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2 動き出す時間はキミとの時間

都内某所にあるテレビ局の収録スタジオ。日夜視聴者を湧かせる数多くの番組の収録が行われている。

ちょうどBスタジオでは収録が終わったところだった。
行われていたのは人気アイドルグループ“乃木坂46“の冠番組の収録。
AKB48の公式ライバルとして発足したのはもう2年前。AKBグループの代名詞ともいえる劇場を持たないで、半ば探り探りできた彼女らも、今では本家をしのぐ勢いと人気を博しつつあった。

歌撮りを終えたメンバーたちはスタッフに挨拶をしながら楽屋へと戻っていく。
そのなかに橋本奈々未の姿があった。

楽屋につくなり彼女の定位置となったソファーに身を委ねる。
ソファーを占領するように横になるが、寝ようとしているわけではない。ただ天井を見上げていた。

考えてたのは歌撮りのこと。
最新曲もフロントメンバーに選ばれて名実ともに乃木坂の顔の一人として活躍しているが、最近ひとつの壁に悩んでいる。

前から歌が上手い方ではなかった。AKBやSKE、NMBなどさまざまなグループが存在するが、なかでも乃木坂は歌唱力が抜群に秀でたグループと評されている。それはなかにいる奈々未が一番肌で感じていた。

もともと歌うことに長けていた西野七瀬や生田絵梨花、センターを経験して実力を伸ばしてきた白石麻衣を筆頭に、みんなどんどん上手くなっていく。

そんななか、自分だけが取り残されているような感覚に襲われることが多くなってきていた。

もちろん努力もしている。ボイストレーニングはもちろん、ほかの歌手の歌を歌ってみたり、できることはなんでもやった。
それでも、自分が納得できるレベルにはなることはできなかった。

今日もまた、そんなことを思いながらソファーで1人物思いにふける。

しばらくして、目を閉じると睡魔が少しずつ近づいてきた。
しかし、それを遠ざけるかのような明るい声が耳に入ってきて思わず身体を起こした。

白石「ななみん、まだ着替えないの?」
声のするほうを向くと白石麻衣が明るい笑顔を向けて不思議そうにこちらを見ていた。

気がつくとほとんどのメンバーはすでに衣装から私服に着替えていて、早いメンバーは楽屋をあとにしはじめていた。

奈々未「しーちゃんか、うん、着替えるよ」

そういって着替え用のメイクルームに移動する。
何人かのメンバーが着替えていたが、ほとんど着替え終えていて、ほぼ入れ替わりでメイクルームをあとにした。
1人残された奈々未は、ゆっくりと着替えをすませると部屋を出た。

白石「あ、やっときた!」
メイクルームの外のベンチで座りながら音楽でも聴いていたのだろう。麻衣はつけていたイヤホンを外すとすっと立ち上がって奈々未のもとに歩み寄った。

奈々未「しーちゃん、どーしたの?」

白石「なんかななみん元気なさそうだったから気になって待ってた」

屈託のない笑顔でそういいきる白石は、衣装を身にまとっていなくてもアイドルそのものだった。

誰にでも分け隔てなく接して、いつも笑顔を絶やさない。わかってはいるけどできないことを当たり前のようにやってのける。
そんな白石に奈々未はいつも感心し、羨ましいという思いさえ抱いていた。

奈々未「ありがとう、しーちゃん」

つとめて笑顔でいうと、白石は少し照れたようにしながらも嬉しそうに笑顔を見せた。

白石「ななみん、このあともうなにもないよね? 久しぶりにご飯行かない?」

奈々未「いいよ。他にだれか誘う?」

白石「もうみんな帰っちゃったみたいだし、戻ってきてもらうのも悪いから、今日は二人でいこう!」

奈々未「いいよ、じゃあお店は私が知ってるお店でいい?」

白石「うん、ななみんチョイスにお任せしまーす♪」

二人はそういいながらスタジオをあとにした。


つづく

この物語はフィクションです。
実在する人物などとは一切関係ございません。




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