希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋し…

希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』『魔法のリノベ』『オクトー』『好きやねんけど~』ほか。セトダイキ。 setodai4@yahoo.co.jp 富山県出身。ドラマ、映画、欅坂46(櫻坂)、お笑い全般(漫才、コント)、野球。

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サレ妻、逢いたくて震える?

シルクのパジャマに着替えてソファに座る。ため息をした後、今宵もルーティンが始まる。 机の上に写真を扇型に並べてほくそ笑む私。 これからゲームが始まるのだ。 そう、どの不倫相手の家に乗り込むのか決めるのだ。 カードをバラバラにしてそこから一枚引く。 今日はこいつか。 大手メーカーの常務の男。私の手札の中でもなかなかの変態だ。羽振りはよいがもうあんな気色の悪い夜の営みに付き合い切れない。 行くしかない――。 ピンポン。 世田谷の閑静な住宅街は22時を過ぎるとひと気はまばらだ。

    • 父が作った不倫弁当

      ここは平成の片田舎。隣の家の鶏がコケッコと鳴きわめく前から父は目覚める。毎朝、アタシと母のためにお弁当を作ってくれるのだ。 元々板前を目指していたことがあって料理が得意だということらしいが、自分も働きに出るというのに毎朝お弁当を作るのは素直に偉いな、と思う。 「今日はお前らの好きなナス炒め、入れておいたぞ」 「え、やった」 父が作るお弁当の具材は冷めてもおいしく、むしろ冷めてより味が増すように仕上げられていた。 クラスメイトがよくつまみ食いしにきたし、先生にまで褒められた

      • ドロ活! ~コソドロがブラック怪盗会社で活躍できずにポンコツ扱いされて退職代行を使いたくなる話~

        使えないな? またミスをしたんだな? そりゃそうだろ、と思う。 今は、自分の能力を卑下したくなる気持ちの方が強いがそんなことばかりしていると鬱屈になる。 だから無理矢理誰が悪いか考えるようにするのは癖だ。 そう、未経験なのに採用した会社が悪い! 俺はしがないコソドロだっただけど、世紀の怪盗劇をできるはずがない。ミスマッチは採用側の責任だ。 しかし、数分後自分のダメさにため息が出る。厄介な男だなとつくづく思う。 おじいちゃんやおばあちゃんが住む家に忍び込んでは10万前後の

        • 私、晴れ女だから大丈夫

          頑張れとか大丈夫とか、そんな言葉が嫌いだった。 けれど、大人になった今では細胞レベルでそんな言葉を欲している自分に気がつく。 たぶん、疲れているんだと思う。 涙なんて流すことはできなくなったけれど、誰かに背中をさすってもらいたくなる。 たぶん、まだ大人になりきれていないんだと思う。 そんなことばかり考えているとき。 僕はあなたと出会いました。 あなたは体育座りで僕のベッドにちょこんと乗りましたね。 あなたは「私、晴れ女だからラッキーだったね」とよく言っていたけれど、あ

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        • キセノート
          0本
        • セトノート
          2本

        記事

          幽霊になった妻が不倫しまくってました。

          「……はい、一生愛することを誓います」 こんなセリフを言う日が来るなんて嘘みたいだ。 結婚を他人事だと思っていた僕が、まさか交際3カ月で式を上げるなんて思ってもいなかった。 清美とはマッチングアプリで出会ったすぐに意気投合した。3回目に告白なんていうけれど、2回目には公園でキスをしていた。 キスをしたからには告白するほかない。いや、それは印象が良くない。 ちゃんと真剣にこの人を愛したい、そう思って結婚を決めた。 でも、式を終えて2カ月後。まだラブラブな最中に清美は事故で死ん

          幽霊になった妻が不倫しまくってました。

          開閉恐怖症

          開けることが怖い。昔から何かを開けるときに胸が狂いそうなほど飛び出そうになる。 カーテン、缶ジュース、エレベーター、トイレ、プレゼント、風呂桶、タクシー、ポテトチップス。 思えば、学生時代は一度も母の手作り弁当を開けられなかった。母はひどく悲しんでいたに違いないが、手が震えてそれどころではなく、母の得意料理のナス炒めや玉子焼きもすべて残した。 父が早くに亡くなったときもそう。棺桶も開けなかった。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら棺の前で立ち尽くしていただけだった。 ホントに親不

          左衛門三郎さんはツッコミたい

          高校時代のクラスメイト・左衛門三郎さんからDMが届いた。 そういえば、変な子でLINEをやっていなかったなと思い出したが、ほぼ裏垢に近いアカウントから送られたメッセージに気づくのに6日ほどかかった。 左衛門三郎はあだ名でも悪口でもなくれっきとした苗字で、豪族出身で埼玉県浦和市に数軒だけある珍名らしい。 名前は確か冴子だったような……。あいまいだ。アカウント名の「もっぴーP」では推測できない。 とりあえず、偶然アカウントを見つけたから「会いたい」とのことで、怪しさマックスだが

          カフェテリアの回転率

          新宿から快速で5駅ほどの街は賑やかだけど、なぜかのんびりと日々が漂っている。 あの人は 「へんぴなところだよ」 とよく言っていたが、へんぴではない、と思う。 でも、何と例えてやよいのか分からない。 程よく面倒くさいすれ違いが生じる、駅テナントを街ゆく人々。彼らの顔色もよく、駅前を少し歩いた脇道にもゴミが一切落ちていない。不思議とどこか癒される気持ちになる街なのだ――。 この駅に行き始めた理由。 あの人の唯一の知り合いが営業する喫茶店があるから。それだけ。 純喫茶なのか、

