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切れ味の悪いデジタルの話。

僕の界隈で「デジタル音声広告」という言葉が飛び交った時期がありました。
過去形で書きましたけど、結構最近のハナシではありますし、「ラジオ景気いいらしいがね」と名古屋弁で近寄ってくる事情不通な方も、まだいたりします。

このところラジオ業界では、2大トピックとして「デジタル化」「FM転換」が語られています。

後者については多大なる誤解をしている人もまだいて、説明もめんどくさいので稿を改めますが、「デジタル化」については、別にテレビの地デジ化みたいに「デジタルラジオやるぞー」なんてことじゃありません。
もう過去のハナシになったんですけどね、デジタルラジオ。

ま、つまるところポッドキャストがその正体だったりします。

ポッドキャストと言えば、AppleのiTunes日本版がサービスを開始した2005年から翌年辺りをピークに、業界で盛り上がったことがありました。

まだradikoもなく、放送局としては「なんとか番組をネットコンテンツにしたい」「エリア外にも広げたい」という期待感を込めた展開だったと思います。

しかし当時はダウンロード数以外のアナリティクスもなく、ビジネスに繋がりにくいものでした。
当時はTwitterのような拡散ツールもなかったので、知名度の高いキー局の番組はそれなりにアクセスが多かったようですが、ローカル局の番組は、ラジオ好きがたまに一杯ひっかけるための珍味のような存在でした。

何より既成楽曲が使えないので、編集にも手間がかかり、労多くしてナントカということで、地方局が手を引き始め、2010年頃にはすっかり下火になってしまいました。

その下火が10年経ってまた燃え盛ってきたのです。
いったい何があったのでしょう?

最近ではポッドキャストの配信先も、大本営Apple Podcast以外にSpotify、Amazon Music、Google Podcastなど多岐に渡っています。
かつてファイルの置き場=サーバー問題もありましたが、今は配信のためのプラットフォームサービスもあり、わりとハードルは下がっています。
告知の方法も、X(旧Twitter)などさまざまなネットツールが使えます。

それに加えて「この数年アメリカではポッドキャストの人気が沸騰してるらしい」との噂も上陸していたのです。
なんでもポッドキャストに音声広告が付いたとか、収益がうなぎのぼり、英語で言えばイールズ・クライム・アップとか、それマジすかと。

そして2020年には日本でこんな予測がリリースされました。

5年で25倍以上に成長だと?
なんだ、この景気のいいハナシは。

そして2021年頃からこの指標があちこちに転載され、ラジオが生き残るには「デジタル音声広告」を獲りに行くしかない、というムードがプンプンと漂ってまいりました。
僕のところにも「トゥゲザーしようぜ」とルー大柴さんみたいな人が何人も来ました。

これ以外にも、この予測グラフを貼り付けたネット記事が多数放流されました。
ラジオ好きなら、この3年間に一度は目にしたかもしれません。

ただ、僕は賭け事が好きじゃありませんし、得意でもありません。
だからそれなりに実証データが欲しくなります。
イマドキならエビデンスというやつですかね。
それで電通『日本の広告費』に目を通したんですよね。

ラジオ由来のデジタル広告は2020年で11億、2021年で14億、2022年で22億円です。
確かに成長はしてるけれども…あの予測では2022年に145億なんですよね。
ちなみに同年のラジオ広告費は1,129億円と前年より微増です。

う、うーむ…フリーズするしかありません。

ここで「なぜ日本のデジタル音声広告は伸びないのか」「予測はどこを間違っていたのか?」を検証するつもりはありません。
ぶっちゃけ、アメリカでの音声広告の実態だって眉ツバではあります。

アメリカが成功しようとしまいと、日本の市場にカネが落ちないということはそういうことだ、としか言いようがありません。
少なくとも放送局が何かを頑張れば結果が出るハナシじゃないのは確かです。

つか、根拠のないたったひとつの未来予想図で、ただでさえ足りない現場を右往左往させちゃうのはいかがなものかと思うんですよね。

いずれにしても、カネを稼ぐためにポッドキャストに乗り出すのは、虚しさいっぱいの流れかなと思います。

収入が得られないのであれば、やはり手間のかかる物をいつまで続けるんだということで、前回のような「そっ閉じ案件」になってしまいます。

これではあまりにも希望がないので、ひとまずこんな使い方はいかがでしょう、という前向きなハナシは書いておきます。

ポッドキャストを聴くのは基本的に無料です。
radikoプレミアム会員になる必要もありません。

だから送り手としては、全国各地にリスナーを増やすことはもちろんのこと、その番組イベントに各地からファンに来てもらって、何らかのマネタイズはできるかもしれない、という期待感は持てるかもしれませんよと…かもしれすいません、ゴニョゴニョ書くしかないんですよね。

特にローカルラジオについては、僕も日頃「この局でないと聴けないものを作りなさい」と言ったり書いたり酒の力で力説してるので、価値ある番組であれば、エリア関係なく全国を相手にしても構わないと思ってます。
問題はマネタイズをイベントの入場料にするのか、有料配信にするのか、グッズ収入にするのか。
それぞれ事情があるので、まあその先は各自考えてくださいと。

あとは…うーん…えーとごめんなさい浮かぶのはそのくらいかなあと。
ま、何かあるとは思うんだけどね。
あるはずなんだけどね、うーん…

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。