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5月のShhh - 「ひとり」を見る

Shhhの定例会で共有された「静謐で、美しいもの」を、月ごとに編集・公開する企画「Shhhで話題になった美しいものの数々」。

「‘わたし’的なもの」「関係性の深さと移ろい」と特集が続いてきました。今回ピックアップした作品全体に通じるのは、「ひとり」に目を向け、隣に座って耳を澄ますように心を寄せることの重要性。

今月もどうぞお楽しみください。そして、共感したりおすすめがありましたら、末尾にてコメントいただけるとうれしいです。

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理不尽さが織りなす現実の行方

🎥 映画『海辺の彼女たち』/脚本・監督・編集=藤元明緒, 2020, 日本・ベトナム共同

技能実習生として来日した3人のベトナム人女性たちの現実を写し取る物語。彼女たちはベトナムで活躍するモデルや俳優でありながら、本名と同じ役名で息衝きスクリーンに映され続けている。フィクションながら極力脚色が抑えられたその誠実さは、「リアル」を通り越し、観るものを「4人目の彼女」として、あなたならどうこの現実を捉え、どう彼女たちに寄り添うか?を正面から問いかける。

映画制作者たちの、「彼女たち」が確実にそこにいるということを理解しようとする目線やその実直な姿勢、そこにかすかだが確かな希望を感じた。フィクションを通じて、現実を観るための作品。

📕 書籍『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』/著=ブレイディみかこ, 2019, 新潮社

英国ブライトンで保育士として働くなかで出会った「最底辺保育所」での階級格差、自身の子どもが困難で複雑な社会にぶつかっていく様を、肌身に感じながら悩み乗り越える日々を描いたエッセイ・ドキュメンタリー。理不尽で暴力的な社会にぶち当たっても、子どもは大人をさしおき柔軟に「いまできることをとりあえず」と果敢に向かっていく。

人種、ジェンダー、貧富の差など、日本より明確に顕になっている現実を目の前に、ひとたび子どもたちへ目を向ければ、自分のような悲観的な大人でも、未来へのポジティブな感覚をもつことができる。なんて子どもたちはしなやかなんだろう! 大人である自分がまずは子どもを信じること、きっとそこからなのだろうと思いを新たにした。

「ひとり」に寄せる想像力

📙 漫画『大奥』(全19巻)/著者=よしながふみ, 2004〜2021, 白泉社

徳川三代目将軍・家光の時代に、男子のみを襲う疫病によって男子の数が激減し、女子が政(まつりごと)を担うという時代劇ファンタジー漫画。

20年近く前の連載開始当時を想像すると、今のパンデミックの発生なんて想像もつかなかったし、ジェンダーへの問題意識も気配すらなかった。なのに、この作品ではまさに「今の問題」が全て描かれ切っている。作中では、ジェンダーだけでなくセクシャリティや障害などあらゆる「違い」が登場する。しかし、その一つひとつの立場には必ず両面から描かれる誠実さがある。その「ひとり」に寄せる想像力と優しさに、毎エピソードごと涙せずにはいられない。

一つのフィクションが、今の時代を通り越し、ワクチンがつくられコロナが克服された先の、あらゆるちがいを超えた未来のあるべき社会像を照射する。よしながふみという一人の天才へただただ感謝の意を抱いた。僕らはこの物語を抱え、未来へバトンを渡していかないといけない。

📕 書籍『ジーノの家』/著者=内田洋子, 2013, 文春文庫

イタリアで生きて30年。数々のエッセイを発表してきた著者の、イタリアでの生活の中での出会いや体験を綴った一冊。

舞台は、ミラノを中心にリグリア、ピアチェンツェ、ポッジ、ナポリ、シチリアとイタリア全土に渡る。階級社会や抑圧された暮らしの中でも、その土地に根を張り懸命に生きてきた人たちの人生が描かれ、一人ひとりの喜びと、怒りと、寂しさが淡々と、しかし実に滋味深く展開される。

「イタリア人」ではなく「個人」が描かれたそれぞれのドラマティックなエピソードの書きぶりには、人に対峙するマナーとして過度に面白がる心を抑えこんだ、ジャーナリストを本業とする著者だからこその節度の強さを感じた。

🎥 映画『FAREWELL AMOR』/監督=Ekwa Msangi, 2020, アメリカ

アメリカ移民としてニューヨークへ移住するアンゴラ人家族の物語。タンザニア系アメリカ人の監督による作品で、自らの移民としての経験を投影した物語はサンダンス映画祭など各国の映画祭で受賞・上映されている。

移民の、家族の、アンゴラの……といった大きな単位で物語を描くことは、時に一人ひとりの姿を見えなくする。しかしこの作品は、父親には父親の、母親には母親の、娘には娘の、それぞれの孤独と、それぞれの闘いが描かれている。

映画の構成としてもそれぞれの視点から展開されるつくりが印象的。それから映画後半のダンスシーンのかっこよさは必見。

今月の植物

「グレヴィレア ロビンゴードン」/原産=オーストラリア

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ピンと飛び出した花柱と羽のような繊細な葉が造形的にも魅力的なグレヴィレア。花が咲くと蜜が地面に滴るほど溢れでます。オーストラリアではその蜜を鳥やポッサムなどの小動物が食べに来るそうですが、ウチでは小学生の子どもたちが蜜を吸いに集まってきます。

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以上、5月にShhhで話題になった「静謐で、美しいもの」でした。

編集 = 原口さとみ

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