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「古代の朱」松田壽男

古代〜中世日本における水銀の利用と、それを巡る祭祀をフィールドワークを中心に描き出した、この分野の先駆的試みで1970年代の研究、その抄本で、文庫本でも刊行されています。

現代に生きる我々は水銀が猛毒であることを知識として教えられていますが、その「金属であり液体にもなる」という不思議な性質から、古代世界においては呪術的な使われ方をしていた、ということもよく知られています。

本書が「古代の朱」というタイトルなのは、そうした水銀の用途が朱色の塗料の生成を中心としていたことに由来します。

水銀を朱色塗料の材料として使い始めたのは日本では縄文晩期にあたり、木製品や土器に彩色したものが出土しています。面白いことに、「ベンガラ」という酸化鉄を材料とした赤色とは区別されていたらしく、赤色の発色の差ゆえか、それとも金属の性質自体が尊ばれたのか、水銀がより珍重されていたような使われ方をしています。

そうした希少価値からか、のちには祭祀の対象となり、紀の国には「丹生都比売」という水銀の神様が祀られています。この神様は高野山の守護神でもあるようです。

即身成仏の修行として、「水銀の含有量の多い土地の作物をとり続けることで腐食を防ぐ体を作り、ミイラ化する」という理論が本書では展開されていますが、内藤正敏さんなんかは「いくらなんでもそりゃ無茶だ」と言っていましたので、まあ自身山伏の修行もされている内藤さんがそう言うならそうなんでしょう。

と、偏執狂的なまでのフィールドワークを積み重ねた著者ならではの、若干高めのテンションと名調子で書かれた本書は、読み進めるほどに引き込まれて、文字数としてもそんなに多くはないのですぐに読み終わります。しかし内容が薄いということでは決してなく、「古代史における水銀の利用とその祭祀」というテーマで抑えておくべきことが集約されています。水銀以外のことは書いていませんが、方法論と視野は他の資源や分野にも活かすことができるのではないでしょうか。

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