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6月のShhh - コレクティブから生まれる創造性

シスターフッド、ブラザーフッド、フレンドシップ、メンバーシップ。人と人が心を寄せ合い、連帯すれば、創造性と勇気をもって前に未来に進みつづけることができる。

今回ピックアップした作品に通じるのは、そんな連帯やコレクティブ(有機的に形成された集団)のもつ力だったように思います。

Shhhの定例会で共有された「静謐で、美しいもの」を、月ごとに編集・公開する企画「Shhhで話題になった美しいものの数々」。今月もどうぞお楽しみください。

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更新しつづける知性

🎥 映画『アメリカ・ユートピア』/監督=スパイク・リー、出演=デイヴィッド・バーン、2020、アメリカ

元トーキングヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンのアルバム『アメリカン・ユートピア』のワールドツアーをブロードウェイのショーに仕立て、その舞台を記録した映画。

ミディアムグレーのスーツ、裸足、楽器は全てワイヤレスというミニマルな舞台演出のなか、次々に繰り広げられるコンサートではなく「ショー」としての演出、「アメリカ」の歴史性を暗示する多国籍なマーチング・バンドの編成、そしてカメラ越しだからできるステージへの目線の導き方。今の時代に、音楽、アメリカ、そして年齢の重ね方へこんなアップデートの姿があるなんて!

テクノロジーとアイデア。知性とユーモア。他者への尊重と連帯への呼びかけ。若き頃には“文化の盗用”などと批評されたデイヴィッド・バーンが、67歳にして、真正面から「人類が目指すユートピア」の姿をステージとして体現する光景を目にし、最後は涙が止まらなかった。

そしてステージ後の、自転車に乗ってさらっとハコから帰る後ろ姿のカッコよさよ! 「老いること」に対してこんなポジティブな気持ちになり、未来へ勇気をもらえたことはなかった。

しょうもなさに覚える人間の愛おしさ

🎥 映画『逃げた女』/監督・脚本・編集・音楽=ホン・サンス、2020、韓国

5人の女性の連帯(シスターフッド)を通して、愛や結婚、人生について詩情豊かに描いた作品。「愛する人とは何があっても一緒にいるべき」という夫の言葉を、自分に言い聞かせるように繰り返す主人公の変化に見る、社会で起きていることのリアリティ。

人間が持つしょうもない部分を登場人物たちの対話からシンプルに描き出すホン・サンス監督の作品は、近年より肩の力がぬけつつ、フェミニズムへと接近しながら最高作を毎回更新しつづけていている。

本作ではその「しょうもない男ども」を限りなく不在にし、その分「女たち」に焦点が合うことで立ち上がってくる、女性たちの連帯への示唆が清々しかった。男が不在というだけで、こうも彼女たちがいる場は安心感と連帯感に包まれるものなのか。それは同時に男にとっての居心地の悪さであると共に、いかに男の存在が社会の中で権力構造として組み込まれたものであるか?を鮮やかに伝えている。ホン・サンス監督はリアルタイムで作品を観つづけられることの嬉しさを覚える作家の一人。

🎥 映画『コレクションする女』/監督=エリック・ロメール、1967、フランス

恋人の誘いも断り、バカンスは仕事も何もかも忘れオフになろうと友人の別荘に滞在するなかで、出会った少女に振り回される主人公。南仏の色鮮やかな景色のなか、自由奔放な少女に振り回される男たちの姿がおかしみを誘う、ロメールの「六つの教訓物語」シリーズの第4作。

本作は、男の「身勝手な願望妄想傾向」と「女性に対して高を括り、勝手に決め付ける独り相撲具合」を、馬鹿にするでもなく自嘲するでもなく淡々と描ききる、ロメール先生の人生の達観ぶりが現れている好きな作品の一つ。

想像だが、ロメールには「人間が、一番おもしろい」さらに言うと「特に、男と女の関係であぶり出される人間が一番おもしろい」という人間への好奇心と、観察欲・描画欲が強い作家なのでないか?と観るたびにいつも思う。ロメールを好きになる一番の理由はそこにありそうだ。

