世紀の空売り-世界経済の破綻に賭けた男たち-

アメリカのサブプライムローン問題(日本だとリーマンショック)について、問題を早くから認識しそれを利用して大金を儲けた人たちのノンフィクション作品。著者のマイケル・ルイスさん自体も元米国大手金融機関で働いていた経歴を持つ。本作品は映画にもなっている。自分は映画を見て面白かったのでこちらを読んでみた。(結果映画より面白かった)ただ難しい金融用語などもよく出てくるので理解するにはいちいち調べることも求められる。そういう意味ではあまりお勧めできない本かもしれないが、それでも全くの素人がネットで単語調べれば読めるし、そんな手間暇惜しまないほど面白い内容である。

ノンフィクション作品だが、登場人物が面白い。事実は小説より奇なりといったところである。著者(訳者)の表現も秀逸である。主人公のひとりであるアイズマンについて「人の機嫌を損ねる才能に恵まれている」とか「献金するときでさえひと悶着おこさずにはいられない」とか。向こう独特の言い回しのいい雰囲気がなんとなく伝わってくる。

話の本筋として注目したのは大手金融機関が顧客をだましていたということよりも、そもそも自分がなにをやっているのかわかってないということがしきりに強調されていることであった。しかも上に行けば行くほど、大手金融機関のCEOやSEC、FRBなどほどわかっていないというのは、読んでいて悲しい気持ち、どうしょうもないじゃん、と安堵感、わかってないのはみんな一緒なんだな、が混ざってこみあげてくる。タイトルから大儲けする痛快サクセスストーリーのような内容だと思われる人もいるかもしれないが、金融システム、もっと広く現代社会、について考えさせられるような内容である。また登場人物の内面的な葛藤も織り交ざって、非常に重層的な物語のように感じられる。

住宅ローン債権は一定程度債務不履行(例えば4%)が発生するが、そのような債権をたくさんまとめて債権の束としたとき、債務不履行になる可能性の高い分のお金(4%債務不履行がおこったときお金)を用意しておけば、あとの96%は絶対帰ってくるから安全と評価できるよねっていう発想から始まっている。これならお金を貸す側の人は債権の束を譲渡することで債務不履行リスクから逃れられるので、より低利でお金を貸すことができる。(これがCDO)アイデア自体は素晴らしいと思った。ただこれが最終的にはどうせ自分のリスクは誰かに売りつけられるからということで最初から返せもしない人に金を貸す業者が横行し、4%が40%とかになって破綻するというものである。債権の束の購入者がこれを見抜けないのである。主人公たちは実際の貸し倒れの率や融資の現場などを見て回り、いかに杜撰なことになっていか、はた目からみて安全とされている債権にいかにくず債権が含まれているかを見抜き、債務不履行になった場合に儲かる仕組みを作るというものである。空売りというが株などの空売りとは違い債権に保険をかけることで債務不履行になったときに保険金が支払われるという手法を編み出す。(これがCDS)きっかけのずさんな融資というものは日本のバブルと似ているように感じた(日本の場合はこんな素晴らしいアイデアはなかったようで、単に土地や株が上がるとみんな思っていたという単純明快な愚かさによるものであるようだが)よく日本と米国で金融リテラシーの差などが言われたりするが別にアメリカ人が優れているわけではないんだと思った。日本よりたちが悪いのは移民みたいなよく英語が読めない人をターゲットにしている部分があるところだろう。

今となってはずいぶん昔のノンフィクション作品であるが、絶対安全といわれているものに実はリスクが含まれているということは、インデックスによる運用がもてはやされている今こそ読む価値があるかもしれな。インデックスファンドが設立されて50年くらいしか経っていないのである。アメリカの不動産は50年間一度も下落しなかったのである(一応言っておくと自身はインデックス運用の危険性を見つけていないし、比較的安全であるという意見を信じてはいる。もし危険性について知っている人がいたら教えてほしい)

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