WBSがプロジェクトのスタートを支える。プロマネの奥深さを桃太郎で考える。
プロマネの観点から見ると無計画&無鉄砲にしか見えない桃太郎の鬼退治。これを「鬼退治プロジェクト」と捉えてみたとき成功の鍵はどこにあったのか。桃太郎を題材に単純なようで実は奥深いWBSについて考えてみたいと思います。
WBS作成はPM(プロジェクトマネージャー)の仕事においてプロジェクト序盤の最も重要な仕事だと思います。WBSを作り「スコープの分解」や「疑問点の洗いだし」をすることで各タスクを見える化し、それぞれの担当者や進捗状況をプロジェクトメンバー全員が分かるようにしていきます。私も10年以上プロジェクトごとに毎回WBSを作っていますが、今でも作るたびに悩ましさと、新しい発見があります。どの程度の情報の粒度が適切か、どの程度の構造化が分かりやすいのか、、、WBSは単純だけど意外と奥が深いぞ。
どうすればもっと「良いWBS」を作れるか。そもそも「良いWBS」って何だろうと、試行錯誤するなかで私たちは「良いWBS」とはプロジェクトにおけるグレーゾーンをなくすものではないかと考えるようになりました。つまりWBSを見れば「あー、そこ考えとかなきゃだね」がうまれるもの。それはどのようなWBSだろうか。ここから「桃太郎」のWBSを作りながら考えていきます。
1. スコープを書き出す
最初に行うことは、桃太郎が「鬼退治に行くと決心してから鬼ヶ島につくまで」にどのような「スコープ」があるかを大まかに書きだすことです。(ここでは桃太郎が「鬼退治に行くと決心してから鬼ヶ島につくまで」の出発フェーズを取り上げます。なお桃太郎の話は福音館書店から出版されている「ももたろう (日本傑作絵本シリーズ)」を基にしています。1965年発売!)
スコープというよりもステップといっても良いかもしれません。試しに書き出してみると下記のようになりました。大きく5つのステップですね。
2. スコープをタスクに分解する
次に上記5つのスコープ内に含まれている「タスク」を洗い出し、担当者を割り振ります。タスクというよりもアクションといってもよいかもしれません。「誰が何をするか」ですね。こちらも書き出していくと下記のようになりました。
WBSを一覧表としても作成してみました。実際のプロジェクトでは進捗率とガントチャートを一緒にして管理することが多いですね。
3. 疑問点を洗い出す
こうしてタスクを書き出してみると「船はどうやって手に入れるのか」「犬、猿、キジはそもそもどうして、きびだんご1つで生命をかけてまで鬼退治へお供する仲間になるのか」「鬼ヶ島の偵察は誰がするのか」など、アサインや調達における課題、そもそもの目的の不明点など様々な疑問が浮かびます。プロジェクト序盤で疑問点を細かく洗い出すことは、早い段階でグレーゾーンをなくすことにつながります。(私はPMの力量はこのWBSを基にした疑問点をどれくらい洗いだせるかで見ることができると思います。)
疑問点を洗いだすことで物語(またはRFPや要件定義書)には直接書かれていない重要事項を見つけることもできます。例えば「犬、猿、キジはそもそもどうして、きびだんご1つで生命をかけてまで仲間になるのか」という疑問に対して、桃太郎本紙で「きびだんご」が登場する際の表記が常に「にっぽんいちのきびだんご」と品質付きで明記されていることが気になります。きっと、このきびだんごは犬、猿、キジに「これが食べられるなら生命をかけてまで鬼退治へお供したい」と思わせる垂涎もののヤバい一品。すなわち、それは「にっぽんいち」の品質でなければならないからだろうと推測できます。
そうなると、きびだんごを作る「おばあさん」の重要性が浮かび上がります。にっぽんいちの品質のきびだんごを作り出せるおばあさんなくしては、
犬、猿、キジも仲間にできず、ましてや鬼も退治することができないでしょう。この「鬼退治プロジェクト」において、キーパーソンは実は「おばあさん」であることが仮説立てできます。
「おばあさんがにっぽんいちのきびだんごを確実に作れること」を押さえれば、この鬼退治プロジェクト他はきっと何とかなるでしょう。反対に「今おばあさん忙しいから隣の家のおばあさんに頼むわ」と、致命的なアサインのミスをしてしまえばプロジェクトの成功はかなり難しくなることでしょう。
●WBSはスケジュールも予算も守ってくれる
こうしてWBSを作成し、スコープをタスクに分解し、疑問点を洗い出すことで、プロジェクト全体のキータスク、キーパーソン、そしてリスクも見えてきます。桃太郎では進行が予め分かっているため「スコープをタスクに分解すること」は簡単にできました。
しかし実際のプロジェクトでPMがWBSを作る際に苦労する点として、デザインや開発などの「スコープをタスクへ分解」ができないということがよくあります。例えばWebデザインを制作する際は下記のようにスコープを分解できます。
しかし上記のような分解ができずに、下記のように書かれたWBSを見ることもよくあります。
こうなると「Webデザイン制作」というスコープに、実際にどのようなタスクが含まれていて、どのような知識・経験が必要かは手を動かすデザイナー以外には分からずブラックボックスとなってしまいます。そのため作業量を低く見積もられスケジュールの短期化や予算の低下につながる可能性が高まります。スコープが上手く分解できないときは、担当するデザイナーやエンジニアに見てもらったり、聞いたりするのが一番ですね。
●WBSはグレーゾーンをなくすこと
桃太郎では昔話という性質上、曖昧な箇所が多くグレーゾーンもたくさんあります。しかし私の経験では実際のプロジェクトも桃太郎に負けず劣らず曖昧な箇所が多くグレーゾーンが広がっていることが多い印象です。「PMの仕事でWBS作成がプロジェクト序盤の最も重要な仕事」と言うのも、この曖昧なグレーゾーンをなくしていけるからですね。
グレーゾーンをなくすことができる良いWBSをつくること。そのためにPMができることをおさらいすると次のようになります。
スコープをタスク化し担当者を割り振るだけではWBSはまだ50%の完成度です。そこから疑問点の洗い出し、キーとなる要素の仮説立てまで行ってWBSは完成します。特に上記の3. 4. についてはPM1人で行うのではなく、デザイナーやエンジニアも交えてプロジェクトメンバー全員でふせんに書き出したり、ディスカッションしたりすることでWBSのクオリティはグッと上がります。
「良いWBSはグレーゾーンをなくすこと」と書きましたが、グレーゾーンをなくすことは「良いチームをつくること」へ、そして良いチームをつくることは「良いプロジェクトをつくること」へとつながりますね。
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