集うことで生まれるもの

🎥 映画『へんしんっ!』/監督・企画・編集=石田智哉、2020、日本

「しょうがい者の表現活動の可能性」を探ろうと取材を始めた、電動車椅子を使って生活する石田智哉監督。全盲の俳優、ろうの手話表現者の育成にも力を入れているパフォーマーなど、多様な「ちがい」を橋渡しする人たちを訪ねるなかで、監督自身が、観る者が「へんしん」していく、新しい観賞体験をもたらすドキュメンタリー映画。

映像と音声、そこに「日本語字幕」と「音声ガイド」が同時に流れつづける「オープン上映」なる在り方からして、冒頭からワクワクが止まらない。このドキュメンタリー作品は、これまで表現の世界で見過ごされてきたマイノリティの存在の中に、巨大な表現の可能性が詰まっていることを教えてくれる。

「これは絶対おもしろいものが生まれるはず!」という予感が確信に変わってゆく、さまざまな「ちがい」をもつ人同士が出会っていく『七人の侍』的な集合の展開と、その結果生まれるダンス表現に全身がざわついた。これからの新しい時代を告げる象徴のような作品。ぜひ多くの人に体験してほしい。

📕 書籍『ホエール・トーク』/著=クリス・クラッチャー、訳=金原瑞人・西田登、2004、青山出版社(絶版)

プールのないアメリカのある高校で、個性豊かなメンバーが集い水泳部をつくり、記録を打ち立てていく青春小説。

白人至上主義、男性中心主義的にまみれた体育会系マジョリティから外れた、あらゆる「ちがい」を携えたメンバーたちが、上記の映画『へんしんっ!』のごとく、一人またひとりと集い連帯していく過程から、期待感と痛快感は止まらない。

が、物語は単純な逆転劇の痛快さだけのものではない。凸凹さゆえ各自が奥底に抱えてきた心の痛みと、アメリカ社会がもつ銃や暴力の問題の深刻さには、単純に物語として消費できない胸の苦しさが隣り合わせにある。だからこそ登場人物たちは連帯し、その連帯によって自分の人生を肯定し前向きに生きることを学んでいく。物語の痛快さとやさしさで、自分の抱えるあらゆるマイノリティ性を包みながら前を向いて歩くことの可能性を伝える素晴らしい本!

今月の音楽

『Um Jeito De Fazer Samba』/Eduardo Gudin, 2007

「夏の楽しみ」というとアウトドアはそんなに好きじゃないので、クーラーの聞いた部屋で冷たい麦茶を飲みながらエドゥアルド・グヂンの音楽を聞くことを真っ先に思い浮かべる。優美なメロディとゆるいギターに透明感あふれる女性ボーカルのコーラスは、いつ聞いても涼しく軽やかで体感気温を2℃くらい下げてくれる。アルバム通して名曲揃いだけど、中でも「1. Um Jeito De Fazer Samba」(A way of doing Samba) のミネラル含有率の高い湧き水のようなイントロや「4. Boa Mare」(Good Morning) のよく晴れた高原の朝のような爽やかさ。10年以上聞いているけど、いつでも本当に気持ちいい。

今月の植物

「ジャボチカバ」/原産=ブラジル南部

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幹に濃紫色の実が鈴なりにつくその姿から日本では「樹葡萄(木ぶどう)」とも呼ばれるブラジル原産のジャボチカバ。元VICEの編集者アダム・リース・ゴウルナーの著書『フルーツハンター』によると、ブラジルでは幹についている実を、手を使わずに、口を近づけ直接食べる風習があり、それを「ジャボチカバ・キッス」と呼ぶらしい。ウチでは実がなるのが根本に近い樹の下のほうだけなので、甘酸っぱいと噂のジャボチカバ・キッスはまだ叶っていない。

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以上、6月にShhhで話題になった「静謐で、美しいもの」でした。

編集 = 原口さとみ



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