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サレ妻、逢いたくて震える?

シルクのパジャマに着替えてソファに座る。ため息をした後、今宵もルーティンが始まる。
机の上に写真を扇型に並べてほくそ笑む私。

これからゲームが始まるのだ。
そう、どの不倫相手の家に乗り込むのか決めるのだ。
カードをバラバラにしてそこから一枚引く。
今日はこいつか。
大手メーカーの常務の男。私の手札の中でもなかなかの変態だ。羽振りはよいがもうあんな気色の悪い夜の営みに付き合い切れない。
行くしかない――。

ピンポン。
世田谷の閑静な住宅街は22時を過ぎるとひと気はまばらだ。
チャイムの音だけが木の葉の揺れる音に混じり合っていく。

私は不倫相手の家の前まで来ていた。風で前髪が目にかかるのをそっと小指で逸らす。

そのころ、変態メーカー常務は妙な気配に震えていた。酔って財布をぶちまけたとき、私に家の住所を見られたことに気づいたのだろう。
「こんな時間に……誰?」
怪訝そうに玄関へ進む奥様。それを制しようとして睨まれる変態不倫ヤロウ。女が夫の異変に気づかないワケがない。奥様はほとんど何が起きるか知っているのだ。

モニターを覗かずに覚悟を決めて扉を開ける奥様。
私と目が合う。

「どうも。出前市場です。ご注文の品、お届けに参りました」

私は飲食代行配送サービスの格好をして立っていた。律儀な感じの爽やかな笑顔はチップをもらってもよいほどだと思う。
「……え。あの」

奥様がしゃべりかける隙を与えないように、お代は引き落としされてますので、と私はバッグからワインボトルを取り出した。
「頼んでません……けど」
「いえ。確かにこちらから注文されましたよ」
不敵な笑みですべてを悟った奥様は震えながらワインを受け取る。

私は自転車にまたがって帰る。配送は無事終了だ。
ワインは私が生まれた年のモノだ。29年ものの復讐味の逸品。

子供を寝かせた後のリビング。
テーブルに置かれたボトル。横では奥様に土下座をしている変態男。
奥様はボトルで男の頭をかち割る。男は血だらけになりながら笑う。
復讐が終わった。

もし、覚えのない配送員が来たらあなたはどうしますか?


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