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『リバー、流れないでよ』で号泣した私が祈る。リバー、(映画館でもっと)流れてよ。【2023/7/22追記】

そもそも論として「この文章を読んで誰が映画館に行くんだよ」という問題がある。
高名な映画評論家とか、高名なクリエイターとかが、もう既に『リバー、流れないでよ』を褒めている。高名な人はなるべくして高名になっているので、もちろんプレゼン能力が高く、文章も上手い。
何者でもない「私」のnoteで、誰が「この映画を観てみよう!」となるのだろうか?
しかしそれでも私は書かなければならない。
なぜなら私はヨーロッパ企画を、『リバー、流れないでよ』を愛しているからである。

長いし、無駄な部分も多い。前書きのパートも長すぎる。飛ばし飛ばしで読んで良いし、斜め読みでも構わない。

映画は初動が大切らしい。公開してからの3日間が勝負らしい。なので書く。「私はこの映画が公開された翌日に、プレゼン記事を書きましたよ」というアリバイ作りのために、書く。


映画の概要・涙の理由・読み飛ばして問題のない余談

2023年6月23日に、伝説は幕を開けた。ヨーロッパ企画の手掛けた映画『リバー、流れないでよ』が公開日を迎えたのだ。

私はTOHOシネマズ二条の初日舞台挨拶回で、『リバー、流れないでよ』を観た。

『リバー、流れないでよ』公式サイト
『リバー、流れないでよ』本予告

『リバー、流れないでよ』ポスター

公式サイトの一部を抜粋すると、【新たな時の牢獄=冬の貴船を舞台にした前人未到のタイムループコメディ !】

ポスターにある【また2分。】は、ダブルミーニングとなっている。

一つは、「2分がタイムループする、時間映画である」という意味。

もう一つは、ヨーロッパ企画の前作の映画『ドロステのはてで僕ら』が「2分前と2分後」が「時間的ハウリング」を引き起こす内容だったので、「僕たちは、また2分をテーマにした時間映画を作りましたよ」という意味。

『リバー、流れないでよ』をザックリ説明すると、「2分を繰り返すタイムループコメディ映画」になるだろう。
映画はあくまでもコメディだし、コメディである必要がある。ヨーロッパ企画とは「コメディで闘う劇団」だ。今までずっと、コメディの劇を上演し続けてきた。

この映画は、コメディなのだ。コメディなのに、私は物語の終盤、いつの間にか号泣していた。きっと左右の席の人は驚いたに違いない。コメディ映画で号泣している人間なんて、さぞかし迷惑だっただろう。しかし、涙は止まらなかった。

私は、「美しいもの」に触れると涙を流してしまう。「美しいもの」の価値観は人それぞれだし、私の定義にもバラつきがある。

しかし私の中の一つの定義には、「たくさんの人が力を合わせて、たくさんの人を楽しませようと邁進しており、その結果、実際にとても楽しいものが出来上がっている状態」というものがある。それに触れると、「美しい」と感じてしまう。
舞台の裏方をほんの少し齧った経験があるので「たくさんの人」の中には、もちろん裏方さんも含まれる。

上記の定義で「美しい」と思うものたち。
東京ディズニーランドの『ワンマンズ・ドリーム』。サンリオピューロランドの『ミラクルギフトパレード』。南紀白浜アドベンチャーワールドのマリンライブ(※イルカショー)『Smiles』(あのショーはイルカも、イルカを操る飼育員さんも凄いが、カメラ班と映像編集者がめちゃくちゃに凄い。技術も凄いし、きっと設備や機材も凄い。どうやったらあんな少人数のスタッフで「アレ」が出来るのだ?あんなのもう、プロ野球の中継とかのレベルだと思う)。
最近だったら、かが屋の単独ライブ『瀬戸内海のカロカロ貝屋』や、どくさいスイッチ企画の単独ライブ『前向きな歌』、THE ROB CARLTONの『Meilleure Soirée』でも、美しさを感じてしまい、帰路でちょっと泣いた。

元々涙脆いので、帰路で泣いてしまうことは割とあるのだが、上演中・上映中に、(感動や哀しみではなく)「美しさ」が原因で涙を流してしまったのは2回目である。

1回目はヨーロッパ企画の20周年記念公演『サマータイムマシン・ワンスモア』だった。幕が下りてもずっと泣いている私に、当時の彼氏(今の主人)は引いていた。
コメディ劇を観に来て号泣しているのだから、主人の言い分は正しい。

