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1 坂道のマネージャーは人気者

美月「暇だなぁ~」

ある日の楽屋。
出番までまだ時間がある。
すでに準備を終えた山下美月が大きな独り言を発したことからはじまる。



美波「ブログでも書いたら?」

楽屋で隣に座った美月が椅子をグラグラとゆらしながら呟くのを、梅澤美波はスマホでブログを書いている途中だったのでてきとうに自分と同じ作業を提案してみる。


美月「あー、暇だなぁ~」

美波「えっ? 無視? 聞いてた??」


先ほどの提案は受け付けませんといった様子の美月はデジャヴのように同じトーンで話し始める。
まるで無視されたかのような繰り返しの問いかけに、美波は苦笑しながら目を細めて携帯から美月に目線を移した。

それを待っていましたとばかりに美月が美波のほうに身体を向ける。


美月「好き好きゲームしよう?」

美波「…」

あぁ、面倒くさいときの美月だ。
美波は半ば諦めにも似た感情で、すっとスマホを机においた。

美月「う〜め~」

美波「もう、揺らさないで〜」

肩を激しく揺さぶられる美波。
なにか美月の気を引くものはないか、楽屋を見渡すがそれらしいものは見つからない。

やがて美月は、美波が反応しないため諦めたのか揺らすのをやめる。


美月「じゃあ、〇〇で良いや」

〇〇「ちょ、まてよ。『で、良い』とか妥協感出すなや。悲しくなるだろ」

懐かしのドラマの往年の名台詞を絡ませたが見事にスルーされて、ジェネレーションギャップというものがと密かに落ち込む〇〇。

そんなことに気づかない美月は美波が構ってくれない事が分かると、彼女の隣に座っていたマネージャーの〇〇にターゲットを変えたまま続ける。

美月「〇〇、好きだよ」


〇〇「え、ちょっと待って。もしかして、始まってる?
それなりに俺も忙しいんだけど。まぁ、そんな美月のことが好きだよ?」


〇〇はなんだかんだ言って、ゲームが強制的にはじまるとすぐに順応して見せる。


美月「え~、私の方が好きに決まってるじゃん」

〇〇「いやいや、俺の方が美月のこと好きに決まってるじゃん。何言ってるの?」

美月「〇〇のほうこそ何言ってるの? 私は〇〇のことこーーんなに好きなのに?」

美月はあざとく手を大きく広げて〇〇への愛情の大きさを表現して見せる。


「俺なんてこーーーんなに好きだよ」

負けじと手を広げる〇〇。


2人ともあたかも真剣な表情で愛の言葉を囁きあい、両腕を限界まで広げながら想いを伝えあう。


美月「私のほうが好き。本気で〇〇のことが好き」


美月が甘く愛を囁いたその瞬間だった。

美波「あぁぁぁ、もう!! 私を挟んでやるな!!」


両サイドから愛を飛ばされて我慢の限界だった美波が楽屋中に響き渡る大きな声で流れを止める。


美月「えー、だって梅がかまってくれないから〜」

美波は耐えきれずにテーブルを叩きながら立ち上がる。

美波「言っとくけど! 美月より私の方が〇〇のこと好きだから!!」


〇〇「え、そこ??」


美波の斜め上を行く反論に、〇〇は芸人のように椅子から落ちかけるリアクションを見せる。


美月「いやいやいや! 私がどれだけ〇〇の事好きか知らないでしょー!」

美月に指を差された美波は嘲笑気味に素早く立ち上がって反論をはじめた。

しかし、美波も負けない。

美波「わたしが一番〇〇のこと、好きだよ」

美月「〇〇のこと一番好きなのは私だよ」

二人は〇〇の方に向き直ると愛を伝える。

〇〇「いや、このゲームって2対1でやるゲームだっけ!?」


〇〇はチラッと楽屋の別のエリアに視線を向けてそこにいたメンバーに声を掛ける。

〇〇「おーい、麻衣好きだよ」


麻衣「もう、〇〇何言ってるの?」


二人が〇〇に体を取り出して迫っているのをみて、白石麻衣が呆れたようにしながら3人の下へやってきた。


