【第二話】手拭い
こごがら山一個超えだどごに、岬があるんだげども、そごさ時たま髪の長ぇ女がいるんだなす。
村の娘がよぉ、赤ん坊腹さ入ったって男さ言うどよ、男は逃げでしまっで、娘は泣いで泣いで、赤ん坊ど一緒に死ぬべ、って岬さ行ったのす。
したらば、そこに髪の長ぇ女がいでな、「なじょした? 話っこ聞くべ」って言ったのす。
娘が話すとな、「なんたら気の毒に。そったら男のために死ぬこだねぇべじゃ。なんとかしてけら。男の物はぁ何が持っでらが?」って女が言うのす。
たまたま男が使ってら手拭いを持ってらすけ、女さ渡すと、「しばらく貸してけら」と言っで、持ってったず。
娘ははぁ不思議な気持ちさなっで、死ぬごども忘れで家さ帰ったず。
日が暮れで、娘が腹っこさすりながら寝っぺと思ってらどぎに、家の戸を叩く音がすのよ。
娘はぁ驚いで、布団こ被って念仏唱えだず。
だば、
「おらだじゃ、入れでけろ」
って、男の声っこだっだのよ。
帰っで来たんじゃぁと娘はぁ喜んで、戸を開げると、間違ぇなぐ、男だっだのよ。
それがら、娘は男ど暮らしだんだず。
腹大っきぐなってぇ、いよいよ赤ん坊生まれらってどぎに、近所の女どもが手伝いさ来たんだけども、男の姿が見えねぇど。
心配は心配だけどもす、そっだらごど考えでら暇なくて、娘は赤ん坊産んだず。
おんぎゃあ、おんぎゃあと、泣ぐ赤ん坊見たらばよ、娘は|はぁかわいくて、
「めんけぇな、めんけぇな、おらはぁぜってこの子はぁ大事さする」
と、思っだのよ。
男さもはやぐ見せて、と思っで待っでらけど、ついに男は帰って来ながっだず。
あくる日、男が岬の下の海で見つがったのす。
男は人の皮だげになって浮いてで、骨も肉も無がったんだず。
村の人間はぁびっぐりして、化げ物の仕業じゃねぇがっておっかながって、さぞ娘っ子は悲しんでらべど思ったなす。
したらば娘はぁ悲しんでら風もねくて、赤ん坊をめんけめんけとあやしてらど。
なして驚かねぇのだ?と村人が聞くど、
「前に岬で女に会っだどぎ、逃げだ夫の手拭い渡しだんだ。夫が戻ったどぎ、その手拭い持ってらがら、あんや化け物がもしんね、と思ってらけど、おらはぁ一度は死ぬど思った身すけ、化け物でも夫どしで迎い入れで、赤ん坊す産むべど思っだのよ。夫はぁ優しぐで、もう人か化け物がはどうでもいぐなったのす。んだがら、もし化け物だっだどしてもよぉ、海に帰っただげだがら、おらはぁめんけこの子を大事にするだげだぁ」
と言って、赤ん坊を|あやしてらんだず。
村人はぁいよいよおっかなくて、男の皮を山さ深く埋めだんだず。
したっけば、娘の元さいつの間にがあの手拭いがあったんだず。
誰か夫の形見どして持ってきでらんじゃねぇがと思って、みんなさ聞ぎ回ったけども、誰も手拭いなぞ知らねがっだず。
岬ははぁ見晴らし良くて、寄りたぐなるのもわがっけども、岬さ行って女がいだらば気ぃつけるんだじゃ。
声かげねのす。
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