今回はそれを避けるべく、主人は京都シネマで、私はTOHOシネマズ二条で、それぞれ舞台挨拶のある『リバー、流れないでよ』を観た。出会って10年以上ともなると、「正しい判断」を下せるようになる。

これは完全な余談(なので読み飛ばしていい)だが、私と主人が出会ったキッカケ、初めての会話はヨーロッパ企画であり、10年以上、ヨーロッパ企画の劇や、上田誠の手掛けた映画なんかを、ほとんど必ず一緒に観に行っている。
互いに友だちが少ないというのも一つの要因だが、終演後になんの忖度も遠慮もなく、感想を言い合える相手がいるというのはありがたいことだ。
お互い多趣味で、それぞれの趣味には全く干渉しないが、ヨーロッパ企画関連のものだけは、一緒に共有している。

ヨーロッパ企画が我々夫婦を繋ぎ止めていると言っても過言ではない。そんな我々が京都で挙式し、京都に居を構えるのは、ある種当然であるとも言える(しかしお笑いライブに行くには遠すぎるので、もう少し難波に近付きたい)。

私も主人も京都が嫌いなのだが、「でもまあ、ヨーロッパ企画があるしなあ」となんとか誤魔化し、慰めながら、日々を送っている。

ヨーロッパ企画はしばしば「時の牢獄」という言葉を使うが、我々夫婦はヨーロッパ企画のせいで「京都の牢獄」に囚われるハメになっている。『四畳半神話大系』の言葉を借りよう。「責任者はどこか」。
余談パート終わり。

話が逸れた。主人のことなどどうでも良い。

『リバー、流れないでよ』について話さなくては!

『リバー、流れないでよ』は現在20館でしか上映していない。それはとても勿体ないことだ。
涙を流した者として、この映画のプレゼンをするのは最早義務である。少しでも多くの人にこの映画に触れてほしいし、上映している映画館も増やしたい。

「リバー、(映画館でもっと)流れてよ」である。

ネタバレはしたくないが、良かったところは伝えたい。矛盾である。矛盾を抱えながら、「特に良かったところ」を挙げてみようと思う。

「仕掛け」に「物語」が噛み合っている

『ドロステのはてで僕ら』を観た際は、ブッチャケてしまうと、「仕掛けが先行しすぎている」と思った。
確かに画期的な手法ではあるのだが、手法が凄いだけに感想が「手法が凄い」で完結してしまい、映画としての芳醇さをあまり感じられなかった。
「『カメラを止めるな』みたいなやつがやりたかったのかな」が、主人との会話で真っ先に出てきた言葉であった。
『ドロステ』を卑下したいわけではない。あの映画だって十分に面白かった。そこは否定したくない。

しかし、今回の『リバー』は、ヨーロッパ企画が『ドロステ』を経験したからこそ、撮れた映画だったと思う。
ストーリ性があり、展開が豊かで、メッセージ性や、未来への希望なんかも込められていた。台本が、物語そのものが、素晴らしかったし、美しかった。

映像でないと表現できない

ヨーロッパ企画は脚本陣も俳優もテレビや映画で活躍しているが、活動の本拠地は、あくまでも舞台上での劇である。
『ドロステ』にも言えることだが、『リバー、流れないでよ』は、映像でないと表現できない仕掛けが、作品の軸になっている。

ヨーロッパ企画の舞台での公演は、過去、様々な形で映画としてリメイクされてきた。『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン(ヨーロッパ企画の公演では『冬のユリゲラー』というタイトルだった)』などだ。
しかしそれらはもともと舞台演劇の作品なのだ。本当なら、一枚の板の上で表現できていた内容を、解体し、映像表現に落とし込んでいる。

映画化されても、脚本を担当したのはそのまま上田誠なので、映画版の『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン』ももちろん面白い。

面白いのだが、「一枚の板の上でアレを表現できていたのになあ。そっちの方が凄いんじゃないか?」という疑念を抱いてしまう。

しかし『リバー、流れないでよ』は、映像作品として書き下ろされた脚本だ。
映像でしか表現できないし、成立しない物語である。

ヨーロッパ企画は、「舞台でコメディ劇を続けること」にプライドを持っている劇団と感じている。
だからこそ、舞台演劇とはまったく異なるアプローチで成立している映画『リバー、流れないでよ』がより一層輝いて見えるのだ。

愚直なまでに2分に拘る、そして大雪

『リバー、流れないでよ』は2分間を何度もタイムループする物語だ。2分間が層を成し、物語が積み上がっていく。
その2分間は、「ちゃんと2分間」なのだ。
1分50秒でもなければ、2分5秒でもない。キッカリ、2分。
2分に足りなかったり、2分をオーバーさせてしまったりして、何度も何度もリテイクしている。2分間にするために。

