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  • 短編集

    短い物語です。

  • 幼馴染の和さん

  • 坂道のマネージャーは人気者

  • きっかけは突然に

  • アイドルアソート

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隣は推しメン 前編

東京、羽田空港第2ターミナル。 コロナが開けて国際線ターミナルとしての役割を開始した真新しい施設を喜多川〇〇は一人で大きなキャリーケースを引きながら歩みを進める。 航空保安検査は何回やっても慣れない。 悪いことはしていないのに、緊張感に苛まれる空気は心臓の鼓動を早める。 とはいえ、引っかかったことなんてないのだけど。 心配性なうえに自身がない性格に自分でも辟易とする。 コロナ明けの久しぶりの海外出張。 目的地はドイツのフランクフルト。 フライト時間約14時間の長旅である

    • 3 幼馴染の和さんは寂しがり

      和「ごちそうさま…」 夕ご飯を半分以上残した和はあからさまに元気がない声色で、食事の終わりを告げるとトボトボとリビングをあとにして自室へと戻っていく。 和父「…和はどうしたんだ?」 娘の元気のない姿に心配になりながら、隣りに座ってご飯を食べている和の母親にに向かって父親が尋ねた。 和母「〇〇くんが大学のゼミの合宿でいないのよ」 和の母がそう答えると、和の父は合点がいったように若干呆れつつも安心したように椅子の背もたれに体を預けた。 和父「あぁ、なるほどね」 ゆっ

      • 1 坂道のマネージャーは人気者

        美月「暇だなぁ~」 ある日の楽屋。 出番までまだ時間がある。 すでに準備を終えた山下美月が大きな独り言を発したことからはじまる。 美波「ブログでも書いたら?」 楽屋で隣に座った美月が椅子をグラグラとゆらしながら呟くのを、梅澤美波はスマホでブログを書いている途中だったのでてきとうに自分と同じ作業を提案してみる。 美月「あー、暇だなぁ~」 美波「えっ? 無視? 聞いてた??」 先ほどの提案は受け付けませんといった様子の美月はデジャヴのように同じトーンで話し始める。 ま

        • 2 きっかけは突然に

          まさか、こんな状況で演奏するなんて思っても見なかった。 〇〇は眼の前で鋭い視線を向けている秋元康と今野義雄を見ながら、構えたエレキギターのネックをギュッと握った。 刹那的には視線を櫂と慶太に向けると、二人はいつも通りの微笑みをたずさえながら、それぞれの楽器を構えた。 〇〇がそれを見て頷くと、ドラムスの櫂がスティックを三拍子叩いて曲がスタートした。 6時ちょうどにアラームを押し込んで めざましのテレビなんかに追い立てられて 慌てて飛び出していく アスファルト蹴り上げてい

        隣は推しメン 前編

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          4本
        • 幼馴染の和さん
          4本
        • 坂道のマネージャーは人気者
          2本
        • きっかけは突然に
          3本
        • アイドルアソート
          3本
        • 動き出す時間はキミとの時間
          5本

        記事

          3 アイドルアソート

          ※本作には性的表現が含まれます。 握手会の日から数日経ったある日。 〇〇は都内の閑静な住宅街にやってきていた。 あたりには高級な住宅が立ち並ぶ。 しかし、住宅ばかりかと言うとそんなわけでもなく、時折カフェや雑貨屋なども点在し、そのどれもがオシャレでこの街の雰囲気をより一層上げていた。 〇〇「(普通なら絶対来ないな)」 あまりの場違い感に、萎縮しながら待ち合わせ場所に向かう。 道なりに歩いていると、しばらくして石造りの門を構えた西洋風の洋館のような建物が見えてきた。

          3 アイドルアソート

          いとこはアイドル

          はじめまして、喜多川〇〇といいます。 大学進学を機に上京して一人暮らしをはしめて2年が経ちまして、早3年目となりました。 いやー、時が経つのは早いものです。 東京で一人暮らし。 さぞ楽しい悠々自適な大学生活を謳歌しているだろうとお思いの皆様も多いと思いますが、残念ながら僕の東京での生活は狂ってしまったのです、二人のいとこのおかげで。 ピンポーン 一人暮らしの部屋のインターホンが鳴る。 誰かわかるので大きめの声で返事をした。 〇〇「開いてんでー」 1DKのリビングか

          いとこはアイドル

          2 アイドルアソート

          ※本作は性的表現を含みます。 今野「単刀直入にいいます。アイドルの恋人になってもらえないかな」 〇〇「ええーーーー!?」 あまりに突拍子もない話に思わず声が出てしまった。 奈々未「今野さん、それでは説明不足過ぎです。すいません喜多川さん、私の方から詳しくご説明します」 そういうと今野の隣りに控えていた奈々未が代わって説明を始めた。 奈々未「喜多川さんにお願いしたいのはメンバーのケアサポーターです」 〇〇「ケアサポーター?」 奈々未「はい。アイドルは非常に様々な

          2 アイドルアソート

          1 アイドルアソート

          大学の講義で経済学の授業を取ったときに、世の中にお金がまわる仕組みとかを聞いて、そーなんだなー、程度に聞き流していた。 結果的にはお金が集まるところにあつまり、そうでないところにはよほどのことがない限り永遠にお金は集まってこない。 そうできている。 そして、大学2年生となった喜多川〇〇は後者だった。 喜多川〇〇は絶賛金欠中である。 比較的大学は真面目に行っている。 別にギャンブルをするわけでもなければ、毎日のように学友と飲み歩いているわけでもなければ、まして風俗に入り

