デスクトップシンセサイザーSH-4dのオシレーターモデルのひとつとしてSH-101が搭載されます。

SHの中にSHが入るというややこしいことになっていますが、こちらもSH-01A同様にポリフォニックでの演奏が可能、しかも最大60音まで鳴らせます。

ちなみにフィルターはACBともZen-Coreとも違い独自に開発されたそうで、101そのものを復刻したものではありません。
オシレーターモデルはPCMやJUNO-106など11種ありますが、聴き比べると改めてSH-101のプリミティブな魅力を再認識させられます。

さらに5月には、AIRA Compactの一台、S-1として蘇ってしまいました。
権藤権藤雨権藤というか、往年の香取というか、連戦連投で監督批判が起こりそうな勢いです。

こちらも音源はACBということでキレのいいサウンドが特徴。
シーケンサー(64音)、アルペジエイターに加え、4音ポリ。
新機能として波形カスタマイズ、内蔵エフェクト(リバーブ、ディレイ、コーラス)、SH-4dで搭載されたD-Motionまで装備され、SH-01Aのような完全復刻というより、上位互換モデルの感があります。
それで本体価格が2万円を切るんですから、すごい時代てす。

発売から40年。
整いすぎたピッチ、シンプルなレイアウト、軽い筐体などビンテージ感に乏しい本機ですが、逆にそのことでVAで復活しても抵抗感なく受け入れられるのが、SH-101の魅力かもしれません。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。