今の時代、その努力は「不毛な努力」かもしれない。編集作業でどうにでもなるのかもしれない。
しかし、撮影班はとことん2分間に拘る。愚直なまでの2分間。

私の持論として、「やり過ぎ」は最早「オモシロ」なのだ。ストップウォッチやタイマーと睨めっこしながら、2分間を撮り続ける姿勢が、もう既に面白い。

しかも撮影の日は、京都を大寒波が襲っていた。市内に住む私でも、大雪の被害に見舞われ、大変な思いをしながら出勤した。
撮影場所は貴船である。2分間とも闘いながら、大雪とも闘わなければならない。とても過酷な撮影だったろう。
大雪のお陰で上田誠が機転を利かせ、とある設定が生まれたらしい(2023/6/23のトークショーより)。それが作品にとって、とても良い作用を起こしている。そういうことをするから、私がまた上田誠を信頼してしまうのだ。

【ヨーロッパ企画として】映画を上映している

映画『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン』は、ヨーロッパ企画を認めた(※敢えて「認めた」という言葉を選んでいる)「偉い大人たち」が主導となって撮られたものだ。
脚本は上田誠が引き継ぐけれど、主演や主な出演者は、知名度のある俳優に置き換えられてしまう。
確かにその方が興行的に成功するに決まっているのだが、元の舞台を知っている身としては寂しい気持ちもある。

舞台『サマータイムマシン・ブルース』で主演を務めた中川晴樹は、ヨーロッパ企画のバラエティ番組(※本人たちはYouTubeで公開するときに【コント】と記載しているので、コント番組かもしれない)『ヨーロッパ企画の暗い旅』のとある回で、「『サマータイムマシン・ブルース』が映画になったのに、主演の俺は出られなかった」というモヤモヤを吐露していた。

上田誠は「火の鳥システム」を採用している脚本家だ。どうやら宝塚歌劇団の「スターシステム」と似ているらしいと、宝塚のファンの友人から教えてもらった。
「火の鳥システム」の「火の鳥」は、手塚治虫の漫画『火の鳥』に由来する。
つまり、どんな公演だろうが、どんな時代設定だろうが、役者本人の個性や得意分野を活かし、当て書きで脚本を書くのが、上田誠の採用するシステムなのである。

本来ならば『サマータイムマシン・ブルース』は映画でも、中川晴樹が主演であるべきだったのかもしれない。それが「火の鳥システム」というものだ。
瑛太の演技も素晴らしかったということは、キチンと記しておく必要があるが。

以前のヨーロッパ企画の映画は、「偉い誰か」や「有名な誰か」の力を借りて、本来舞台演劇だったものをなんとか映像化して、成立させていた作品である。

しかし、『リバー、流れないでよ』は違う。

「ヨーロッパ企画」という劇団名が、最早「ブランド」になっている。

「""あの""ヨーロッパ企画が映画を撮りました!」のスタンスなのだ。

25周年を迎える劇団を10年強に渡って追い掛けているところで、古参マウントになるはずもないのだが、それでもやはり、感慨深いものがある。

上田誠の脚本を観たくて足を運ぶ人もいれば、「火の鳥システム」の中川晴樹の演技を観たくて足を運ぶ人もいる。

ちなみに私は酒井善史の「アレ」の大ファンなので、「アレ」を観られて大喜びした。

諏訪雅の演技が大好きなので(「火の鳥システム」の中において、諏訪雅だけは「誰にでもなれる俳優」だと、私は勝手に考えている)、今回も彼の演技を堪能できて大満足だ。

もちろん、永野宗典の「アレ」もある!

藤谷理子ちゃんが放つ光がとても眩く、彼女の出る公演ではいつも「ヨーロッパ企画に入団してくれてありがとう」と感謝してしまうのだが、今回もやはり感謝せざるを得なかった。理子ちゃんがいなければ、ヨーロッパ企画は現在の形を成していないだろう。

乃木坂46の久保史緒里さん(流石に久保史緒里さんを呼び捨てにはできない)を目当てに映画館へ行く人もいるだろう。
しかし久保史緒里さんは、上田誠が脚本を担当した舞台『夜は短し歩けよ乙女(原作小説は森見登美彦作)』で主演を務めた人物である。ヨーロッパ企画に片足を突っ込んでくれている、稀有なアイドルなのだ。