          そうめんもニュウメンも飽きたって

          大人になって気づくのは、親のありがたみと酔っ払いのカッコ悪さだったりする。 子供のころ、うんざりするほど昼ごはんの食卓に並んだそうめん。 溶けた氷の生ぬるさと次第に固まってダマになる麺の様子を思い出しただけで虫唾がはしる。 だけど。 疲れた体と心に鞭打ってそうめんの束をほぐしてくれていたんだよね。めんつゆを変な柄のグラスに注いでいてくれていたんだよね。 今というか、最近。 そうめんも煮麺もホント美味しいって思うし、ちょっと大人のふりして食べてる自分がいる。 そのとき、

          そうめんもニュウメンも飽きたって

          理数科が一軍すぎることに関する教師による考察 初版

          アタシの中の記憶と記録がすべてが塗り替えられた。 去年の秋、県で2番目の進学校にして設立100年を超える母校に教師として戻ってくることになった。 「はい、よろしくお願いいたします。実は。アタシもここの出身なんです」 一応生徒のほとんどがこちらを見ているが何の反応も熱量もない。まぁOGが先生として戻ることは珍しいことではないし、いちいちへぇだのほぉだの言わないのは当たり前か。 ましてウチは進学校。教室にいる限りは勉強のこと、授業のことで頭がいっぱい。アタシがそうだったでは

          理数科が一軍すぎることに関する教師による考察 初版

          アマギフなら受け取ってもええけど

          もうこれ以上みんなの邪魔をしたくない。 舞台終わりの通用口に並ぶ痛いファンにアタシは疲弊していた。 手持ちみやげやプレゼントを抱える図体のでかい男たちに囲まれるアタシと相方。 大半の人混みは相方のほうに流れるのだが、今日はいくばくかアタシのほうにも押し寄せてくる数が多い。 「……ありがとうございます」 「おおきに」 相方の細い声は震えており、明らかに不満そうだ。 お笑いをしたい、人を笑かせたい、男を黙らせたい。 そんな気概で芸人になった彼女には今の地位は不服なのだろう

          アマギフなら受け取ってもええけど

          なんかaikoの曲みたいだね

          あの星の上で花火見下ろしたいよね。 彼氏がaikoの曲みたいなことを言うので、一気に冷めた。本音でもわざとでも、とにかく気分が悪くなったことだけは鮮明に焼き付いている。 夏の真ん中ごろ。河川敷は蒸し蒸ししてただでさえ居心地が悪いのに、やめてくれよと思った。 蝉の声が響くなか、彼は「かき氷のシロップは全部おなじ味らしいよ」と笑った。 またこの人、aikoの歌詞を普段使いする素振りを見せた。 夏生まれだから夏好きだわ、やっぱり。 でも秋が一番好きかも。 ちょっと公園寄って行か

          打たせて撮るタイプ

          この仕事、嫌いじゃないけど好きになれない。 文芸志望で入ったアタシだが、研修が終わって早々に週刊誌部署に配属された。 今日は球界のエースと呼ばれる在京チームの選手を追っかけて張り込んでいる。四股不倫をしているらしい。 どうでもいいけど。 年老いて140キロも出ないくせに遊ぶなよ。スキャンダルなしの彼は165キロ出してるからね? そういえば、アイドル時代のアタシもよく野球選手と遊んでた。 大体野球選手って胸が好きなんだよね。 アタシがタレこんだせいで、引退したスーパースターも

          傷ついてトイレットペーパー

          コンビニでトイレットペーパーのダブルを買う。シールだけ貼ってもらったトイレットペーパーをぶらつかせながら家へ急ぎ足で向かう。 スーパーで買い忘れるのも、同棲を始めてから何度目だろう。きっとまた彼女に怒られる。 家は真っ暗だった。 キョロキョロと廊下を探っていくと、彼女はトイレの便座に座って泣いていた。ちゃんとスカートは履いている。 なぜ……? 「もう別れよ」 「なんで」 「またコンビニで買ってるじゃん」 俺が持つ8ロール入りのトイレットペーパーを見つめて、彼女はため息をつ

          数分で終わるので、臨死魔法をかけさせてもらえませんか?

          日雇いの仕事は割りが良いのか悪いのか分からない。 時給にして1200円、炎天下の下で自分に興味のない人たちの関心を惹くのはラクじゃない。むしろつらい。人間、無視されるのが一番堪えるのだ。 「あの。少しお時間よろしいでしょう……」 「お時間よろ……」 世の中、そんなに甘くない。こんな見た目のヤツの話に足を止めるはずがあるわけない。 「まぁ……少しなら」 世の中、ホントに分からない。こんな見た目のヤツを信用する人もいるのだから。 無事確保したおじさんを近くの雑居ビルに案内

          数分で終わるので、臨死魔法をかけさせてもらえませんか?

          カレーを作りすぎた人の末路

          カレーを作りすぎるのは、日本人の病なんだと思う。 今日も作りすぎたカレーを薄暗い部屋で食べている。 引っ越しのときに邪魔になってテレビを置いてきた家は殺風景だ。 彼氏を探すために勧められたマッチングアプリも飽きてきた。 カレーは飽きないのに。 2年後。あたしはカレー屋でバイトしていた。 あれだけカレーを作りすぎていたのだから当然といえば当然だが、そこそこ給料の良かった事務職を辞めてまですることか、と旧友にあしらわれてた。 「いいじゃん。カレー好きだし」 「ウチも好きだよ