          1 アイドルアソート

          1 きっかけは突然に

          人生何が起こるかわからないとはよく言ったもので、喜多川〇〇もまさにそれを痛感していた。 目の前には黒縁メガネの奥に鋭さを感じさせる独特のオーラを放つ、誰もが知る大物プロデューサー秋元康と、同じく秋元の数多くの偉業を支えてきた歴戦の猛者である今野義雄が、眼の前の若者を見極めようと睨みをきかせていた。 櫂「おい〇〇、聞いてねーぞ」 慶太「そうだぜ、なんだこの状況」 〇〇につれられて同席していた斎藤櫂と小笠原慶太も二人の威圧感に圧倒され、この状況に巻き込んだ〇〇に静かにいった

          1 きっかけは突然に

          登場人物(きっかけは突然に)

          喜多川〇〇 1997年12月31日生まれ。2016年デビュー。 星月坂46のメンバー。 ギターボーカル。 斎藤櫂 1997年10月17日生まれ。2016年デビュー。 星月坂46のメンバー。 ドラムス、サイドボーカル。 小笠原慶太 1998年3月21日生まれ。2016年デビュー。 ベース、サイドボーカル。

          登場人物(きっかけは突然に)

          4 動き出す時間はキミとの時間

          白石麻衣と夕御飯を共にした橋本奈々未は、家に帰るために、酔い冷ましも兼ねて一人街を歩いていた。 あまりお酒を飲めない白石が珍しく飲もうと言い出した理由はわかってる。 元気がなかった自分を元気づけるため。 乃木坂46創設時からの仲間で、同い年と言うこともあり親友と言える間柄。 白石が元気ないときは奈々未が。奈々未が元気ないときは白石が。 御三家と言われ、乃木坂の中心を担う二人だからこその関係性と言えた。 しかし、そんな白石にも言えなかった。 頑張っている彼女に余計な

          4 動き出す時間はキミとの時間

          2 幼馴染の和さんの忘れ物

          〇母「〇〇〜、和ちゃんのお母さんよ〜」 自室でのんびり漫画を読んでいると、階下から自分を呼ぶ母親の声が聞こえた。 和のお母さん? なんだろうと思い、降りていく。 和母「あ、〇〇くん、ごめんね急に、ちょっと頼まれ事があって!」 〇〇「なんですかおばさん?」 和母「和がお弁当忘れちゃって届けてくれないかしら?」 〇〇「え、俺が!?」 和母「これからお客さんが来るから外出できなくて、お願いできないかしら?」 〇母「いつも和ちゃんにお世話になってるんだから、行ってき

          2 幼馴染の和さんの忘れ物

          飲み友達は乃木坂46!?(西野七瀬 篇)

          どこにでもあるごくありふれた居酒屋。 いい言い方をするなら趣ある、悪い言い方をすれば寂れた、いわゆる赤提灯が似合うサラリーマンが好きそうな酒屋。 そこにひときわ似つかわしくない美女がビールの入ったジョッキを嬉しそうに掲げて目の前に座っている。 七瀬「じゃあ、かんぱーい!」 ○○「かんぱーい」 同じくビールジョッキを掲げて七瀬とカンパイをかわした。 今をときめく乃木坂46の西野七瀬が、おしゃれな星つきのレストランでもなければ、格式のある料亭でもない、こんな庶民的な居酒

          飲み友達は乃木坂46!?(西野七瀬 篇)

          奈々未の嫉妬

          はじめまして、乃木坂46の運営として彼女たちのマネージャーを務める喜多川〇〇と申します。 大変ですが、彼女たちが輝いていく姿を見てると、その手助けができるこの仕事のやりがいは言葉には表しきれません。 ですが、最近はちょっと困ったこともありまして、今日はそんな日常の一コマをご紹介します。 いつものように乃木坂の現場に来て、メンバーが来る前にドリンクやお菓子を用意して、机の配置を変えたりと楽屋をセッティングする。 おはようございます、という声とともにメンバーたちが楽屋にやっ

          奈々未の嫉妬

          3 動き出す時間はキミとの時間

          〇〇たちが慶太の家で飲み始めてかなりの時間がたっていた。 あたりはすっかり静寂に包まれて、空に浮かぶ月の明かりと、等間隔に並んだ街頭が人工的な明かりで照らしている。 〇〇はそんな夜の道を、少しだけふらつきながら歩いていた。スマホと財布をポケットにしまいこんで、近くのコンビニ目指して歩みを進める。 先ほどまで斎藤櫂と小笠原慶太と飲んでいたが、お酒がなくなり、じゃんけんで負けた〇〇が買い出し係に任命された。 そこまで飲み慣れていないお酒を楽しい雰囲気にのせられてかなり飲ん

          3 動き出す時間はキミとの時間

          2 動き出す時間はキミとの時間

          都内某所にあるテレビ局の収録スタジオ。日夜視聴者を湧かせる数多くの番組の収録が行われている。 ちょうどBスタジオでは収録が終わったところだった。 行われていたのは人気アイドルグループ“乃木坂46“の冠番組の収録。 AKB48の公式ライバルとして発足したのはもう2年前。AKBグループの代名詞ともいえる劇場を持たないで、半ば探り探りできた彼女らも、今では本家をしのぐ勢いと人気を博しつつあった。 歌撮りを終えたメンバーたちはスタッフに挨拶をしながら楽屋へと戻っていく。 そのなか

          2 動き出す時間はキミとの時間