脚本家もヨーロッパ企画。カメラマンもヨーロッパ企画。編集も監督もヨーロッパ企画。出演者も(ほとんどが)ヨーロッパ企画。これが成立している事実が、とてつもなく嬉しい。ヨーロッパ企画という存在が集客の原動力となっているのだから、劇団のファンとしては堪らない。

TOHOシネマズ二条に来てほしい

関西で『リバー、流れないでよ』を観たら、是非、京都観光も兼ねてTOHOシネマズ二条に足を運んでもらいたい。二条の映画館でしか観られないものがあるのだ。

【2023/7/22追記】
二条の映画館でしか観られないものは、Tジョイ京都に移動しました。

お引越しはしたが、二条にしかない魅力は変わらずに存在する。
近くには『ドロステ』の撮影現場となっているCafe Phalamがあり、映画の半券を提示すると粋なプレゼントが貰える。『ドロステ』を観た人なら、きっとグッとくるはずだ。

最早ヨーロッパ企画の聖地と化している喫茶・チロルもある。
そこには「ヨーロッパ企画ノート」という交流ノートが置いてある。ファンだけでなく、ヨーロッパ企画チームも思いの丈を綴ってくれている。読んでいるだけで時間が潰れてしまう、魔法のノートだ。
チロルは開店時間が早く、閉店時間も早い。時間映画を観るのだから、時間を上手く配分して、是非ともチロルへ。

『マツコ&有吉 かりそめ天国』でチロルが紹介された時にはビックリした。タマゴサンドが名物だったなんて知らなかった。
私はカレーを食べたり、スパゲティを食べたりしている。
チロルはヨーロッパ企画の作品に度々登場する喫茶店なので、過去作(特に『曲がれ!スプーン』)を観た人にもオススメしたい。

二条はヨーロッパ企画のホームタウンである。きっと『リバー、流れないでよ』に一番「全力」な場所だ。貴船も「全力」かもしれないが、二条には応援団が山程いる。

映画を観て、二条に来てほしい。

まとめ

色々と御託を並べましたが、結論としては『リバー、流れないでよ』がとても面白いということです。
観てください。観て、広めてください。

とにかく、今の環境で観られる人は早めに『リバー、流れないでよ』を観ていただいて、それから上映館を増やしていきたいというのが、私の願いです。


願いが成就しますように。
ここでは『夜は短し歩けよ乙女』の言葉を借ります。
「なむなむ」。

ヨーロッパ企画のいる「世界線」で暮らせて良かったなあ。

【2023/7/22追記】

2023/7/21に行われた、ヨーロッパ企画25周年カフェの夜イベント『執筆中の上田が歌いたくなる夜』に当選した。
25席しかないチケットをもぎ取れただけでも幸運なのに、ライブ後に上田さんとお話しをする機会をいただけた。
サイン会があるだろうと踏んでいた我々夫婦は考えた。「何にサインをしてもらうべきか」。
出た結論は「結婚ダルマ」であった。

私と主人の結婚式のウェルカムボードにも
飾られたダルマ

私は「ダルマを抱えているのだから許してほしい」と、持っている服の中で一番赤いワンピースを着て、『夜は短し歩けよ乙女』公開時に発売されたリンゴのヘアピンをし、「黒髪の乙女風のファン」として上田さんと対面した。

ヨーロッパ企画が縁で結婚したこと、京都で挙式し、居を構えていることなどを伝え、「結婚ダルマ」にサインを貰った。

結婚ダルマにサインを添えてくれている上田誠氏
記念撮影

「結婚ダルマ」は今までも我々夫婦の生活を見守ってくれていた。
「新婚」というと幸せで豊かな生活を想像するかもしれないが、他人が共同生活を送るというのは大変なことだ。
我々が結婚に漕ぎ着けるまでには約10年の歳月を要し、やっと夫婦として国から公認を得られたので、記念として、ダルマの両目には墨を入れてある。
結婚ダルマの両目の墨が持つ意味を考え、嫌なこと、辛いことも乗り越えてきた。
そこに、上田誠のサインが入ったのだ。

このサインを以て、「結婚ダルマは完成した」と言っても過言ではない。

これから先「京都の牢獄」で暮らしていく中で、夫婦としての困難に直面する場面は、絶対にある。
だが、両目に墨が入り、上田誠にサインまで貰えたダルマが、私たちに寄り添ってくれる。
きっとこのダルマが、私たちを助けてくれる。


『リバー、流れないでよ』は「繰り返す映画」だ。
なので私も、この言葉を繰り返す。

ヨーロッパ企画のいる「世界線」で暮らせて良かったなあ。

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