麻衣「〇〇のこと一番好きなのは私だから」

〇〇「いや、ノリノリなんかい」

麻衣の反応を見て〇〇はわざとらしくズッコケる。


飛鳥「しーさん、それも違う。〇〇のこと一番好きなのは私だから」


それを見ていた齋藤飛鳥も参戦する。

麻衣「えー、飛鳥が好きなのは私じゃないの〜?」


飛鳥「え?」


麻衣「前に番組でも好きって言ってくれたよね?」


飛鳥「…やっぱり好きです」

麻衣「飛鳥〜♡」



〇〇「なんじゃあれ? 」


なんだかよくわからないが1期生二人の論争は事なきを得たと思ったが、それでは終わらなかった!


飛鳥「でも、〇〇は譲らない。しーさんはもちろん、梅も山もね」

麻衣「なにー!?」

美波「たとえ白石さんでも、飛鳥さんでも譲りません!」

美月「〇〇は私のものです!」


4人は〇〇そっちのけで白熱した激論を交わし始める。
しかし、言い合うと言うよりは冗談を交わすかのように次第に楽しげに談笑へと変わっていった。



〇〇は4人に気づかれないようにそっと楽屋を出る。



〇〇は楽屋から少し離れた自販機の前までやってくると小銭を入れてて缶コーヒーのボタンを押す。

玲香「〇〇」

ガラガラガコンという音とともに出てきた缶コーヒーを取り出していると、1期生の桜井玲香が楽屋から〇〇を追いかけてきた。

〇〇「玲香か。缶コーヒー飲むか?」

玲香「うん、もらおうかな」

〇〇「ほいよ」

〇〇は取り出したばかりの缶コーヒーを玲香にふわっと投げて渡す。玲香が両手でしっかりと受け取ったのを確認すると、小銭を入れててもう一度ボタンを押した。


〇〇と玲香は並んで壁にもたれかかりながらその場で缶コーヒーをあける。

一口飲むと玲香が〇〇のほうに視線を向ける。



玲香「ありがとうね、〇〇」

〇〇「んー? なにが?」

玲香「まいやんと飛鳥を梅ちゃんと美月に話しやすくしてくれたんでしょ?」


〇〇「…さすがキャプテンだな」


玲香「えへへ、まぁね。一期と三期はお互い好きだからこそまだいろいろ遠慮してるから」


〇〇「美月も美波も麻衣や飛鳥を尊敬してるからな。二人もそれを知ってるからこそどうやってコミュニケーション取ればいいか迷ってたんだろ。でも、ちょっと強引だったかな?」

玲香「ううん。良かったと思う」

〇〇「そっか」

玲香の言葉を聞いて、〇〇は少しだけ安心したようにコーヒーを口にした。

玲香「ごめんね、本当はキャプテンの私がもっとちゃんとしないといけないのに」


玲香は持っていた缶コーヒーを握る手に力を強めた。


〇〇「玲香のせいじゃない。それに、マネージャーとしてもグループのメンバーの雰囲気づくりは大切な仕事だしね。俺は玲香のこと頼りにしてるよ」

玲香「〇〇…ありがとう」


〇〇の言葉に玲香の肩の荷が少しだけ軽くなった気がしたその時、楽屋の方から先程の4人が姿を表した。

飛鳥「あー、やっぱりこんなとこにいた!」
美月「飛鳥さんの予想通りでしたね」
麻衣「梅ちゃんが気づいたおかげだね!」
美波「いやいや、白石さんも気づかれてたじゃないですか!」

すっかり仲良くなった4人を見て〇〇と玲香は小さくアイコンタクトをした。


麻衣「あー、いまアイコンタクトしたでしょ!」

美月「えー、なんでですか!」

とっさのことも見逃さなかった4人に詰め寄られる。
しかし、玲香はフフッとイタズラな笑みを浮かべながら言う。


玲香「なんでもないよー。でも、一番〇〇のこと好きなのは私かも!」

〇〇「ちょ、玲香!?」


4人「「「「なにーー!?」」」」




そのあと4人に〇〇が追い詰められたのは、
また別のお話。




つづく



この物語はフィクションです
実在する人物などとは一切関係ございません。






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